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第14章 千弦さんは、化粧しててもしなくても魅力的ですよ【千弦と聡二】
今ここで彼女にキスしてしまったら、いろいろと崩れるんだろう。【聡二】
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俺が模擬店で接客している時間帯、千弦さんは来なかったので、休憩時間に入ったとき、ひとまず中等部の校舎に向かった。
芽久美のクラスの展示に行けば会えるかもしれないと思ったのだ。
「あれ、檜先輩」
「あ、ども、先輩」
芽久美は貝沼少年と2人、休憩中のようだ。
「芽久美ちゃん。千弦さんは来ていないのか?」
「さっきうちのクラスに来ましたけど…先輩の方には行っていないんですか?」
「姿を見ていない」
「朝、顔色が悪いとか言ってさんざんいじっちゃったから、珍しくお化粧して来たんですよね。素顔が分からないほどではないけど、いつもと違うかも」
「そうか…」
確かに千弦さんは化粧をしない。肌がきれいで顔立ちが整っているから、髪を整え、営業スマイルを浮かべるだけで完璧なのだ。
しかし、そんな人のメイク顔なら、むしろ見てみたいというものだ。
再び自分の教室の戻ろうとしたら、木崎が小柄な私服の女性と2人、校舎裏に行く姿が見えた。
顔は見えなかったが、後ろ姿で俺には分かる。あれは千弦さんだ。
木崎との先日の会話を思い出し、嫌な予感がした。
◇◇◇
そこそこ距離を取って物陰に隠れていたつもりだったが、木崎が思ったよりも激昂していたようで、なかなかの音量で千弦さんを罵倒している。
「私、檜君が好きなんです。彼をもてあそばないで!」
「あなたくらい大人でキレイだったら、ほかに幾らでも相手がいるでしょ?」
「あんな息子みたいな年齢の子に手を出すとか、恥ずかしくないんですか?!」
「19歳差への一般的な意見」が凝縮されたような言葉ばかりだ。
今のところ、俺の便宜的片思いである。
彼女がもし俺を好いていてくれても、「その言葉」を聞いてしまったら、俺は多分平静ではいられないだろう。そしてうれしさのあまり、情熱に任せて俺が彼女をどうこう」しても、「彼女がたぶらかした」ことになるのだ。
人間、ぼーっと生きていようが、意欲的に毎日を過ごしていようが、生きてさえいれば年齢だけは重ねられる。
あと3年、たった3年辛抱すれば、俺と千弦さんの仲をああだこうだ言うやつがいたとしても、「言いたいやつには言わせておけ」で済むのだ。
だから、どうか邪魔しないでくれ。
俺は君の気持には応えられない。
「木崎…」
「あ、檜君?」
「貴重な休憩時間をくだらないことに使うな。行けよ」
◇◇◇
木崎が逃げるように走っていくのを確認し、千弦さんに駆け寄った。
「大丈夫でしたか?」
「みっともないとこ見られちゃったわね…」
「いや、そんなことは――というか、どっちを見て話しているんですか?」
千弦さんは明らかに意識的に俺から顔を背けている。
「あの…頼むから今は顔を見ないで。それか顔を洗えるところに案内して」
なんだ、そういうことか。
「残念でした」
「ちょっと!」
俺は千弦さんの前方に周り、軽くとがったあごを右手でくいっと持ち上げた。
少し塗りむらのあるファンデーションと、いつもより赤みがさした唇。目元が少し崩れている気がするのは、涙のせいかもしれない。
「お化粧いまいちですね。次からは取材もすっぴんで行った方がいいかも」
「うるさいな。そうもいかないわよ」
「ですね。あの魅力的な素顔を見せられたら、逆にみんなあなたに夢中になる」
「そうやってばかにして…」
周囲に人目はない。意外とチャンスかもしれない。
しかし、今ここで彼女にキスしてしまったら、いろいろと崩れるんだろう。ここはぐっと我慢だ。
「千弦さんは、化粧しててもしなくても魅力的ですよ」
今スマホを取り出して、ちょっと崩れたメイク顔を撮ったら、さすがに怒るだろうか。
芽久美のクラスの展示に行けば会えるかもしれないと思ったのだ。
「あれ、檜先輩」
「あ、ども、先輩」
芽久美は貝沼少年と2人、休憩中のようだ。
「芽久美ちゃん。千弦さんは来ていないのか?」
「さっきうちのクラスに来ましたけど…先輩の方には行っていないんですか?」
「姿を見ていない」
「朝、顔色が悪いとか言ってさんざんいじっちゃったから、珍しくお化粧して来たんですよね。素顔が分からないほどではないけど、いつもと違うかも」
「そうか…」
確かに千弦さんは化粧をしない。肌がきれいで顔立ちが整っているから、髪を整え、営業スマイルを浮かべるだけで完璧なのだ。
しかし、そんな人のメイク顔なら、むしろ見てみたいというものだ。
再び自分の教室の戻ろうとしたら、木崎が小柄な私服の女性と2人、校舎裏に行く姿が見えた。
顔は見えなかったが、後ろ姿で俺には分かる。あれは千弦さんだ。
木崎との先日の会話を思い出し、嫌な予感がした。
◇◇◇
そこそこ距離を取って物陰に隠れていたつもりだったが、木崎が思ったよりも激昂していたようで、なかなかの音量で千弦さんを罵倒している。
「私、檜君が好きなんです。彼をもてあそばないで!」
「あなたくらい大人でキレイだったら、ほかに幾らでも相手がいるでしょ?」
「あんな息子みたいな年齢の子に手を出すとか、恥ずかしくないんですか?!」
「19歳差への一般的な意見」が凝縮されたような言葉ばかりだ。
今のところ、俺の便宜的片思いである。
彼女がもし俺を好いていてくれても、「その言葉」を聞いてしまったら、俺は多分平静ではいられないだろう。そしてうれしさのあまり、情熱に任せて俺が彼女をどうこう」しても、「彼女がたぶらかした」ことになるのだ。
人間、ぼーっと生きていようが、意欲的に毎日を過ごしていようが、生きてさえいれば年齢だけは重ねられる。
あと3年、たった3年辛抱すれば、俺と千弦さんの仲をああだこうだ言うやつがいたとしても、「言いたいやつには言わせておけ」で済むのだ。
だから、どうか邪魔しないでくれ。
俺は君の気持には応えられない。
「木崎…」
「あ、檜君?」
「貴重な休憩時間をくだらないことに使うな。行けよ」
◇◇◇
木崎が逃げるように走っていくのを確認し、千弦さんに駆け寄った。
「大丈夫でしたか?」
「みっともないとこ見られちゃったわね…」
「いや、そんなことは――というか、どっちを見て話しているんですか?」
千弦さんは明らかに意識的に俺から顔を背けている。
「あの…頼むから今は顔を見ないで。それか顔を洗えるところに案内して」
なんだ、そういうことか。
「残念でした」
「ちょっと!」
俺は千弦さんの前方に周り、軽くとがったあごを右手でくいっと持ち上げた。
少し塗りむらのあるファンデーションと、いつもより赤みがさした唇。目元が少し崩れている気がするのは、涙のせいかもしれない。
「お化粧いまいちですね。次からは取材もすっぴんで行った方がいいかも」
「うるさいな。そうもいかないわよ」
「ですね。あの魅力的な素顔を見せられたら、逆にみんなあなたに夢中になる」
「そうやってばかにして…」
周囲に人目はない。意外とチャンスかもしれない。
しかし、今ここで彼女にキスしてしまったら、いろいろと崩れるんだろう。ここはぐっと我慢だ。
「千弦さんは、化粧しててもしなくても魅力的ですよ」
今スマホを取り出して、ちょっと崩れたメイク顔を撮ったら、さすがに怒るだろうか。
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