初恋ガチ勢

あおみなみ

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第13章 【番外編】出会いの8年前【千弦と聡二】

SO MANY BOOKS; SO LITTLE TIME.【千弦】

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おかっぱの、しなやかな髪。怜悧にませて見える、整った顔立。
【豊島与志雄『傷痕の背景』】

◇◇◇

 「実は〇年前に既に会っていました」というベッタベタなエピソードが大好きです。
 某年8月、千弦26歳、芽久美5歳、聡二7歳、出会いは小さな児童図書館でした。既に大人だった千弦はともかくとして、聡二もまた7歳の頃から聡二でした、というお話。

◇◇◇

 私は桜井千弦、26歳。主婦業比率高めのライターである。
 高校時代の投稿がきっかけで、短大の頃から雑誌などで少しずつ仕事をもらい、今はWebでも記事を書かせてもらっている。

 時々はインタビュー記事をまとめることもあるが、大体は事前に日程が分かっているので、そういうときはマイダーリン智也さんの協力を仰いだり、娘の芽久美を幼稚園の延長保育で見てもらったり、実家に頼ったりしている。
 智也さんは何しろ「俺の目の届くところで楽しく暮らしている君を一生見ていたい」とプロポーズしてきた人なので、私がライターを続けることに賛成してくれたし、困ったときは協力してくれる。

 とはいえ、本人も仕事をしている以上、いつもいつも手を貸せるわけではない。
 殊に平日の朝7時、知り合いの編集プロダクション社長から突然かかってきた電話ともなると、手の打ちようもなかった。

「最初は別な人に頼んでたんだけど、旅行先で突然病気になって。今はもう大丈夫なんだけど。結局現地で足止め食らっちゃったみたいで…」

 特に誰という名前の明言はなかったけれど、旅行好きの顔見知りのライターの顔が頭に浮かんだ。
 旅先でのトラブル、それも体調不良ともなれば、さぞ不安なことだろう。

「え…それはなんとも……」
「突然でなかなか引き受け手もいないし、このジャンルはあなたもうまいから、もともとあなたに頼もうかとも思っていて…」

 と、私が何人目か知らないけれど、たぶんみんなに言って“決まり文句”になっているであろう一言も飛び出した。

 私はとりあえず体調も悪くないし、ネックといえば5歳児を放ってはおけないというくらい。当日言われたのがきつかっただけだ。

 後々のことを考えると引き受けたいけれど、断るしかないかなと思っていたら、
「多分今日は取材や打ち合わせで3時間くらいだと思う。
 その間、うちのオフィスでバイトの子が芽久美ちゃんを見ていることもできるし」
「え、いいのかな」
「あの子はおりこうでかわいいからね。大歓迎よ」

 都心某所に9時半までに来られるなら大丈夫ということで、私は智也さんに事情を説明し、芽久美に「ママと一緒に東京に行こう」と言いつつ、身支度と持ち物の準備を始めた。
 夏休みだし、ラッシュもある程度避けられるだろうし、芽久美がお出かけ大好きな子で助かった。
 5歳児が編プロのオフィスで3時間過ごすとなると、身1つでいくわけにもいかない。
 お気に入りの絵本数冊とクレヨン、そしてお絵描き帳をトートバッグに入れて、他の荷物とは別持ちした。

◇◇◇

「えー、ママそのバッグ使うのお~?キモいよ」
「ママが持つんだからいいでしょ。大きくて丈夫なんだし」

 それは生成の大きなトートバッグで、エドワード・ゴーリーの絵と、「SO MANY BOOKS; SO LITTLE TIME.」というロゴが入っている。
 親戚のお姉さんからニューヨーク土産として、まだ高校生くらいの頃もらった。ある書店のオリジナルトートということだけど、その書店は既に閉店しているそうだ。
 生気のない顔をした少年が山積みの本を両手に抱えた絵が気に入っているし、本を入れるにはぴったりなロゴなので、図書館に行くときは必ず持っているのだけれど、芽久美は男の子の顔が気持ち悪くて嫌いだという。
 大分古い上に洗濯を繰り返しているので、もともとさえなかった顔が若干ホラーじみているのは認めるけれど。

◇◇◇

 取材対象インタビュイーは、とあるライトノベルのコンテストで新人賞に入選した高校生だった。
 ユニークな世界観と迫力あるバトルシーンが高く評価されたとのことだけれど、ご本人は真面目な文学少女系の雰囲気のある女の子で、素直にコロコロとよく笑うタイプだった。
 それでいて、一度作品について語りだすと、熱っぽく止まらない。文章化したい物語が頭からあふれそうな感じがよく分かった。
 私には小説家になるセンスも気力もなかったけれど、文章で勝負しようという自負は、新人作家も7年目ライターも同じだと思ったので、敬意を持って、しかし卑屈にもならず、何とかいい感じで話ができたと思う。

 これは押さえておけって事柄は、メールに関連ページのURLをいっぱい貼ってもらい、向かう電車の中で付け焼刃で勉強した。
 本を読むのは好きだけれど、ライトノベルの知識はないに等しい。
 ライターたるもの、もっと視野を広く持たなきゃなと反省した。
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