5 / 6
12月26日
しおりを挟む
その日は前々からの約束で、2歳年下のはとこのヨリコちゃんが東京から来た。
大人(3つ上の兄を含む)は手が離せなかったので、私が1人で駅まで迎えに行った。
「2人で駅前で何か食べて、バスで帰ってくる」ための軍資金として、2,000円くらい持たされた。
ここまで書いて、二つの重要なことに気づいた。
その1、当時の片山は、まだ新幹線が通っていなかった。
その2、ヨリコちゃんは1人だった。
特急か、当時はその時間に走っていたかもしれない急行に乗れば、各駅停車を使うよりも1、2時間カットできる。
また、ヨリコちゃんは家から離れた私学に通っていて、電車慣れしていた。
この二つも思い出したけれど、私より小さな子が、それだけの時間をかけて単独で来たのはやはりすごい。
駅で会うなり、「田舎ってやっぱり寒いねえ」がヨリコちゃんの第一声だった。
ちょっとカチンと来たけれど、私は24日から25日までの非日常的な経験の興奮が残っていたので、そのあたりをヨリちゃんに語って聞かせようと思った。
「お店入ろう。ドーナツ屋さんなら子供だけでも大丈夫だよね」
「マクドナルドはないの?」
「ない…」
「じゃ、ドーナツでいいか」
ヨリコちゃんはとてもとても素直で率直だった。
その分、父が雪男状態で家に帰ってきた話とか、超ミクロな小火さわぎのこととか、祖母が作ってくれたホットチョコレートの味とか、個人的なトピックスを聞かせたとき、手を叩いて大笑いしたり、「私も飲みたーい。大おばちゃん(私の祖母のこと)作ってくれるかな」と、非常にいいリアクションをもらえたので、「ああ、面白いって思ってくれたんだな」と安心した。
ただ、私には少しだけ残念なことがあった。
名前だけで「おいしそー」と思って買った「レモンパイ」が、苦手だったレモンのマーマレードがどろっと入っただけの揚げパイで、あまり口に合わなかったのだ。
飲み物として添えたのが、普段あまり飲ま(せてもらえ)ないコーラだったこともあり、さらに合わないの何のって。
食べ物の思い出というのは、よくも悪くもつきまとう。
+++
26日になってもガスは復旧していなかったので、その日の夕飯も、かき集めた「ごはんの友」的なものやふりかけ、お茶づけみたいなラインナップだった。
お風呂は近所の銭湯に行った。
「番台で三味線を弾くおじさん」というのが、かなり前の『ぴったしカンカン』でクイズのネタになったこともあるトコロで、その日も三味線の音が聞こえたので、ヨリコちゃんは「あー、テレビで見た~」と大はしゃぎだった。
ヨリコちゃも私も、大きな湯舟につかってゴキゲンだったけれど、陸湯をかぶるときに、勢い余ってよそのおばあちゃんにかかってしまい、大人たちの大目玉を食らった。
(当時はその辺の大人がその辺の子供をきつく叱るのは、普通のことだった)
腰に手を当てて飲むフルーツ牛乳は、何だか小児科でもらう水薬みたいな甘さだった。
こうして並べてみると、小6ってまだまだ子供だったのだなと思う。
ヨリコちゃんは我が家に1泊した後、同じ市内にあるお祖母ちゃん(私の祖母の妹)の家に行って、そこで年越しをした。
ヨリコちゃんのお母さんがその年離婚し、ヨリコちゃんが学校の長期休暇の間は、気晴らしも兼ねて親戚宅を転々としていたのだと知ったのは、大分後になってからだった。
大人(3つ上の兄を含む)は手が離せなかったので、私が1人で駅まで迎えに行った。
「2人で駅前で何か食べて、バスで帰ってくる」ための軍資金として、2,000円くらい持たされた。
ここまで書いて、二つの重要なことに気づいた。
その1、当時の片山は、まだ新幹線が通っていなかった。
その2、ヨリコちゃんは1人だった。
特急か、当時はその時間に走っていたかもしれない急行に乗れば、各駅停車を使うよりも1、2時間カットできる。
また、ヨリコちゃんは家から離れた私学に通っていて、電車慣れしていた。
この二つも思い出したけれど、私より小さな子が、それだけの時間をかけて単独で来たのはやはりすごい。
駅で会うなり、「田舎ってやっぱり寒いねえ」がヨリコちゃんの第一声だった。
ちょっとカチンと来たけれど、私は24日から25日までの非日常的な経験の興奮が残っていたので、そのあたりをヨリちゃんに語って聞かせようと思った。
「お店入ろう。ドーナツ屋さんなら子供だけでも大丈夫だよね」
「マクドナルドはないの?」
「ない…」
「じゃ、ドーナツでいいか」
ヨリコちゃんはとてもとても素直で率直だった。
その分、父が雪男状態で家に帰ってきた話とか、超ミクロな小火さわぎのこととか、祖母が作ってくれたホットチョコレートの味とか、個人的なトピックスを聞かせたとき、手を叩いて大笑いしたり、「私も飲みたーい。大おばちゃん(私の祖母のこと)作ってくれるかな」と、非常にいいリアクションをもらえたので、「ああ、面白いって思ってくれたんだな」と安心した。
ただ、私には少しだけ残念なことがあった。
名前だけで「おいしそー」と思って買った「レモンパイ」が、苦手だったレモンのマーマレードがどろっと入っただけの揚げパイで、あまり口に合わなかったのだ。
飲み物として添えたのが、普段あまり飲ま(せてもらえ)ないコーラだったこともあり、さらに合わないの何のって。
食べ物の思い出というのは、よくも悪くもつきまとう。
+++
26日になってもガスは復旧していなかったので、その日の夕飯も、かき集めた「ごはんの友」的なものやふりかけ、お茶づけみたいなラインナップだった。
お風呂は近所の銭湯に行った。
「番台で三味線を弾くおじさん」というのが、かなり前の『ぴったしカンカン』でクイズのネタになったこともあるトコロで、その日も三味線の音が聞こえたので、ヨリコちゃんは「あー、テレビで見た~」と大はしゃぎだった。
ヨリコちゃも私も、大きな湯舟につかってゴキゲンだったけれど、陸湯をかぶるときに、勢い余ってよそのおばあちゃんにかかってしまい、大人たちの大目玉を食らった。
(当時はその辺の大人がその辺の子供をきつく叱るのは、普通のことだった)
腰に手を当てて飲むフルーツ牛乳は、何だか小児科でもらう水薬みたいな甘さだった。
こうして並べてみると、小6ってまだまだ子供だったのだなと思う。
ヨリコちゃんは我が家に1泊した後、同じ市内にあるお祖母ちゃん(私の祖母の妹)の家に行って、そこで年越しをした。
ヨリコちゃんのお母さんがその年離婚し、ヨリコちゃんが学校の長期休暇の間は、気晴らしも兼ねて親戚宅を転々としていたのだと知ったのは、大分後になってからだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~
石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。
さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。
困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。
利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。
しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。
この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる