初恋ガチ勢

あおみなみ

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第3章 今日はお母さんは来ていないのか?【千弦と聡二】

もう、何なの、この子は。【千弦】

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 芽久美たち1年D組は、模擬キャンプ場をやっていると聞いた。
 キャンプの趣味がある親御さんからテントや道具を借りて、教室内にそういったものを設営したり、レンガ風に色紙を張った紙箱で窯のようなものを組んだり、聞いただけでも楽しそうな出し物に思えた。
 行ってみると、小さな子供に大人気で、30女が一人でうろうろしづらい雰囲気がある。
 私の顔を覚えていてくれた女の子が、
「桜井さんたち、間もなく休憩から戻ってくると思います」
 と、飲み物を勧めて待っているように言った。

「ありがとう。いただきます」
 と、のんきにオレンジジュースなど飲んでいると、背後で
「あーっ、ママ来てた~」
 という素っ頓狂な声がした。
「芽久美…あ…」
 休憩から戻ってきたらしい芽久美とサエちゃんと一緒に、背の高い上級生の少年が立っていた。
「また会えましたね、千弦さん」
「え?」
「ウェブでインタビュー記事を拝見しました。俺のこと…」
「ええ、叔父さんの店で日本茶を頼んでくれた人ね。まさか本当に中学生だったなんて」
「…?」
 あれ、私何か失言した?

◇◇◇

「じゃ、私はほかを見てくるね」とその場を去ろうとすると、「檜君」が私の脇に走り寄ってきた。
「このキャンパス内はかなり広いですよ。俺は今休憩中ですし、ご案内しましょう」
「あ、あの…」
「つかぬことを伺いますが、俺の名前分かりますか?」

「たしか…檜聡二君?」
「やっぱり。千弦さんは何らかのルートで俺のことを知ったのですね?中学生だということも」
「ええ、芽久美が見せてくれた学校の広報で」
「ああ――関東大会のときのですね。つまりあの写真を見て、芽久美ちゃんに俺の名前を聞いたということですか?」
「あ、その、ええと…」
「さっき「本当に中学生だった」っておっしゃったじゃないですか。
 つまり、俺が中学生だと分かる情報が何かあったが、疑わしい部分があった。
 しかし本物の俺の出現で確定した、という意味でしょう?」
「なるほど、そうね…」
「実は今のはほぼ俺の願望だったんですが、
 少なくとも「当たらずも遠からず」ってところだったようですね」
 あ…私やっぱりしゃべり過ぎた?

◇◇◇

「しかし、正直そんなことはどうでもいいんです。
 問題は、あなたが何を思って俺の名前を確認したかです。
 俺のように地味な顔立ちの目立たない人間が、
 きちんとあなたの記憶にあったということだ」

 ええっ、そうかなあ。
 中学生にしてこの長身だけでも大分…いや、中学生だと知らなかったんだけど。

「うん…あなたが目立たないタイプとは思わないけれど、私はあなたを覚えていたわ。
 といっても、1日限定の助っ人ということもあって、お客様はみんな印象に残っているけれど」
「では、試しに問題を出しましょう。
 俺が店を出る前に来店した常連さんらしき男性の腕時計がどういうものだったか、あなたは覚えていますか?」
「え?」
「俺は覚えています。目に入ったもの、耳に入ったものをデータとして蓄えるのが習い性になっているようです」
「黒い…革ベルト…?」
 私は全くやる気のないあてずっぽうを言ってみた。
「不正解です。答えは銀色の金属ベルトで、時計の盤面はブルーでした」

「…はい、降参。私はそこまで覚えていないわ。
 確かに「あなただから」覚えていたのね」
「…実は今のは適当に言ったにすぎません」
「まあ!」
「だましてごめんなさい。
 でも、こうして詳しく情報を言われると、信憑性が増すんですよ」
 いたずらっぽい顔で笑いかけられて、どきっとする。
 早まるな、相手は中学生ぞ。

「何にせよ、写真云々は言い当てたわけです。ご褒美をください」
「ご褒美?」
「俺はこれから――というか既に呼んでいますが、
 あなたを「千弦さん」と呼ぶので、俺のことを「聡二」と呼んでください」
「それがご褒美?罰ゲームの間違いじゃなくて?」
「俺の名前を呼ぶの、イヤですか?」
「逆、逆。私みたいなおばさんにそんな馴れ馴れしい呼び方されるの、イヤじゃない?」
「おっしゃっている意味が分かりません。
 お互いを特別の存在だと感じさせるのは、やはり名前呼びが最適ではないかと思うんですが」

 もう、何なの、この子は。

◇◇◇

 もう一度会いたいと思ったら、中学生だと知った。
 「そういう気持ち」を抱くの自体がダメだと諦めたら、こうやって仕掛けてくる。
 何を言い出すかわからなくて気が休まらない。

「あ、そうそう。今日、ご主人は一緒じゃないんですか?」
「あ、私は独身シングルだから…」
「そうでしたか、それは大変失礼しました」

 不意打ちについ口が滑ってしまったけれど、うそでも「今日は仕事で」とか言うべきだったか。
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