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第16章 エンディングβ

手を取る

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初めてのキスのときでさえ、思い出すことは…

***

「ねえ、カノジョって、具体的にの?」
「何って…随分大胆なこと聞くな。それともカマトトっていうやつか?」
「だって本当に分からないんだもん。男の子とお付き合いしたことないし。日高君は女の子と付き合ったことあるの?」
「あー、まあね。あれをそう呼んでいいならってやつが」
「日高君は初心者じゃないのか。じゃ、いいか」
「それじゃ…」
「はい…私でよければよろしくお願いします」
「マジ!やったー!コーラ買って帰ろ?乾杯だ!うち来なよー」

 なんか一気にいろいろ言われた。

 このときどんな気持ちだったのかと言われれば、それはもう「軽い気持ち」としかいいようがない。
 日高君にうまく丸め込まれた――そんな責任転嫁は卑怯だけれど、そうとしかいいようがない。

 どんなに好きでも、こんな気持ちではレイとは付き合えない。
 そして日高君のことは「結構好きだし、付き合ったら楽しいかも」と思っている。
 日高君の差し伸べた手を取ることこそが、私のすべきことのような気がした。
 「誰とも付き合わない」って選択肢もあるわけだけど、日高君のことだから、断ったとしてもぐいぐい来るだろう。

 最低な言葉を使えば、「断るのが面倒くさかった」のだ。

◇◇◇

 クリーニングのお店の方で日高君のお父さんに、おうちの方でお母さんにあいさつした。
 一応「クラスメートで部活も一緒で」って説明して、お二人とも歓迎してくれたみたいだけど、お母さんの方には、「あんたにこんなかわいいカノジョができるなんてねえ。片山に来てよかったねえ」ってあけすけに言われてしまった。
 そういえば日高君は、お母さんには大分前から私の話はしていたみたいで、玄関口で顔を合わせた瞬間に、「まつりちゃん?あなたまつりちゃんね?」と言い当てられた。

◇◇◇

「母ちゃんがちょっとウザ絡みしちゃって、悪いな」
「そんなことないよ。きれいだし、楽しそうなお母さんだね。ちょっとゆ…」
「わー、言うな。それは聞きたくない」
「ふふ…」

 背が高くてしゅっとしていて、それでいて何だかオトボケの雰囲気。
 日高君も自分のお母さんと優香がちょっと似ているって思っていたみたいだ。


「オレの部屋ってこたつがないんだ。電気食うからみんなで使うとブレーカー落ちるって。今時こんなの、見たことあるか?」
 それは少し古いタイプの灯油のストーブだった。

「あ、これ今買おうとすると結構高いんだよ。ママが時々煮込み料理に使ってる」
「そうなのか?」
「うん、もち焼いたり、干し芋あぶったり、結構便利だよ」
「そっか。おれはこたつで首っ切りになって寝るのが好きだなあ」
「風邪ひいちゃうよ…」

 そんなことを話していたら、日高君が突然後ろから抱き着いてきた。

「へへ。まつりの体、あったかい♪」
「ちょっと!」
、しばらくこうさせてよ。変なことしないから」
「う…ん」

 私、今日から日高君の「カノジョ」だもんね。
 これくらいは普通…なのかな?
 別に嫌じゃないけど、とても不思議な感じだ。
 昨日レイが泣き止むまで私にしがみついていたけれど、こういうのとは違う。
 ――って、こんなときレイのことを思い出すのはまずいか。

「なあ、キスしてもいいか?」
「え?」
「嫌なら嫌って言えよ。オレはキスしたいけど、お前の嫌がることはしたくないんだ」
「…してもいいよ」
「本気にするぞ」

 なぜか日高君は、部屋の電気を消した。
 カーテンは閉めていないから、家の前の小さな児童公園の夜間照明の光が部屋に入ってくる。
 日高君は私の前にしゃがんで、じっと目を見た。
 ストーブの芯の部分が赤橙色に燃えていて、顔が赤く見える気がする。

 目つきが鋭いからちょっと怖いけど、やっぱり整った顔をしているな。
 いつだったかお姉ちゃんが言っていて、優香がキャラ絵を見せてくれた、テニス漫画の「雪ノ下学園の綱島一馬君」に、なるほど少し似ているかも。

「まつり、お前本当にかわいい」
 そう言いながら、私の両ほほを両手で包んで唇を重ねた。
 とても優しくて、温かくて、キスって悪くないなと思った。

 私は「これがレイだったら…」って思いながら、日高君に身をゆだねていた。

 私、本当にさっきから最低だな。レイだったら一体何なの?
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