初恋ガチ勢

あおみなみ

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第14章 千弦さんは、化粧しててもしなくても魅力的ですよ【千弦と聡二】

「俺の知っている人は、もっとかわいい人だ」

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 学園祭の買い出しで、クラスの木崎きざきという女子と2人でスーパーに行った。
 普段はあまり口を利く女子ではないが、2人だけで行動する気まずさからか、やたらと話題を振ってくる――なんて、空気の読めないことは言うまい。
 俺と木崎が買い出し班の一員になったとき、「2人で行ってきなよ~」と、やたら俺たちに行動を共にすることを勧めた女子は、木崎と中のいい青沼だったし、木崎の様子からしても、俺に興味を持っていることは明白だ。

 俺はただでさえ女子に興味を持たれやすい自覚があるが、俺自身が千弦さんにしか興味がないので、正直重荷でしかない。
 適当に相槌を打ちながら、必要なものをカートに入れていると、向こうから小柄な女性がやはりカートを押してこちらに来るのが見えた――千弦さんだ。日常的な買い物をしている姿も美しい(重症)。

「こんにちは、千弦さん。偶然…」

 俺は左隣にいる木崎のことを気にせず、千弦さんに声をかけたが、当の千弦さんには無視されてしまった。

「…今の人、すごい美人だったね」
「ああ…まあ…」
「檜君、あの人と知り合いだったの?」
「いや――よく見たら人違いみたいだ。俺の知っている人は、もっとだ」

◇◇◇

 さっきまでおしゃべりだった木崎が少し静かになったのはいいが、店を出るなり、「ねえ、参考に本物のカフェを見学しない?」と言い出した。

「今からか?そもそも俺たちは買い出し担当だし…」
「内装担当に何か提案するぐらいいいじゃない」
「しかし…」
「例えば美人オーナーで有名な『さくら』とかさ」
「いや、あそこは営業時間が短いし、今は閉じている可能性が…」
「そうだよね、買い物してたくらいだし」
「あ…」
「さっきの人、『さくら』の店長さんでしょ?」
「――ああ」

 千弦さんの店は小さめなので、「行ったら満席だった」ということまで含め、英明生の一部にはそこそこ知られている。
 加えて、部活の仲間の誰かがしゃべったのだと思うが(多分、異常に社交的な菱沼あたりが)、俺が千弦さんと懇意にさせてもらっていることも、知っている人間はいるのかもしれない。

 その1人が木崎だったようだ。

「挨拶しても無視されちゃう程度なんだよね?」
「…たまたまだ」
「大人の人だよ?相手にされていないんじゃないの?」
「それは…」
「ていうか、いくら美人でオバサンじゃん。変だよ」
「…君には関係ないだろう?」

 俺はどちらかというと表情が乏しい方だと思われているし、自覚もある。
 しかし、このときは多分、「それ以上一言もしゃべるな」と、顔全体で訴えていたのかもしれない。

 その証拠に、そう言われた木崎は怯えを隠し切れない表情だった。
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