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I LOST MY GRANDMOTHER.
しおりを挟むおばあちゃん、死んじゃった。
*****
おばあちゃんが死んじゃった。
優しくて、明るくて、お料理がうまくて、本当に大好きだった。
おばあちゃんが作ってくれたお弁当は、お砂糖がいっぱい入ってこげた卵焼きとか、切り干し大根の炒り煮とか、お袋煮(油揚げに食材を入れて煮たもの)とか、どうも茶色っぽいおかずが多いので、「えむちゃんのお弁当、いつも茶色いね」って笑われたけど、そういうおかずをひと口でも食べたことのある子は絶対にバカにしない。それくらいおいしかった。
それどころか、「その卵焼きとコレ交換して!」とか、「これあげるから、切り干しひと口食べさせて!」とか言って、ミニバーグやウインナー、シュウマイとかをくれるから、私はそういうおかずも結構食べたことがある。
悪いけど、どれもおばあちゃんのほどおいしくないなと思った。
*****
私が高校1年のとき、家に帰ったら、おばあちゃんは台所にうずくまっていた。
びっくりしてすぐ救急車を呼んだけど、病院に運ばれて、そのまま日をまたがずに「ご臨終です」って言われて、何とか仕事を終わらせて駆けつけたお父さんが見たときには、白い布を顔の上に載せられていた。
明日からうちのご飯どうなるの?
私のお弁当、誰が作ってくれるの?
もう懐メロ歌いながら料理してくれないの?
*****
私の母は、私が小学生のとき家を出て行った。
「ほかに好きな人ができた。真面目で無口な父に物足りなさを感じた」とかいう理由だったらしい。
私の記憶が正しければ、そんなことがあった翌日も、父は普通に出勤していた。今思い出しても偉いなって思う。
でも多分、母にしてみると、そういうところが駄目だったんだろう。
父は真面目でいい人間ではあったけれど、器用ではなかった。
きまり悪そうに自分の母親――おばあちゃんに私の面倒を見てほしいと頼み、おばあちゃんが笑顔で「水くさいこと言わないで。大好きなあんたたちの役に立ててうれしいよ」って言ったとき、初めて私たちの前ではばからずに泣いた。
おばあちゃんはうちの太陽で、精神的な支柱だったから、私もお父さんも、それからしばらく肩を落として生活していた。
*****
そんな生活をしていても、お腹だけは空く。
持ち帰り弁当ばかり食べていたら、飽きるし体調も悪い。冷蔵庫が空っぽなのも、何だか寂しい。
私は図書館で料理の本を借りて、おばあちゃんが作ってくれた料理を一生懸命研究し、作る練習をした。
頑張ってイワシのつみれ汁を作ろうと決めた日、おばあちゃんの好きだった『蘇州夜曲』っていう曲を「聞きよう聞き真似」で歌っていたら、お父さんがびっくりして家に入ってきて、「おふくろが戻ってきたのかと思った…」と言いながら、顔を隠して泣いていた。
つみれ汁は思ったほどうまくできなかったけど、お父さんは珍しくお代わりした。
「蘇州夜曲の歌詞ね…」
「うん?」
「「聞くわ」じゃなくて、「聞くは」だったんだね?」
「え?」
「〇〇するわよ!とか言うときの「わ」かと思ったら、「聞くのは」っていう意味の「は」だった。ずっと勘違いしてたんだ」
「そうか…」
それを聞いて父が少しだけ笑って、私もうれしくなった。
ぼーっと無気力に暮らしていたら、きっと天国のおばあちゃんが悲しむ。
「ねえ、ケーキ屋さんでバイトしたいんだけど」
「ん?」
「前から誘われてたんだけど、気分転換にもなりそうだし」
「学校では禁止じゃないのか?」
「ちゃんと許可取れば大丈夫だよ。お父さんにサインしてほしい書類あるけど」
「ああ――分かった」
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