初恋ガチ勢

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
49 / 49
第14章 千弦さんは、化粧しててもしなくても魅力的ですよ【千弦と聡二】

今ここで彼女にキスしてしまったら、いろいろと崩れるんだろう。

しおりを挟む
 俺が模擬店で接客している時間帯、千弦さんは来なかったので、休憩時間に入ったとき、ひとまず中等部の校舎に向かった。
 芽久美のクラスの展示に行けば会えるかもしれないと思ったのだ。

「あれ、檜先輩」
「あ、ども、先輩」
 芽久美は貝沼少年と2人、休憩中のようだ。

「芽久美ちゃん。千弦さんは来ていないのか?」
「さっきうちのクラスに来ましたけど…先輩の方には行っていないんですか?」
「姿を見ていない」
「朝、顔色が悪いとか言ってさんざんいじっちゃったから、珍しくお化粧して来たんですよね。素顔が分からないほどではないけど、いつもと違うかも」
「そうか…」
 確かに千弦さんは化粧をしない。肌がきれいで顔立ちが整っているから、髪を整え、営業スマイルを浮かべるだけで完璧なのだ。
 しかし、そんな人のメイク顔なら、むしろ見てみたいというものだ。

 再び自分の教室の戻ろうとしたら、木崎が小柄な私服の女性と2人、校舎裏に行く姿が見えた。

 顔は見えなかったが、後ろ姿で俺には分かる。あれは千弦さんだ。
 木崎との先日の会話を思い出し、嫌な予感がした。

◇◇◇

 そこそこ距離を取って物陰に隠れていたつもりだったが、木崎が思ったよりも激昂していたようで、なかなかの音量で千弦さんを罵倒している。

「私、檜君が好きなんです。彼をもてあそばないで!」

「あなたくらい大人でキレイだったら、ほかに幾らでも相手がいるでしょ?」

「あんな息子みたいな年齢の子に手を出すとか、恥ずかしくないんですか?!」

 「19歳差への一般的な意見」が凝縮されたような言葉ばかりだ。

 今のところ、俺の便宜的片思いである。
 彼女がもし俺を好いていてくれても、「その言葉」を聞いてしまったら、俺は多分平静ではいられないだろう。そしてうれしさのあまり、情熱に任せて俺彼女どうこう」しても、「彼女がたぶらかした」ことになるのだ。

 人間、ぼーっと生きていようが、意欲的に毎日を過ごしていようが、生きてさえいれば年齢だけは重ねられる。
 あと3年、たった3年辛抱すれば、俺と千弦さんの仲をああだこうだ言うやつがいたとしても、「言いたいやつには言わせておけ」で済むのだ。

 だから、どうか邪魔しないでくれ。
 俺は君の気持には応えられない。

「木崎…」
「あ、檜君?」
「貴重な休憩時間をくだらないことに使うな。行けよ」

◇◇◇

 木崎が逃げるように走っていくのを確認し、千弦さんに駆け寄った。

「大丈夫でしたか?」
「みっともないとこ見られちゃったわね…」
「いや、そんなことは――というか、どっちを見て話しているんですか?」

 千弦さんは明らかに意識的に俺から顔を背けている。

「あの…頼むから今は顔を見ないで。それか顔を洗えるところに案内して」

 なんだ、そういうことか。

「残念でした」
「ちょっと!」
 俺は千弦さんの前方に周り、軽くとがったあごを右手でくいっと持ち上げた。
 少し塗りむらのあるファンデーションと、いつもより赤みがさした唇。目元が少し崩れている気がするのは、涙のせいかもしれない。

「お化粧いまいちですね。次からは取材もすっぴんで行った方がいいかも」
「うるさいな。そうもいかないわよ」
「ですね。あの魅力的な素顔を見せられたら、逆にみんなあなたに夢中になる」
「そうやってばかにして…」

 周囲に人目はない。意外とチャンスかもしれない。
 しかし、今ここで彼女にキスしてしまったら、いろいろと崩れるんだろう。ここはぐっと我慢だ。

「千弦さんは、化粧しててもしなくても魅力的ですよ」

 今スマホを取り出して、ちょっと崩れたメイク顔を撮ったら、さすがに怒るだろうか。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

吉良 純
2024.07.17 吉良 純

お疲れ様です。

前にも読ませていただきましたが、本当最初から素敵なお話です。

このヒロインの千弦さん、あおさんの要素が50パくらい入ってる感じで魅力的ですね。息子くらいの年下イケメン君に惹かれるシーンとか、まるで作者の願望が込められてるかのようにリアルに描かれてて最高です!

この作品、墓に持ってくから消さないでね。

あおみなみ
2024.07.17 あおみなみ

いつもありがとうございます。

実は再アップに当たり、「2人」の交際が始まるあたりでいったん区切り、
今回は後半部分をR18にしようかと思っています。
お楽しみに!(…と言ってしまってもいいのかな)

解除

あなたにおすすめの小説

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。