【R18】える

あおみなみ

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I THINK I'LL LIKE HIM.

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彼のこと好きになれそう。

*****

 大好きだったおばあちゃんを失った後、大切な人や大好きな人に去られる恐怖が、常に付きまとうようになった。

 そこに追い打ちをかけるように、元彼と見知らぬ女の子とのあの行為。
 あの後、彼とは学校で口を利くこともなかったし、例の女の子とどうなったのかも当然知らない。
 ショックだったけれど、彼への未練みたいなのはそう引きずらなかった。
 ただただ、あの光景がショッキング過ぎただけだ。

*****

 大学に入ったら、いっそみんなに嫌われるくらい傍若無人に振る舞ってみたかったけれど、そういう素養がないので無理だった。
 だから高校時代と同様、バイトに精を出したり、空いた時間は名画座で映画を見たりして過ごすことが多い。

 名画座は、近くでレトロな雰囲気のいい劇場があって、安い料金で2本、3本まとめて見られるから通うようになった。
 好みに合うものも合わないものもあったけれど、本数だけは結構見ていると思う。

 情報収集のために映画情報誌を買うようになった。
 小面倒くさい評論とかが書いてある雑誌は嫌い。
 ちょっとミーハー系のが2冊あって、どっちも試しに読んでみたんだけど、「文通コーナー」に年齢層が高い人がより多い方を買うようになった。

 そんな中で「加瀬かせ弘人ひろとさん」という人の存在を知った。

「ウディ・アレンの映画が好きな大学生です。映画についていろいろ話がしたいので、幅広い皆さんからのお便りをお待ちしています。」

 住所からすると、私鉄の駅で四つ離れたところに住んでいる人らしい。
 大学の多い街だから、近所の学生さんかな?あんがい同じ大学だったりして。
 映画の趣味は悪くないけど、小うるさくディスカッションしたいわけでもない、おとなしい感じの男性を勝手に想像した。
 ちょっと会ってみたいな、とも思った。

 手紙を書いてみたかったけど、普通の手紙じゃ目立たなくて、断られちゃうかもしれない。
 かといって、私にインパクトのある手紙を書く才能はたぶんない。

 内容は普通でも、「方法」で印象に残ることはできるかもしれない。

 そこで思いついたのが、一方的に少しずつ情報を送り付けて、とりあえず「私」を意識してもらうことだった。
 まるっきり無視される可能性もあるけど、そこは映画ファンの想像力に期待しよう。

*****

 10通目のハガキ、少し期待を込めて出した。
 「加瀬さん」の最寄り駅と思われる駅前にある喫茶店に、土曜日の3時にいます、と。
 文通コーナーで同好の志を求める大学生は、土曜の昼下がりも1人で過ごしている可能性が高いだろうと勝手に思った。
 そして、私を少しでも気にかけてくれるなら、きっと来るだろう。

 外から見える席で本を読んでいたら、私のことをじっと見ている男性がいるのに気付いた。
 直感的に「加瀬さん」だと思った。
 小柄でおとなしい、目立たない感じの男性。
 何も特徴のないシンプルな服を着ていて、清潔感があるし、感じの悪い人ではない。
 店に入ってきたら声をかけてくれるかな?と思ったのに、私と同じカウンターに腰掛けて、こっちを見ているだけだ。
 私から声をかけたら、「赤いリュックじゃなかったから、違うかと思った」と言われた。あ…そういえば私、そんなこと書いていたっけ。これは失敗。

 とにかく来てくれたことがうれしい。いたずらだと思って無視される可能性だってゼロではなかったし。
 控え目で初々しい感じの、「いや、はあ…」みたいな返事を聞いていたら、ちょっとからかってみたい気持ちになった。私にしては珍しいことだけど。

 考えてみたら、今まで一方的に手紙送り付けて、多分彼の気持ちを振り回していたんだから、今さらなんだよね。思いっきり「ヘンな女」を装ってみてもいいかもしれない。

*****

 「あなたとそういう関係になってもいいですよ」という意思を示しつつ、部屋に行きたいと言ってみたけど、実は気持ちは固まっていなかった。
 部屋に着くまでの間(結構時間かかった。本当はバスとか使った方がよさそうな距離だ)の道すがら、加瀬さんと雑談をしながらいろいろと考えた。

 あのとき病院で見た元彼の、目を閉じた表情を思い出した。
 アレ――きっと気持ちいいんだろうな。ああいうのを恍惚コーコツっていうんだろうって顔だった。
 やったことはないけれど、「口にくわえられただけで出そうなくらい気持ちいい」「歯が当たったら興ざめ」「セックスよりイイかも」とか、雑誌に書いてあったのを読んだことがある(典型的な耳年増ミミドシマ)。

 いざとなったら、「そういう手」もある。そう思ったら腹をくくれた。

▽▽

 案の定、加瀬さんに後ろから抱きしめられた途端、ちょっと怖くなった。
 「嫌だって言っても聞かないよ?」
 おとなしそうに見えたけれど、こういうときは男の人っぽいことを言う。
 私も強がって応戦したけど、声が震えているのバレなかったかな。

 加瀬さんが押し倒そうとするのを止めて、手と口ですると提案した。
 「こっちの方が得意なんで」と言ったけど、もちろんそんなの口から出まかせ。
 加瀬さんはあまり経験がない人みたいで、割と簡単に「達して」しまった。

*****

 その後もそういうことを何回か繰り返して、何とか心の準備ができ、彼と結ばれた。
 このときも、「前戯で手を抜いたら帰りますよ」なんて、利いたふうなことを言っちゃった。なぜだか分からないけど、加瀬さん相手だと、ちょっと強気なことを言ってからかいたくなる。

 高校時代読んでいた女の子向けの雑誌、国会でやり玉にあげられるほどセックス情報が過激だったんだよね。
 あんなの読んでたら、そりゃ偏った知識だけは異常に増えるってものだ。

 これ本当にすごかったのよ。コンドームの付け方とか、「こうしてあげると彼は天国気分」みたいなテクニックの図解解説とか。
 あと、「バージンのふりする方法」と、「遊んでる子を装う方法」、どっちの手ほどきもあった。
 私は本当にバージンなので、前者は「ふり」じゃなくてよかったけど、後者のは本当に役に立った。
 言いそうなこと、しそうなしぐさ、何と書いてあったかを思い出してみる。
 多分遊び人相手だったらバレバレだったと思うけど、加瀬さんはそういう人ではなかった。

 そして「弘人って呼んで」って言われて、私は加瀬さんがつけてくれた「まゆみ」という名前で呼んでもらうことにした。

 本当は「恵夢(めぐむ)」って名前で、愛称は“えむ”。イニシャルの意味もあるし、「えむ」とも読めるからって友達が付けてくれた。
 ただ、「M」って呼ばれているみたいだから、偽名っぽくて嫌だなと感じるときと、その距離感がいいなと感じるときがあった。

 ひょっとして、根拠なんかないけれど、本当に「まゆみ」って名前なら、私の性格はもっと素直だったのかな。
 いや、自分じゃ十分素直なつもりなんだけど、割と人に言われがちなんだよね。本心を隠すとか、うそくさいところがあるとか、もっと雑だと「ひねくれてる」って。

 多分だけど、お母さんに去られたお父さんを見ているうちに、本性をさらけ出すのが怖くなったんじゃないか――と自己分析している。素直に「嫌だ」「悲しい」って言ったら辛い思いをする人がいるんだって知ってるから。

  そして時には、「好き」って言葉も人を傷つけることを知っている。
 元彼は私に「君が好きだから、付き合ってほしい」って言ったくせに、ちょっと会えなかっただけで、ほかの女の子にあんなことさせた。
 多分だけど、もともとの知り合いか、下手したら二股状態だったんじゃないかと思う。

 だったら「好き」なんて言ってほしくなかったよ。
 「君が俺の性のはけ口になってくれるなら、好きだよ」って最初に言っとけ!と思った。
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