それでも ホワイトクリスマス

あおみなみ

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クリスマスまで1週間

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 1980年12月当時、ケンタッキーフライドチキン(以下「KFC」)の店舗が片山駅前アーケードの中に一つだけあった。

 鶏の料理といえば、母が揚げる竜田揚げかチューリップ、それに父が大量に買ってくる焼き鳥くらいだったか。まだフライドチキンというものを食べたことはなかった。

「今年のクリスマスは、試しにあの「バーレル」っていうのを買ってきてみるか?」

 父のその一言で兄と弟は湧き、私ひとりがピンと来ていなかった。
 自分にとっては、合言葉の「山」「川」ではないけれど、「鶏」「皮」って感じだった。

 父が大量に買ってくる焼き鳥の中に含まれているアレとか、角田かくたデパートの最上階のレストランでチキングラタンを注文すると、鶏肉の身の代わりに入れているとしか思えない、あのくにゅくにゅ、くきょくょしたやつで、私は非常に苦手だった。

 同じチキングラタンが、角田の向かいの彩友さいゆうストアのレストラン街にある「コンキリエ」っていうお店では600円で、皮というか脂身もあんまり入ってなくて、とってもおいしい。
 角田のは380円。味はまずくはないけど「くきゅ」っていうのが歯に当たると嫌になる。きっと材料費をケチっている分、安いんだ。
 だから駅前に出たとき、私が「チキングラタンが食べたい」っていうと、両親は角田の方に連れていきたがる――と、私は被害妄想気味に思っていた。

+++

 話はそれたけれど。

 私、クリスマスに「揚げた鶏食べさせてやるよ」って言われて気分が高揚するほど子供じゃないんだよね。
 アーケードなら、KFCのすぐそばに「トイス神田かんだ」っていうおもちゃ屋さんがある。あそこでクリスマスプレゼントに「おさるのモンキッキ」でも買ってほしい。あれならカワイイから、いくつもらってもうれしい。

 私はもうモンキッキは持っていたけれど、妹のプチキッキは持っていなかった。オレンジの水玉のドレスを着ていて、とてもかわいいから欲しいんだけど、もう小6なので、そんなものをねだったら笑われそうと思って言えなかった。
 言えないくせに、そこんところを察して買ってくれるのが親じゃないの?なーんて考えてもいた。

 多分今年も「お前はビーズ遊びが好きだろう?」とか言って、適当なお店でちゃっちいビーズセットとかを買うに決まっている。
 確かに嫌いじゃないし、素直にもらうけどさ。

 弟はまだ「サンタさん、の超合金くれるかな?」とか言って、いい気なものだ。
 になるって、別にそんないいもんじゃないよね。親たちも私には「サンタさんが持ってきた」という演出さえしてくれないもん。
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