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第17章 いや、あなたも割としつこいのでは…【メグと大輔】
遠い寄り道【メグ】
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高校生になってうれしかったことの1つに、「お小遣いアップ」がある。
私は基本、ものすごく学校の近所に住んでいるし、洋服もサイズや趣味が似ているママと共有が多いし、お昼はお弁当、スイーツも大体ママが作ってくれるという超恵まれた環境ゆえ、ちょっとした小物や本を買うくらいで、あんまりお金を使わない。
高校生活も大分慣れてきた。
もともとそんなにデートできていなかったカイとは、高校に入るとなお遊べる時間が減った。
でも、「お前って存在があるから部活(陸上)頑張れるんだよ」なんて言われると、悪い気はしない。
練習を見にいって、時には「カイ、がんばって!」なんて声をかけていたけれど、高等部から入ってきた先輩に、ちょっと嫌なことを言われたらしい。
中等部からの先輩なら、私も面識のある人が多かったし、からかわれる程度だったんだけど、その先輩は女子のギャラリーに反発するタイプだったのと、カイと競技がかぶっていたことがあり、ちょっと苦々しく思っていたようだ。
しかも次の競技会の選考で、その先輩が選ばれた。
でも、「陸上って誰でも競技会じたいには出られるのかと思っていた」と口が滑って、「今回のはそういうんじゃねえんだよ!」とカイを怒らせてしまい、さらには「お前、何も知らないんだから、もう練習見にくんな」と言われた。
ショックだったし、言葉選べよと思ったけれど、その日のうちにLINEでわびてきたので、「応援にはいけないけど、頑張ってね」とだけ返した。
以来、こちらから何か言うのがちょっと怖くなった上に、向こうからも何も言ってこないので、ぎくしゃくし始めた。
◇◇◇
まあそんな状況で、ちょっぴり増えたお小遣いも出たばかりのタイミングで、中学生の頃から好きだった学者さんのエッセーが出たことを知った。
近畿文科大学の吉野堅太郎という言語学の先生。
たまたま聞いたラジオで、ゆったりした関西弁で話しているのを聞いて、ファンになった。
ぼそっぼそっと、そこはかとなく面白いこと言うんだもん。
「2,000円かあ…」
中学時代までは、少し古いものが文庫で出ているのを買っていたけれど、新刊を発売タイミングで知るのは初めてだ。
しかも、今の私にはお金がある!どーん!
◇◇◇
「で――家に帰らず制服のまま来たと?」
「あー、うん」
「あんたも酔狂だねえ」
私は制服のまま、東京から通っている友人の「下校」に付き合い、都心の大きな書店に買いにいくことにした。
「近所にだって本屋さんくらいない?あの大きいショッピングセンターとか」
「あそこ意外とモノないんだ。絶対取り寄せになる」
「たまにはメグとおしゃべりしながら帰れるのはいいけどねー」
ママに「東京に行くので、1時間門限延ばしてもらえる?」と連絡した。
私は意識的に動かないと「学校帰りの寄り道」という気分を味わえない環境なので、中等部時代から時々こういうことをしていた。
「わかった。気を付けてね。しかしあなたも物好きね」と返事が返ってきた。
まあ、東京までの遠征はさすがに初めてだけれど。
これから行こうと思っている書店は、オリジナルのトートバッグが欲しいといつも思っていたところなので、思い切ってそれも買う予定。
◇◇◇
さすがに巨大な書店だけれど、店内案内を丁寧に見たおかげで、本は割とすぐ見つかった。
しかも平積み。想定外だったけどうれしい。
すぐにレジに行って…と思ったら、全然関係ないはずのコーナーで、なぜか吉野先生の本が書架にあるのが目に飛び込んだ。
「場違い 間違い オーパーツ」なんてタイトルの本。まったく聞いたことがない。
でも、今の私にはお金があるので、この本も要チェックかもしれない。
少し背伸びすれば届きそうな場所だったので、必死で手を伸ばして取ろうとした。
背表紙の下の部分に指が触れ、もう少しで取れそうというところで、すっと横から本を持っていかれてしまった。
「お前が取りたかったのは、これか?」
「え――はい、それです」
私よりたぶん20センチくらい背の高い、目つきは怖いけど、整った賢そうな顔立ち。くせのない髪を、さっぱり切り揃えただけのヘアスタイル。
「お前もフルケンさんのファンか?女子じゃ珍しいな」
「フル?いえ、私は吉野…えーっ!」
表紙に書かれた名前は、「吉野」ではなく「古野」、しかも「堅太郎」ではなく「賢太郎」だった。
「どうかしたか?」
「あの…せっかく取っていただいたのにすみません。人違いだったみたいです…」
顔から火が出そうに恥ずかしい。
でも、このまま放置するわけにもいかず、買っても仕方ないので(古野さんとやら、すみません)、書架に戻すことにした。
しかし、取れないものを戻そうとするのはさらに大変で、「貸せよ。お前の戻し方じゃ、売り物が傷むだろ」と、またもお手間を取らせてしまった。
田舎もんが都心まで来て舞い上がってたのが悪いのかなあ。
本買ったらさっさと帰ろう。
私はその「口は悪いが親切な人」が本を戻すのを確認し、「あの、すみませんありがとうございます私はこれで」と一気に言って、その場を逃げるように立ち去った。
私は基本、ものすごく学校の近所に住んでいるし、洋服もサイズや趣味が似ているママと共有が多いし、お昼はお弁当、スイーツも大体ママが作ってくれるという超恵まれた環境ゆえ、ちょっとした小物や本を買うくらいで、あんまりお金を使わない。
高校生活も大分慣れてきた。
もともとそんなにデートできていなかったカイとは、高校に入るとなお遊べる時間が減った。
でも、「お前って存在があるから部活(陸上)頑張れるんだよ」なんて言われると、悪い気はしない。
練習を見にいって、時には「カイ、がんばって!」なんて声をかけていたけれど、高等部から入ってきた先輩に、ちょっと嫌なことを言われたらしい。
中等部からの先輩なら、私も面識のある人が多かったし、からかわれる程度だったんだけど、その先輩は女子のギャラリーに反発するタイプだったのと、カイと競技がかぶっていたことがあり、ちょっと苦々しく思っていたようだ。
しかも次の競技会の選考で、その先輩が選ばれた。
でも、「陸上って誰でも競技会じたいには出られるのかと思っていた」と口が滑って、「今回のはそういうんじゃねえんだよ!」とカイを怒らせてしまい、さらには「お前、何も知らないんだから、もう練習見にくんな」と言われた。
ショックだったし、言葉選べよと思ったけれど、その日のうちにLINEでわびてきたので、「応援にはいけないけど、頑張ってね」とだけ返した。
以来、こちらから何か言うのがちょっと怖くなった上に、向こうからも何も言ってこないので、ぎくしゃくし始めた。
◇◇◇
まあそんな状況で、ちょっぴり増えたお小遣いも出たばかりのタイミングで、中学生の頃から好きだった学者さんのエッセーが出たことを知った。
近畿文科大学の吉野堅太郎という言語学の先生。
たまたま聞いたラジオで、ゆったりした関西弁で話しているのを聞いて、ファンになった。
ぼそっぼそっと、そこはかとなく面白いこと言うんだもん。
「2,000円かあ…」
中学時代までは、少し古いものが文庫で出ているのを買っていたけれど、新刊を発売タイミングで知るのは初めてだ。
しかも、今の私にはお金がある!どーん!
◇◇◇
「で――家に帰らず制服のまま来たと?」
「あー、うん」
「あんたも酔狂だねえ」
私は制服のまま、東京から通っている友人の「下校」に付き合い、都心の大きな書店に買いにいくことにした。
「近所にだって本屋さんくらいない?あの大きいショッピングセンターとか」
「あそこ意外とモノないんだ。絶対取り寄せになる」
「たまにはメグとおしゃべりしながら帰れるのはいいけどねー」
ママに「東京に行くので、1時間門限延ばしてもらえる?」と連絡した。
私は意識的に動かないと「学校帰りの寄り道」という気分を味わえない環境なので、中等部時代から時々こういうことをしていた。
「わかった。気を付けてね。しかしあなたも物好きね」と返事が返ってきた。
まあ、東京までの遠征はさすがに初めてだけれど。
これから行こうと思っている書店は、オリジナルのトートバッグが欲しいといつも思っていたところなので、思い切ってそれも買う予定。
◇◇◇
さすがに巨大な書店だけれど、店内案内を丁寧に見たおかげで、本は割とすぐ見つかった。
しかも平積み。想定外だったけどうれしい。
すぐにレジに行って…と思ったら、全然関係ないはずのコーナーで、なぜか吉野先生の本が書架にあるのが目に飛び込んだ。
「場違い 間違い オーパーツ」なんてタイトルの本。まったく聞いたことがない。
でも、今の私にはお金があるので、この本も要チェックかもしれない。
少し背伸びすれば届きそうな場所だったので、必死で手を伸ばして取ろうとした。
背表紙の下の部分に指が触れ、もう少しで取れそうというところで、すっと横から本を持っていかれてしまった。
「お前が取りたかったのは、これか?」
「え――はい、それです」
私よりたぶん20センチくらい背の高い、目つきは怖いけど、整った賢そうな顔立ち。くせのない髪を、さっぱり切り揃えただけのヘアスタイル。
「お前もフルケンさんのファンか?女子じゃ珍しいな」
「フル?いえ、私は吉野…えーっ!」
表紙に書かれた名前は、「吉野」ではなく「古野」、しかも「堅太郎」ではなく「賢太郎」だった。
「どうかしたか?」
「あの…せっかく取っていただいたのにすみません。人違いだったみたいです…」
顔から火が出そうに恥ずかしい。
でも、このまま放置するわけにもいかず、買っても仕方ないので(古野さんとやら、すみません)、書架に戻すことにした。
しかし、取れないものを戻そうとするのはさらに大変で、「貸せよ。お前の戻し方じゃ、売り物が傷むだろ」と、またもお手間を取らせてしまった。
田舎もんが都心まで来て舞い上がってたのが悪いのかなあ。
本買ったらさっさと帰ろう。
私はその「口は悪いが親切な人」が本を戻すのを確認し、「あの、すみませんありがとうございます私はこれで」と一気に言って、その場を逃げるように立ち去った。
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