初恋ガチ勢

あおみなみ

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第21章 【番外編】テニス部の白い悪魔【メグと大輔】

東京に“寄り道”【メグ】

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 そりゃ今の時代、本なんてネット注文が当たり前かもしれない。

 それでも実店舗で買うならではの楽しさって、やっぱりあると思うのよ。
 たまたま「目が合った」だけの本でも、手に取って拾い読みしてから買うかどうか決められるし、欲しい本が決まっているとしても、ネットでポチってその分のお金をママに渡すのと、実店舗でしっかり手に取って精算するのとでは、なんていうかこう、トキメキが違う。

 というわけで、私は東京の巨大書店に行くことにした。
 うちから自転車で5分程度のところに大きなショッピングモールがあって、その中にもそこそこの規模の書店はあるんだけど、見た目ほど本がない印象なので、ほかの買い物や、ママのおつかいのついでに行くだけだ。

 学校から徒歩5分の距離に住んでいる私は、学校の帰りの「寄り道」というものができない。何しろコンビニすらないんだから。
 だから時々、家に帰らず、制服のまま電車でどこかに行って、寄り道気分を味わうんだけど、東京から通っている友達に「一緒に帰ろ」って声をかけて、喜々として電車に乗ったものだから、さすがに呆れたような声を出された。

「ま、たまにはメグとおしゃべりしながら帰るのも悪くないか」
「でしょでしょ」

 書店がある街の駅(大きなターミナル)でその友達とはお別れ。
 彼女はここからさらに地下鉄に乗り換えて10分とか。毎日大変だなあ。

「じゃ、気をつけて~」
「また明日ねー」

◇◇◇

 ここに来るのは何カ月ぶりかな。

 前回は、ママが土曜日に東京でインタビューの仕事があったので、びっくりさせようと思って、ころあいを見計らって「リブル森林堂新宿店なう」ってLINEしたときか。
 私のママはライターとカフェの経営を掛け持ちでやっていて、私がまだ小さい頃、ライターの仕事で遠征のときは、おじいちゃんたちの家に預けられていたんだけど、中学校以降は1人で留守番するようになっていた。
 でも戸締りさえちゃんとしていれば、どこに出かけようと私の自由だもんね。

「もーっ、びっくりさせて。あんたはそんなことできる年になったんだねえ…」
 書店の近くのカフェでジンジャーチャイをすすりながら、そんな年寄りくさいことを言い出すので、
「ママ、そんなおばあちゃんみたいなことを言うと、檜先輩に嫌われちゃうよ」
 って言い返した。

 その檜先輩も、来年には大学生で、多分そのときもまだママのことが好きだと思う。
 そうしたら晴れて恋人同士。年の差もあるし、いざ交際となったらいろいろ言う人はいるだろうけど、実はちょっと楽しみ。
 私自身は付き合っている男の子とイマイチ盛り上がらないんだけど、今、彼は女より陸上ぶかつって感じだろうから仕方がない。そのうち何とかなるでしょ。

◇◇◇

 エントランスで店舗案内をしっかり確認して、それらしき売り場に行ったら、ありましたともさ、『コトバに永遠の片思い』by吉野堅太郎(近畿文科大学教授)。
 ちょっといい感じのタイトルだけど、内容は多分、吉野先生の私生活に関する自虐的な小話とか、コトバに関するいい意味で斜め上の発想などなどだと思う。
 今まで文庫で買うことが多かったけど、お小遣い出たばかりだし、ハードカバーの新刊を思い切って買うことにしたのだ。

 レジ脇にオリジナルトートもあったから、それも買っちゃおうと考えながらレジに向かおうとしたら、超常現象なんかを扱う本のコーナー(ぶっちゃけあんまり興味ない)で、なぜか吉野先生の本が書架にかかっていた。
 興味のあるものだと、数あるものの中からパッと一瞬で目が行くこういう現象、何か名前なかったっけ?ま、いいや。
 『場違い 間違い オーパーツ』ってタイトルだったんだけど、全く聞いたことがない。
 でも、今なら買えるかもしれないので、チェックしておこうと思ったら、結構高い位置にあったので、手が届かない。
 背伸びして、背表紙の下の部分にやっと指が届いた――と思ったら、横取りされてしまった。

「ねえ、君が欲しいのはこの本かな?」
「え、はい…」
「よかった。どうぞ」
 そう言って手渡してくれた男の子は、オシャレな制服を着ていて、めちゃくちゃ背が高くて、優しい顔立ちのイケメン君だった。

「ありがとうございます…(ん?)」
「君の役に立ててうれしいよ」
 わっ、なんて柔らかな声。
 ぱっちり開いていた目は、笑うと糸を引いたみたいに一直線に細くなる。
 初対面でも警戒心を解かれてしまう雰囲気がある人だと思った。

 でも本をちゃんと見たら、「吉野堅太郎」ではなく「太郎」だった。古野さんという方は存じないんだけど、全く無関係の別人であることだけは分かる。
 でも、せっかく取ってもらったしなあ。どうしよう…なんて悩んでいたら、
「おい、羽鳥。お前なにナンパなんかしてんだよ」
 背後から、少し意地悪そうな声をかけられた。

◇◇◇

「あ、大倉。ナンパじゃないよ。
 この子が本が取れなくて困っていたから」
「冗談だ。そんなちんちくりん、お前の隣じゃ悪目立ちするからな」
「大倉!そんな言い方は失礼だよ。ごめんね」

 羽鳥、と呼ばれたのっぽさんは、私に申し訳なさそうに謝った。
 謝るべきは、こっちの目つきの悪い大倉って人の方だと思うけど。
 まああんなにカジュアルに侮辱した後に突然謝られても、人格破綻者にしか見えないけどね、多分。
「いえ、大丈夫です」

 2人がその場を去るのを見届けてから、私は書架に本を戻そうとした。
 でも、取るのが難しいような場所にあった本だから、戻すのはさらに難しい。
 さすがに踏み台を借りようかなと近くを見回していたら、後ろからあの柔らかい声がした。

「やっぱりね。そんなことだろうと思ったよ」
「え?」

◇◇◇

 そこに立っていたのは、穏やかにほほ笑む羽鳥さんと、ぶすっとした大倉さんだった。
「君、僕にこの本渡されたとき、一瞬変な顔したでしょ?
 何かあるんだろうなと思って、戻ってきた」
「変な顔…」
「あ、君が変な顔って意味じゃないよ?その、不審っていうか、あやしいっていうか…」

 言葉を重ねるごとに、むしろ悪化していく。
 吉野先生がこういう場に遭遇したら、きっと本のネタにするだろうな。
 ちょっとおかしくなった。

「いえ、それはいいんです。間違えたって言いづらくて…」
「遠慮しないで言ってくれれば、戻すくらいお安いご用だったのに」
 すっと私の手から、例のオーパーツ本を取り、難なく棚に戻してしまった。
 私、自分がチビだから特にそう思うのかもしれないけど、背の高い人って、こういうしぐさ一つ取っても優雅に思えるんだ。

「フルケンさんの本、面白いんだがな。女子にはわかんないか」
 大倉さんが別方向からの文句を言ったけど、羽鳥さんはこれに対しても、
「興味の対象って人それぞれなんだからさ」
 って、やんわり注意していた。本当にいい人だなあ。

「君の制服、英明大附属だよね?」
「え、分かるんですか?」
「僕たちはテニス部なんだ。英明のテニス部といえば全国大会の常連だしね」

 そういえば羽鳥さんも大倉さんも、ラケットバッグを肩からかけている。

「結構遠いだろうに、この辺から通ってるの?」
「あ、違うんです。あっちが地元で」
「そうなの?じゃ、気をつけて帰ってね」
「ありがとうございました!」

 私は深々と頭をさげ、2人を見送った。
 恐縮することが多過ぎたせいか、ぐったりしてしまった…。
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