初恋ガチ勢

あおみなみ

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第15章 今年はたまたま2月14日に訪店することができた。【千弦と聡二】

そもそも千弦さんからのプレゼントなら、ほぼ無条件でうれしい。【聡二】

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Any sane person loves chocolate.
(分別のある人はチョコレートを愛する)

ボブ・グリーン

◇◇◇

 聡二が高校2年生、2月14日のエピソードです

◇◇◇

 今日は何ということはない平日だが、学校全体が浮足立っている。
 2月14日、聖バレンタインデーだ。
 10歳ぐらいの頃、バレンタインデーの起源が書いてある本を読んだのだが、結婚の女神ジュノーがどうの、聖バレンタインがどうのといろいろ書いてあって、「諸説あってよく分からない」ということしか分からなかったが、とにかく「愛の誓いの日」という認識らしい。愛とは本当に便利な言葉だ。

 一口に愛といっても、「一つになりたい」「付き合いたい」から「割と好きかも」「嫌いじゃない」まで本当に幅広い。
 だからだろう、俺たち強豪運動部のレギュラーメンバーが、名も知らぬ、下手したら顔も知らぬ女子生徒たちから、これほど多くの贈り物をされるのは。本当に申し訳ない気持ちになる。
 繁華街のしゃれた菓子店や雑貨店だけでなく、何気なく立ち寄る100均やコンビニも、2月に入るとバレンタインムードが漂う。そんな中で、特に好きな男子や付き合っている男子もいないが、パッケージデザインの凝ったチョコレートの1つも買いたい、などと思う女子がいても不思議はない。

 最近は友チョコ、逆チョコも珍しくなく、女子が買って女子にプレゼントしたり、男子から女子にというパターンもあるから、好きにすればいいと思うのだが、せっかくだから男子にプレゼントしたいということで、慎重に人選をする。
 好きでもない男に適当に贈って勘違いをされても困るので、ある程度人気のある男子にブツが集中するのは、「もらい慣れていて勘違いしなそう」というのが大きいのだろう。

 まあ、全部ネットや雑誌、周囲のうわさ話から得た知見だが、一方で、もらい過ぎたチョコレートを無駄なくどうにかできる方法というのは、せいぜいもらえなかった友人や家族と食べるとか、製菓材料にするとか程度しか思いつかない。「受け取らない」しかないのだろうが、それも浮世の義理で難しい。
 一応中等部時代から、顧問や先輩たちから、「手作り品は、見知った相手からの手渡し以外のものは処分するように」と言われてきた。食中毒の被害でも出したら大変だから、それは仕方なかろう。
 それでも甘党の菱沼などは、手作りらしきトリュフを平気な顔でぱくっと口に入れ、「体の中で処分してるんだよ」とうそぶいたりしている。

◇◇◇

 チョコレートを断る最も有効な理由は多分、「付き合っている子に悪いから」あたりだろう。それでも「受け取ってくれるだけで満足です」と食い下がる女子もいると聞くが、健気というよりも、何かよからぬものでも混入しているのではと、逆に警戒してしまうだろう。経験がないから分からないが。

 俺には今、好きで、付き合いたいと思っている女性がいる。
 桜井千弦さんという、まぶしい大人の女性だ。
 彼女にも付き合っている男はいない――と思うが、仕事を2つ持っている女性だし、贈る方は贈る方で浮世の義理を無視できないかもしれない。

 千弦さんと知り合ったのは、3年前の晩夏だった。
 一昨年は2月中旬某日(というか忘日)に訪れ、落ち着いた茶色のスポーツタオルを「よかったら使って」と渡された。すなわち、チョコレート色のアイテムである。

 去年は2月11日に来たが、「たまにはこういう本、どうかな」と、私物の絵本をくれた。
 小さい頃、その作者が描いたいた科学絵本が大好きだったという話をしたのを覚えていてくれたようだ。童話系のものはあまり読んだことがなかったが、カラスの一家がパン屋を経営するという話で、キャラクターの中に「チョコちゃん」という茶色いカラスがいたり、チョコレートを使ったらしい変わり菓子パンが登場したりするので、間接的にチョコレートをもらった気分になれた。牽強付会こじつけではあるが、そもそも千弦さんからのプレゼントなら、ほぼ無条件でうれしい。
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