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5月某日 学校創立記念日(3)

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 芳彦が住んでいるアパートの最寄り駅までは、上野から東京まで行って国電[現在のJR]の乗り換え1回、所要30分強だった。

 部屋にはまだ当時は高価だったビデオデッキがあり、自分で稼いだ金で買ったと自慢していた。
 壁にはアメリカのロックバンドのポスターが貼られ、レコードも結構な数ある。
 あまり本を読む習慣はないようで、机の上に、教科書らしき分厚い本と、テキスト類がある程度。

筒井つつい康隆やすたかとかは好きで割と読むけど、女の子はこんなの読まないよね?」
 と、駅の書店に時間調整で入ったときに言った。

 美野里は確かに読んだことはなかったが、自分は特に興味が湧かなかっただけで、周囲に筒井ファンは結構いる印象でもある。だから、あんまり性別は関係ないのではという疑問が浮かんだ。

 が、そんな生意気そうなことを口に出す気はない。
 大好きなオトナの男性が、美野里を「しとやかな女」にさせる。

 芳彦は公務員志望だったので、そのための勉強はそれなりにしていたが、もう4年生ということもあり、登校よりもバイトに熱心だった。
 故郷の両親は、観光バスを運転している父と、バスガイド時代に知り合って結婚した母。じき大学受験の弟は、なかなか優秀らしい。
 「もう、絵に描いたド庶民ですね」と、美野里の家に招かれたとき、笑いながら話していたが、関係の良好さはうかがわれた。

 東京の私学に息子を送り出したところをみると、超リッチではないにせよ、意外と金回りがよかったのだろう。
 趣味性の高いものを小遣い稼ぎバイトで買ったり、美野里にすっと1万円渡したりしたのも、多分そのためだった。

 ビデオでは映画やドラマを録画していたが、テープ自体が高価な時代だったので、3倍速にして重ね録りというのがしばしばだったから、本数はさほどではない。しかも管理はかなり適当だった。

「この間録った映画ってこれだったかな…」

 そう言いつつデッキに挿入して再生すると、男がミルクを飲む猫のように女の股の間に顔をうずめているが映し出され、「ひーっ、あ、あんっ、イイっ!」という絹を裂くような嬌声が聞こえた。

「いや、その、これは…」

 芳彦はあわてたが、美野里は男性がそういうものを見ること自体には抵抗も嫌悪感もない。
 というよりも正直なところ、美野里自身がそうしたものに興味もないわけではなかった。

「ええと…うん。大丈夫 だよ」

 美野里は芳彦を安心させようとして、頼りなげな声でそう言った。
 すると、芳彦はリモコンでなぜか「一時停止」を押してから、美野里の肩を抱いて「俺たちも同じことしちゃう?」と言った。

 よりによって女が男のイチモツを白く細い指でし、舌をペロリと出した瞬間で止められたので、美野里は一瞬、(わ、私があれをやるの?無理無理無理!)とたじろいだが、「ほらほら、そんなの見ないで…」と言いながら落とされた芳彦の深く優しいキスに陥落した。

◇◇◇

 美野里は、具体的に口では言えなかったが、身を縮めることで本能的に拒絶の姿勢を見せた。
 芳彦は「最後まではしないから、さ」と言いながら、美野里のシャツのボタンを丁寧にはずし、そのままごく自然にブラのホックを、慣れた手つきでひねるようにはずした。
 恥ずかしそうにしている美野里の顔を少し見下ろした後、ほほ、唇、そして首と、まるで順路をたどるように自分の唇を這わせたり、乳首を掌で柔らかくつぶすようにしながら胸全体をもんだりした。

 美野里はされるがままになりながらも、芳彦の股間にが出ていることを察知し、少し怖くなった。
 しかし、優しく愛おしげに自分を愛撫する彼を見ると、それを「やめて」と言う気にはならなかった。
 はっきり言えば、それなりの快感もある。

はすっごく痛いらしいけど…これは…ちょっと…いいかも…)

 裸のを目の当たりにしたわけではないこともあり、美野里には挿入の具体的なイメージがどうしても湧かなかったが、ペッティング自体には嫌悪感を覚えなかった。

 乳首をぺろっ、れろっとなめられたり、軽く歯をあてられたり、吸われたりすると、「あんっ…」と、自分の意思とは無関係声がこぼれ、思わず自分の手で口をふさいでしまったほどだった。

 これが芳彦の唇と手によるものだからか、それとも自分の中の「性欲みたいなものが反応しているのかは分からない。

 芳彦は約束どおり「最後」まではしなかった。
 その後もゆっくりと、芳彦の手と唇は美野里の上半身を滑り、もう片方の手は、愛用の楽器を丁寧に扱うように、愛おしげ背中を抱きかかえていた。

 美野里ひとりが芳彦に「愛された」という感覚に酔ったが、芳彦にしてみると、蛇の生殺しのような状態ではあった。

 芳彦は、不慣れな少女をうっとりさせる程度の男前な表情を浮かべてはいたが、

(小柄なのに、オッパイはなかなかのボリューム…)
(やっぱり肌がピチピチだな…)
(色黒のせいか、乳首は結構濃いが…これはこれでエロい)
(このか細い鳴き声…たまらん…)
 
 程度のゲスな声が、脳内でやかましく響いていた。

 何度も言うが、「最後までは」シていない。
 決して下半身には手を伸ばそうとはしなかった。

 だから芳彦にしてみれば、自分によく懐いている仔猫を愛撫しているだけの気持ちだが、「初めて自分の部屋に連れ込んだ16歳の少女にわいせつな行為をした」と説明できる。
 美野里が出るところに出たら、芳彦は犯罪者扱いの事案だろう。

 しかし美野里は芳彦にすっかり恋していたし、好きな人に愛撫されること自体は歓迎している。
 だから、両親や姉などのオトナたちが、芳彦を危険人物とみなさないよう、絶対に2人だけの秘密にしようと誓った。

◇◇◇

 帰りは母親が持たせてくれた交通費で帰ったが、「片道分だけ渡したのは、美野里を帰したくなかったからだよ」と、冗談とも本気ともつかないことを言った。

 これも「さて、帰りは――学割でも使って安く上げるか? ブランド品だフランス料理だ言わないだけマシだが、やっぱり遠距離は金がかかるな」などと、少しだけ舌打ちをしていたので、「サンキュ、ママさん」と内心で和香子に礼を言った。

 その後は、芳彦が友人から譲ってもらった学割証まで駆使し、さらに“ある方法”を使って美野里の住む街を訪れるようになるが――その話はまた後に譲る。
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