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第13章 立て続けの12月
日高君の告白
しおりを挟む翌日にはレイと私の間は、わかりやすくぎくしゃくしてしまった。
もうすぐクリスマスで、ちょっとしたパーティーやろうという話になって、「ぜひオレんちで」って日高君が名乗り出て、ものすごく盛り上がっているというのに。
レイは「オレ、塾があるから」って、いつもより30分くらい早く上がった。
「塾がある日」のいつもより30分早くってこと。
喜多川君が「あいつ、何か今日変だったね?何かあったのかな?」と素朴に疑問を言う。さらには「桐野何か知らない?」と、こっちに流れ弾。
私もポーカーフェイスは得意じゃないから、「さあ、知らない」って、「何かある確率、85%」くらいの態度で返すしかできない。
で、優香も喜多川君も基本的に気を遣う子なので、「ま、悩み多き年頃よ。そっとしとこ」「そうだな」ときれいにオチがつく。
◇◇◇
そして案の定というか、日高君1人だけが納得していなかった。
あまり彼に絡まれたくなくて、「部室の鍵は私が戻しとくね」って職員室に率先して行ったけど、校門前で待ち伏せされた。
さらに、無視して通り過ぎようとしたら、後ろからマフラーをつかまれてしまった。
「ぐえ…何すんのよ」
「マフラー、コートの内側に巻けって規則守んないやつが悪い。引っ張ったのが変質者のおっさんとかだったらどうする気だよ?」
日高君は転校生の生真面目さ?から、生徒手帳の校則をよく読み込んでいたようだ。
「斉木と何かあったんだろ?」
「…何もないし、あっても日高君には関係ない」
「冷たいねえ。尻の軽い相談女よりはましだけどさ。告白でもされた?」
「!」
「あ、もう隠しても無駄だ。顔に感嘆符出てんぞ」
「うるさいな!」
しゃかしゃか足を動かすけれど、私より身長が20センチくらい高い彼は歩幅も大きい。
すぐ追いつかれる。
「で、斉木があの態度ってことはさ。まつり、斉木のこと振っちゃったの?」
「……」
「答えないと、ここででかい声で言っちゃうよ?『えー、2年1組のさ…』」
「やめてよ!」
「何か困ってんなら言ってみろよ。相談女なんて思ってないからさ」
◇◇◇
もうこうなったらヤケだ。
「…私からレイに告白して、見事に振られたの。言いふらしたきゃどうぞ」
「それはうそだな。まつりは絶対、斉木には告白しない」
「どうしてそう言い切れるの?」
「まつりは自分のこと、ぱっとしない女子だと思ってるから」
はい。そうですが、それが何か?
「で、そんな自分があんな高スペック男子に告白するのは犯罪だ、ぐらいに思ってる」
いや、そこまで卑屈では…いや、割と…か。
「端から見たら、斉木がまつりにベタボレなのは丸わかりだよ?『まつりがもてないのはどう考えても斉木が悪い』ってね」
何だか優香が持っていた漫画のタイトルみたいなフレーズが出てきた。
「まつりって意外ともてないだろ?告白とかされたことないんじゃね?」
「意外でもないけど、どうせもてないよ!告白もされたことないし!」
「それ何でだか分かるか?男子はみんな、まつりのこといいなって思ってても、斉木の好きな子には手を出しても無駄だって思ってるからだよ」
「またそうやって…」
「ホントだって。女子にすれ違いざまにひどいこと言われるのも構造は一緒。結局、斉木に好かれてる女子がねたましいやつが喚いてるだけなんだ。お前が遠慮する義理も必要も、ひとっつもねーのに」
「…」
「なあ、一つ聞くけど、お前は斉木のこと好きか?」
「そりゃ…好きだよ。昔から大好きだった」
「でも、なぜか斉木はまつりに振られてあの調子だ」
「……」
◇◇◇
「で、なんで断った?」
「だって…もしレイが私以外の人を好きになったら、絶対その人もレイを好きになるんだよ?そんなことばっかり想像しながら付き合うなんて無理だよ…」
「まつりはレイと結婚して、死ぬまで一緒にいるつもりなの?」
「そ、そこまで考えたことはないけど!」
「今好きならそれで十分じゃん。何でそう堅苦しく考えるかねえ」
「だって――レイは本当に、すごく素敵な人だから」
「というかさ、もし付き合ったとして、まつりが心変わりする可能性だってあるだろ?」
「ないよ!」
「きっぱり言われた。そこまで言い切れるくらい好きなんじゃねえの?」
「だから辛いんだよ。そこまで好きな人にふられるかもって…浮気されても責めることもできないよ」
「なんで?」
「私に魅力が足りないからで、レイは悪くないってきっと思うもん」
「思ったより重症だな…」
「悪かったわね!」
◇◇◇
「じゃさ、そこそこイケてて、浮気されても一発殴れば気が済みそうなのと付き合ったらどう?」
「え?」
「相手が斉木だからそこまで思いつめるなら、もう軽薄路線でいいじゃん。俺なんかおススメだけどね」
日高君はそう言いながら、自信満々の様子で自分の顔を指さした。
ここまで軽々しく来られると、もう笑うしかない。
「そうだね。日高君と付き合ったらきっと楽しそう」
頭の回転が速くて、社交性が高くて話しやすい。確かにこんな人がカレシだったら楽しいだろう。
「じゃ、付き合おうよ。斉木もその方が吹っ切れるんじゃね?」
「うーん、そういうのはちょっとなあ…」
もう「青いコンビニ」の前。すぐそこは日高君の家だ。
「俺、転校前、ことしの3月の末に、このコンビニでお前のこと見たことある」
「あ…」
「まつりは斉木と2人で楽しそうで、俺もあんな彼女欲しいなって思った」
「お姉ちゃんが…言ってた…それ」
「あ、やっぱ聞いたか。仲良くなれたからどっちでもいいやと思って、直接は話さなかったけどな」
まだ5時だけど、12月だから真っ暗だ。
それでも日高君の真剣な、そして照れくさそうな顔がわかる気がした。
「斉木に比べたら歴は短いけど、俺だって昨日今日お前のこと好きになったわけじゃないよ?」
コンビニの雑誌コーナーの前に差し掛かり、ぱっと明るくなったところで日高君が足を止めて言った。
「勢いで言うみたいで悪いけど、俺はまつりのことが好きだ。付き合ってくれ」
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