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第13章 【番外編】出会いの8年前【千弦と聡二】
「そー、めにー、ぶっくす…」【千弦】
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インタビュー自体の拘束時間は1時間程度で、打ち合わせを含めても2時間程度で済んだ。
社長にファミレスでご飯をごちそうになり、その場でお別れして14時。
帰宅ラッシュ時間を考えても、あと2、3時間寄り道ができそう。
「メグちゃん、どこか行きたいところある?遊園地とかは無理だけど」
「図書館!持ってきた本、全部読んじゃったから」
「ああ――じゃ、ママが行っていた学校の近くのところ行ってみようか。
借りるのはダメかもしれないけど、読むだけなら」
「うん。行ったことないところいきたーい」
たしか我が母校・藤が丘女子短大の近くに、入ったことはないが小さな児童図書館があった。
有名な建築家がデザインしたらしい、パステルカラーとガラス張りが印象的な建物だった。
私鉄各駅停車で15分程度のところで、その路線は帰りも下り方面にそのまま使える。
前々から気になっていたところに寄る、いい機会だと思った。
◇◇◇
行ったはいいが――「図書館って何だっけ?」と言いたくなるほど騒々しい。
大声を出して走り回ったり、ケンカしたりという迷惑行為もさることながら、学齢の大きそうな(何なら中学生もいそう)女の子たちが、夏休みの宿題を山のように積んで閲覧机を占領し、そのくせおしゃべりばかりしているという風景も見られる。
それは、悪い意味での夏休みを実感せざるを得ないものだった。
職員が全く注意しないとは思えない。何度も注意して、あきらめた結果なのではないかと思う。
その一方で、我関せずで場所を何とか見つけ、本をおとなしく読んでいる子もちらほら見える。
私が「いつもの図書館に行こうか?」と言いかけたら、芽久美もまた我関せず派だったようで、絵本コーナーにさっさと行ってしまった。
「ママ、あそこの席に座っているね?」とも不必要かもしれないけれど声を絞って言い、窓際の長いすを指さしたら、首で返事をした。
そこはどうも地味に暑く、机もないため、不人気の席らしい。
そういえば、一応書架の配置は考えてあるんだろうけど、この手のガラス張りの建物って、見た目はいいけど本が日焼けしたりしないのかしらと、今さらながら心配になった。
ともあれ。
私はヤングアダルト系のコーナーにライトノベルも置いてあるのを見つけた。さっきインタビューした女の子が賞をとったレーベルもある。
試しにと適当につかんだ本は、存外しっとりした文章と、世知辛さの中にもちゃんと希望があるような世界観に引き込まれた。
侮っていたつもりはないけれど、ラノベ、侮りがたし。
「自分の意志を持つ小さな車に乗って旅をする少女」の描写の巧みさに軽く酔っていると、私の隣に2人の子供が座った。
芽久美より少し大きい、たぶん小学校低学年という感じの子たち。
私の隣の子は、つんつんした頭にスクエアなメガネをかけていた。「博士」なんてあだ名がつきそうな雰囲気の子。
その隣に、おかっぱ頭で「美形のこけし」という風情の女の子が座った。
2人とも、いすに座ると地面に足がつかない。
子供向けの図鑑をお膝に広げ、大人しく読んでいる。かわいいカップルだなあ。
◇◇◇
しばらくしたら、か細い声で「そー、めにー、ぶっくす…」と聞こえてきた。
声の主はおかっぱちゃんで、私の方を見ている。
どうやら私が肩にかけっぱなしだったトートのロゴを読んでいたらしい。
「すごいな。英語が読めるのね?」
「うん、意味も分かるよ。ボク英語習っているんだ」
おお、まさかのボクっ娘。
「面白い絵だよね」
「ありがとう。おばちゃんの子供は気持ち悪いっていうんだけど」
「だって、ボクもその子とおんなじ気持ちなんだ。
読みたい本がありすぎて、時間がもっとほしいなって」
細い目をさらに細め、熱っぽく語ってくれていたんだけど、メガネ君に注意されてしまった。
「そう思うなら、おしゃべりしてないで読もうよ。ホントは図書館でおしゃべりもダメなんだぞ」
うーん、クールな正論。
「ごめんね、ハル」
ハル君か。しっかり者なのね。
といっても、芽久美が読みたい本を選んで私のところにきたら、「席1つ分、そっちに動こうよ」と言ったのも「ハル君」だった。
賢そうで、そういう細かい心遣いもできて、素敵なカレシでうらやましいわ、おかっぱちゃん。
私たちは(芽久美も含め)そこから特に会話もしなかったが、私たちが席を立ったとき、2人は「バイバイ」って手を振ってくれた。
賢くてしっかりした子たちとの、わずかな交流。
芽久美も好きな本が読めてご満悦だったし、行ってよかった。
社長にファミレスでご飯をごちそうになり、その場でお別れして14時。
帰宅ラッシュ時間を考えても、あと2、3時間寄り道ができそう。
「メグちゃん、どこか行きたいところある?遊園地とかは無理だけど」
「図書館!持ってきた本、全部読んじゃったから」
「ああ――じゃ、ママが行っていた学校の近くのところ行ってみようか。
借りるのはダメかもしれないけど、読むだけなら」
「うん。行ったことないところいきたーい」
たしか我が母校・藤が丘女子短大の近くに、入ったことはないが小さな児童図書館があった。
有名な建築家がデザインしたらしい、パステルカラーとガラス張りが印象的な建物だった。
私鉄各駅停車で15分程度のところで、その路線は帰りも下り方面にそのまま使える。
前々から気になっていたところに寄る、いい機会だと思った。
◇◇◇
行ったはいいが――「図書館って何だっけ?」と言いたくなるほど騒々しい。
大声を出して走り回ったり、ケンカしたりという迷惑行為もさることながら、学齢の大きそうな(何なら中学生もいそう)女の子たちが、夏休みの宿題を山のように積んで閲覧机を占領し、そのくせおしゃべりばかりしているという風景も見られる。
それは、悪い意味での夏休みを実感せざるを得ないものだった。
職員が全く注意しないとは思えない。何度も注意して、あきらめた結果なのではないかと思う。
その一方で、我関せずで場所を何とか見つけ、本をおとなしく読んでいる子もちらほら見える。
私が「いつもの図書館に行こうか?」と言いかけたら、芽久美もまた我関せず派だったようで、絵本コーナーにさっさと行ってしまった。
「ママ、あそこの席に座っているね?」とも不必要かもしれないけれど声を絞って言い、窓際の長いすを指さしたら、首で返事をした。
そこはどうも地味に暑く、机もないため、不人気の席らしい。
そういえば、一応書架の配置は考えてあるんだろうけど、この手のガラス張りの建物って、見た目はいいけど本が日焼けしたりしないのかしらと、今さらながら心配になった。
ともあれ。
私はヤングアダルト系のコーナーにライトノベルも置いてあるのを見つけた。さっきインタビューした女の子が賞をとったレーベルもある。
試しにと適当につかんだ本は、存外しっとりした文章と、世知辛さの中にもちゃんと希望があるような世界観に引き込まれた。
侮っていたつもりはないけれど、ラノベ、侮りがたし。
「自分の意志を持つ小さな車に乗って旅をする少女」の描写の巧みさに軽く酔っていると、私の隣に2人の子供が座った。
芽久美より少し大きい、たぶん小学校低学年という感じの子たち。
私の隣の子は、つんつんした頭にスクエアなメガネをかけていた。「博士」なんてあだ名がつきそうな雰囲気の子。
その隣に、おかっぱ頭で「美形のこけし」という風情の女の子が座った。
2人とも、いすに座ると地面に足がつかない。
子供向けの図鑑をお膝に広げ、大人しく読んでいる。かわいいカップルだなあ。
◇◇◇
しばらくしたら、か細い声で「そー、めにー、ぶっくす…」と聞こえてきた。
声の主はおかっぱちゃんで、私の方を見ている。
どうやら私が肩にかけっぱなしだったトートのロゴを読んでいたらしい。
「すごいな。英語が読めるのね?」
「うん、意味も分かるよ。ボク英語習っているんだ」
おお、まさかのボクっ娘。
「面白い絵だよね」
「ありがとう。おばちゃんの子供は気持ち悪いっていうんだけど」
「だって、ボクもその子とおんなじ気持ちなんだ。
読みたい本がありすぎて、時間がもっとほしいなって」
細い目をさらに細め、熱っぽく語ってくれていたんだけど、メガネ君に注意されてしまった。
「そう思うなら、おしゃべりしてないで読もうよ。ホントは図書館でおしゃべりもダメなんだぞ」
うーん、クールな正論。
「ごめんね、ハル」
ハル君か。しっかり者なのね。
といっても、芽久美が読みたい本を選んで私のところにきたら、「席1つ分、そっちに動こうよ」と言ったのも「ハル君」だった。
賢そうで、そういう細かい心遣いもできて、素敵なカレシでうらやましいわ、おかっぱちゃん。
私たちは(芽久美も含め)そこから特に会話もしなかったが、私たちが席を立ったとき、2人は「バイバイ」って手を振ってくれた。
賢くてしっかりした子たちとの、わずかな交流。
芽久美も好きな本が読めてご満悦だったし、行ってよかった。
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