初恋ガチ勢

あおみなみ

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第12章 特別な1通をしたためるのは、きっとまだ先の話だ。【千弦と聡二】

「ちょっとこいつと2人で話してきます!」

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ペンや万年筆は、使った後、ぬぐっておくものだということを知っていますか。賢人といわれた昔の中国の学者は、顔を洗わない日はあっても、硯を洗わない日はなかったといわれます。万年筆は、ぬるま湯で時々掃除することです。

中谷宇吉郎『鉛筆のしん』

◇◇◇

終始一貫、聡二視点のお話です。

関連エピソード 
第9章『「気持ちが悪いやつだな」と言われ、「お前が言うなよ」と返した。【千弦と聡二】』

◇◇◇

 正式には4月の入学後に入部する予定だが、高等部の硬式テニス部の練習には顔を出すようになった。
 東京の星雲学園でやはり高等部に進学予定の猪川清春(ハル)も同様のようで、早くもそこそこしごかれているようだ。

 たまたま休養日が一致したので、「今度こそ『さくら』に一緒に行ってみないか?」と誘ったところ、「…そうだな、行ってみたい」と、不思議な間を置いて返事があった。

◇◇◇

 俺はハルと英明の最寄り駅で待ち合わせした。

 ハルをからかうつもりで開口一番、「例のボールペンはか?お前のことだから、リフィルを大分交換したんじゃないか?」と言ってみた。
 ハルが美人の落とし物を拾ったお礼に、映画ノベルティ品の派手なボールペンをもらい、まんざらでもなさそうだったのを思い出したのだ。

「ああ、まあ…中身は「スムーズ(商品名)」だからな。書きやすい」
「大事に使っていたら、その人に会えるかもしれないぞ」
「何だそれは?」
「まああれだ、徳を積むとでもいうのか?物を大事にするのはいいことだ」
「…聡二がそんな観念的なことを言うとはな」
「理屈じゃない。お前も恋をしたら分かる」
「言ってくれるな…」

 俺は千弦さんに「3年後、俺が大学に合格したとき、恋人になってくれ」と告白したばかりで(実際にはもっと丁寧に言ったが)、4月からは待望の高校生活も始まる。自分で思うより浮かれ、調子に乗っていたのだろう。

「そういえば、思い出したんだが」
「何だ?」
「千弦さんも、お前がもらったのと似たボールペンを店で使っていた」
「…え?」
「千弦さんのはピンクのボディに水色のロゴだが、フォントや模様はよく似ている。きっと色違いだな」
「そうかなのか…」

 駅から「さくら」までの道すがら、そんな話を振ってはみるが、ハルがあまり乗り気には見えない。
 もっともこいつはいつも不愛想なのだが、そういう言葉で説明できない、うっすらしたぎこちなさが気になった。

◇◇◇

「いらっしゃいませ」

カラン、というドアベルとともに、千弦さんの心地よい声で迎えられた。

「聡二君、いらっしゃい。お友達の…あら?」
「どうも…」

 そこでハルが少し顔の角度を下にむけ、左の側頭部を軽くかいた。照れているとき、よくこんなポーズを取るので、それ自体はおかしくもないのだが、千弦さんがハルを見てこう言ったのは予想外過ぎた。

「あのときボイレコを拾ってくれた人よね?」
「あー、はい」
「本当に助かったわ。あのとき映画監督のインタビューだったんだけど、お渡ししたボールペンの…」

 俺は千弦さんが全部言い終わる前に、衝動的にハルの腕を取り、「ちょっとこいつと2人で話してきます!」と言い残して店を出た。

「え、聡二君?」
「すぐ戻りますから」
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