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小柳家、午前5時半もしくは8時半(2)
しおりを挟む美野里が置いていった「新聞部夏季合宿(予定)」というB5プリント3分の4ほどの大きさの紙には大体の行程が書いてあるが、学校集合が9時、宿泊先の到着が11時半の予定になっている。
美野里は自転車で20分かけて通学していたので、この予定ならば、8時に家を出ていてもおかしくはないが、さすがにいろいろとおかしな点が多過ぎる。
和香子は学校に電話をし、部長の永吉を呼び出してもらおうとしたが、「新聞部の合宿は昨日からの予定になっていますが…」と言われてしまった。
確かに予定表には、ボールペンで修正した跡があり、「間違っちゃったから、正しい日付にしておいたよ」と美野里には説明されていた。
和香子はさすがにおろおろして、まだ寝ていた浩美を起こし、「美野里の合宿、学校に電話したら昨日からだって言われちゃって…」と相談した。
「宿舎に電話してみたら? 番号書いてあるんでしょ?」
浩美は面倒くさがりで、いつもだるそうな様子ではあるが、家では一番頭がキレると言われていた。
いきなり起こされ、要領を得ない話をされても、半身を起こし、この調子で対応してくれる。
「でも到着予定11時半って書いてあるし…」
「本当は昨日の11時半ってことなんじゃない? とにかく電話してみなよ」
「ああ、そうか…」
和香子が電話をするために部屋を出ようとする前に、浩美はベッドにぱたっと倒れ込んだ。まだまだ寝足りないらしい。
和香子はその言葉に従って電話をし、対応した部長の永吉の口から「え? 小柳さんは今回不参加ですよね?」と聞くに至った。
◇◇◇
再び和香子は浩美に相談した。
「どうしよう!美野里、合宿不参加だって!」
「…あのさ、お金? 参加費? 徴収されたよね? 領収証もらった?」
「え、あ、そういえば…」
美野里が置いていったプリントの下4分の1は、さらに縦に切り取り線(点線が印刷してあるだけ)が入っていて、左3分の2が申込書、右3分の1が領収証というレイアウトになっていた――ような記憶があるが、美野里は「小さいからなくしちゃった。でも、お金はちゃんと払ったからダイジョーブ」と言っていたなと、和香子は思い出した。
「あー、それはあれだ。参考書買うとか言ってお小遣いせしめるやつの、さらに悪質バージョンだね」
「どういうこと?」
「そりゃ1万円持って、合宿以外のところに行ったってことじゃないの?」
「そんな…一体どこに…」
「まあ1万円あれば、往復は無理だけど、東京ぐらい行けるんじゃない?」
「東京って…あ!」
「あそこしかないね。しかも明日帰ってくるって? お泊りする気満々じゃない」
すっかり目が覚めた浩美は、母親をからかうようにそう言った。
「大体お母さん、美野里に甘過ぎだから。これからは学参買うとか言われたら、ちゃんとレシートもらった方がいいよ?」
しかし和香子は、浩美のそんな混ぜっ返しもまともに耳に入っていない様子で、「美野里、妊娠しちゃうわよ!まだ高校生なのに!」などと、ほぼ絶叫状態で言った。
彼氏のところにお泊まり → そういうコトをする → ご懐妊と一直線でつながったらしい。
「お母さん、心配なのはわかるけど飛躍し過ぎ。というか、大体今までだってヤッてない保証もないわけで…」
「え?!」
「まあさあ、お母さんがそんなことに詳しくても嫌だけど、ラブホとかモーテルとかは、昼間だって開いてるんだからね?」
「浩美、あんたまさか…」
「違う違う。『オンナノコはいつでもミミドシマ(**下記注)』、だよ」
浩美は『』の部分だけ節をつけ、ヒット曲の一部を歌ってみせた。
**
ミミドシマ、の実際の表記はローマ字
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