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第7章 Day by Day

14歳の夏

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 そうこうしているうちに期末テストも終わり(結果はまあ、みんないつも並み)、もうすぐ夏休みだけど、今年はプール開きも水泳の授業もなさそうだ。
 市民プールも、今年だけは18歳以上の人しか入場できないといううわさがある。とんだR-18だわ。
 お姉ちゃんと明日香さんは、辛うじて夏休みまでにはどちらも18歳なので、「ガキのいないプールで優雅に泳いでくるわ」と言っていた。
 水に入っている間は放射線は関係ないって言う人もいるけれど、この状況で水泳の授業をすると、保護者からも反発もありそうだから、仕方ない。
 多分、結局市民プールもガラガラだろうな。

 今年ほど、去年までの夏を愛おしく思える夏はないだろう――なんちゃって。

◇◇◇

 レイの通っている塾の、外部生のための夏期講習に誘われた。
 コレを受けておけば2学期以降に入塾するとき、入塾金がサービスになるという特典もあるらしい。

「1人勧誘するごとに1枚、500円のプリペイドカードがもらえるんだ。入塾した方にも出るらしいし」

 レイはそう説明していたけれど、まさかそれを目当てに勧誘するとはとても思えない。
 私の数学の成績を心配して、さらに(打算的なことを言って)私の心理的な負担を軽くしてくれているんだろうと解釈した。

「そうだねえ。来年は3年生だし、塾もそろそろって思ってたから」
「よし、ーまり。申込書は後で家まで持っていくよ」
「ありがとう。あ、喜多川君たちには声かけた?」
「あー…喜多川君と南原さんは、既に別なところに申し込んだらしくて」

 うちの学校の正門前を初め、比較的近所にも幾つか塾があって、うちの生徒はそこに通うか、夏期講習に行くかって人が多いんだけど、レイの通っている塾は少しだけ遠くにあるのだ。せいぜい隣の中学校区との境目って程度だけどね。

「日高君は?」
「喜多川君のところでもオレの塾と同じような制度があるらしくて、誘ったらしいよ」
「じゃ、大丈夫か。でも…」
「どうかした?」
「レイが通っているところ、レベル高いって聞くけど、ついていけるかなあ」
「あー、それよく言われるけど、実際そこまででもないんだよ」

 レイが通っている塾は市内に4、5校あるのだが、どこも「片山中央高生の7人に1人は本塾受講者です!」とか、大々的に宣伝を打っている。
 よその塾が、休み中の講習だけとか、時には1日体験や模試を受けただけという人まで「進学実績」に入れているのに対し(これもうそか本当かわかんないけど)、レイのところは「うちはレギュラー通塾生だけの実績だかんね!」を強調するせいで、そういうふうに見られがちだというのだ。

「まつりちゃん、国語とかは俺より点数高いことだってあるじゃない?とりあえず夏期講習を受けて様子見て、2学期になってから、数学だけのクラスに通うってのはどうかな」
「そうだね。そこは前向きに考えてみるよ」

◇◇◇

 みんなそれぞれちょっとした予定があったけれど、それ以外の予定の合うときは、一緒に宿題をしたり、話題の映画を見にいったり、プラネタリウムに行ったりしようと、ざっくりプランニングした。
 うわさどおり市民プールは入場者の年齢が制限され、県内の海開きや湖水開きはぜんぶ中止になった。

 公園や学校には、「モニタリングポスト」と呼ばれる放射線量をはかる装置が設置されるようになった。これで誰でも一目ひとめで空間線量が分かる。

 そういうものが置かれない小さな公園でも、「除染じょせん」といって、土砂や木の葉を取り除いて線量が下がるように環境を整えている。
 作業が終わると、金属製の看板に除染前と除染後の数値が書かれるので、その落差にびっくりしたり。

 私たちが住んでいる地区は、最近は0.5マイクロシーベルト/hパー・アワーを上回ったり切ったり。
 場所によって3.0近かったりとか、異常に高く出るところがある。
 風向きや地形の関係なのか、いわゆるホットスポットになりやすい地点というのがあるようだ。
 何となくの印象だけど、片山の場合、旧市街地の中でも駅に比較的近い「街っぽい」ところは数値が高く、郊外に行くと少し落ちて、農村部ではさらに落ちる。

 公園で遊ぶ子供の姿は見えないけれど、むしろ人のいない公園でいい雰囲気のカップルはたまに見かける。
 そういう公園にも、当然モニポは設置されている。

 「ねえ、この公園1.0切ってるわ」「ラッキー。安心して過ごせるね」とか、「私はそんなんじゃ満足しない。0.1切らない限り、絶対外ではデートしないからね!」ってもめたりとかしてるのかな?

 そんな話をしたら、優香や喜多川君には、ローカルジョークのネタになりそうだねって笑われた。
 そういえば、レイはこういう話題が嫌いみたいで、時にはひどく不機嫌になる。
 さらに言うと、そういうときに限って日高君がレイをいじるので、余計に悪化することもある。

 正直言って放射能に関しては、理詰めで説明されても感情に訴えられても、いまいち納得できないところがある。
 だから、この数値ならもう大丈夫って安心し切っているわけでもなくて、すこし自虐を含んだかんじで言っているつもりなんだけど、基本的に真面目なレイにとってはタブー案件なのかもしれない。

 私が軽い気持ちで言うことでレイが不愉快になるのは申し訳ないので、「ごめんね、軽率だった」って謝る。
 そうすると、いつもの優しい表情を取り戻してから、「まつりちゃんが悪いわけじゃないよ。オレこそごめん」って、頭をポンポンしてくるんだ。
 もう身長差が20センチ以上あるから、子供扱いされているみたいで複雑だけど、優香がニヤニヤして「おー、イケメンの特権。頭ポンポンいただきました!」って混ぜっ返したりする。
 ああ…またレイのファンの女子に、すれ違いざまに「調子乗んなブス!」とか言われるんだろうな。
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