【R15】いなか、の、じけん~ハートは意外と頑丈だった

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
12 / 13

第11話 あにいもうと その2

しおりを挟む
※過激な性描写はありませんが、それに準ずるシーンがあります。ご了承ください。

▼▼

 それは夏休みの夕暮れどきだった。

 久美は友達とプールで泳いで帰ってきてから、家の中で最も涼しい部屋で転寝うたたねしていた。
 そこは家で最も東側にある4畳半で、南窓の網戸を開けっぱなしにしておけば、夕刻にはなかなかいい風が入ってきた。

「ん…」
 仰向けで寝ていたら、誰かが自分の胸のあたりをまさぐっているのを感じた。
 ぼんやりした頭のままだが、それで目が覚めてしまった。
 足を振り上げて起き上がろうとしたら、その足に何か当たり、「いてっ」という声がした。

 声の主は、顎のあたりを押さえた浩紀だった。

「…お兄ちゃん?」
「あ、ごめん…」

 浩紀はそれだけ言うと、部屋から出ていった。
 どうやら久美は、足を振り上げた拍子に浩紀の顎を蹴ってしまったらしい。
 なのになぜ浩紀が謝ったのだろう。
 いつもなら、「いてえな、何すんだよブス!」と怒るところではないだろうか?
 久美がその真相を知るのは、それからさらに2週間後のことだった。

◆◆

 その日、祖父母は法事で泊りがけ、両親は雅紀だけを連れ、母の実家に行っていた。つまり、久美はあの兄と2人で過ごさなくてはならない。
 憂鬱だったので、出前の冷やし中華を食べると、すぐ風呂に入って自室にこもるつもりだった。本当は楽しみにしていたドラマが見たかったが、仕方がない。

 久美は全く気付いていなかったが、実はシャワーを浴びている間、浩紀がバスルームの前に立ち、すりガラス越しの久美のシルエットを眺めていた。
 そして何を思ったか、久美がに用意していた下着を持ち去ってしまった。

 タオルで体をふき終わったとき、下着がないのに気付いたが、うっかり持ってこなかっただけかもしれないと思い、タオルを巻いて自室に取りに戻ろうとしたら、兄が部屋の前に立っていた。

「お前、これ廊下に落ちてたぞ?」
 そう言って、久美のブラとショーツを久美の前に差し出した。

 大嫌いな兄が、自分の下着をぎゅっと握りしめている手がおぞましい。
 無言で取ろうとしたら、兄がその手を高く掲げ、「欲しかったらそのバスタオル取れよ。したら返してやる」と言った。
「は?何言ってんの?」
 いたずらにしてもタチが悪すぎる。久美は怒って兄を押しのけて部屋に入ろうとした。

「下着、要らないのか?」
「要らない。ほかにもあるもん…あっ」
 久美は部屋に入ろうとした途端、後ろから兄に抱きつかれた。
「くみい…おっぱい見せてよ…お前最近エロ過ぎなんだよ…」
「離してよ!気持ち悪いこと言わないで!」

「今までイジワルして悪かったよお…お前がすげえかわいいから…わざと嫌なこと言ってないと…変な気持ちになりそうで…」

 浩紀の荒い吐息はアルコールのにおいが含まれていた。

「お兄ちゃん、お酒臭い!飲んだの?」
「この間…お前が昼寝してたとき、我慢できなくて触っちゃって…俺、あれからずっとお前でヌイてんだよ…責任とれよ…」

 兄は大柄だし、女の久美よりは力がある。
 しかしアルコールで前後不覚のようになっているし、体もふらふらだ。
 久美は自分の周りに巻き付いた腕に思い切りかみついた。
 そして浩紀が「痛いっ」と言いながらひるんだすきに部屋に逃げた。

「キモチ悪い!二度と私に構わないで!」

 久美はそう言うと、体にバスタオルをまいたまま、本や家具を使って部屋のドアの前にバリケードを築き、浩紀の侵入を防いだ。
「くみい…ごめん…もうしないから…」

 兄の声が涙混じりに聞こえる。
 しばらくノックの音もしていたが、「うるさい」「あっちいけ」「ケダモノ」「お母さんに言いつける!」と、思いつく限りことを言い続けたら、諦めて撤退したようだ。

 実の兄に性的な目で見られるおぞましさに吐き気がしたが、トイレに行こうにも、怖くて部屋を出られない。
 本当は入浴後にアイスクリームが食べたかったが、それを台所に取りにいくのもあきらめ、久美はその夜、文字通りの「泣き寝入り」をした。

◆◆

 翌朝久美は、まだ朝早く家を出た。
 コンビニエンスストアでおにぎりを買い、それを公園で食べて、図書館や友達の家に行って、門限ギリギリまで時間をつぶした。
 家に帰ると、祖父母が既にいた。帰宅が遅いといって祖母に小言を言われたが、久美はその日ばかりは祖母のガラガラ声に安堵感を覚えた。

◆◆

 その後。

 久美は事の顛末を母に話すことはなかった。あくまで直感的に、「こんなことになっても、母は兄の味方をするのでは」と思ったからだ。
 ならば、自分1人が我慢すれば丸く収まるというものだ。

 久美は浩紀と2人きりになるシチュエーションを作らないように努め続け、そもそも兄がかなりよそよそしくなった。
 ひどい悪口を言うことはなくなったが、話しかけてくる頻度も極端に減った。あの兄にも恥というものはあったのだなと、久美は冷めた目で見ていた。

 浩紀は大学受験に失敗し、予備校に通うために隣県でひとり暮らしをすることになった。大学もその県か東京かだろうから、もう家に帰ってくるのは長期休暇のときぐらいだろう。
 もはや久美の中で浩紀という男は、ただのイジワルな兄ではなく、決して2人きりになってはいけない性犯罪者の扱いである。正直、二度と会えなくてもいいと思っていた。

 ひとり暮らしを始めた後、母に「お兄ちゃんに会いにいこうよ。久しぶりに会いたいでしょ?」と誘われても、「勉強があるから」と断った。
(何が「会いたいでしょ?」だ!普通に仲悪かったの見てたくせに…)

 実は母にとって自分というのは、時々存在を認識できる透明人間か何かなのかも――などと奇天烈なことを考えた。
 自分と母の、自分と性犯罪者あにの関係って何だろう。

 このくらい異常な状況なら、関係が異常だったり、異常なことばかり起きても不思議はないのかもしれないと思うと、不思議とさまざまな物事を突き放して見られるようになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...