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第10話 あにいもうと その1
しおりを挟む久美の2人の兄弟は、2歳年上の浩紀と、6歳年下の雅紀である。
久美の例の事件の頃、2人はそれぞれ中1と幼稚園の年長だったが、3年経った今でも2人と久美との関係はあまり変わっていない。
浩紀は何かというと久美に、ブスだバカだと侮辱的でストレートなことばかり言い、時にはテレビの中のアイドルを見て、「あーあ、あの子と久美を交換したいよ。家にカワイイ子がいないとつまんねー」などと嫌みたっぷりに言う。
一方、雅紀は年が離れた久美に懐いていた。
けんかになると「ねーちゃん、ブース」などと言うこともあったが、けんかになるような状況だから、何を言われても腹が立つに決まっている。
おやつを分けて欲しいときなどは、「ねーちゃん、今日もかわいいねえ。そのチョコちょうだい」などと調子よく言ってくることもあり、憎めない性格だった。
そして久美一人だけが、なぜか母親から「人の容姿をとやかく言うのは最低のことだ」ときつく言われていたため、2人に容姿のことでああだこうだと言ったことはない。
雅紀はともかく、浩紀のことは内心「自分はクソデブのくせに!」と心からバカにしていたのだが。
◆◆
実は傍から見ると、この3人の兄妹弟の顔は「そっくり」だった。
というよりも、輪郭やぱっちりと開いた目など、顔の特徴が同じで、特に美形というわけではないが、大変バランスのいい顔立ちだったので、親戚の間では「器量よしのきょうだい」とみなされていた。
浩紀は大柄で太目だったが、成績優秀で強気な性格のせいか、意外なほど女子受けがよかったし、雅紀は顔立ちもさることながら、スポーツ万能で明るい性格で、男女ともに大人気だった。
そんな中、久美一人だけ学校で、同級生の男子から「気持ち悪い」などと言われてしまう。
「私の顔、そんなにダメかなあ…」などと洗面所でじーっと鏡を見たりするが、そんな現場を浩紀に見付かれば、「ブスが凝視したら鏡割れんぞ」と笑われてしまう。
しかし中2になってすぐ、高校生の男から声をかけられたこともあった。
兄の妨害ですぐ駄目になったが、うまくいけば付き合っていたかもしれない。
たとえ彼氏ができても、「ブスのくせに」と笑われるかもしれないけれど、少なくともあのとき声をかけた「俵」という高校生は、久美をかわいいと思ったから声をかけてきたのだ。
◆◆
久美が具合が悪くなって保健室で休んでいたとき、突然、3年らしき男子がベッドの脇のカーテンをシャッと引いたので、びっくりして起き上がったことがあった。
3年生はびっくりしながら「あ、すまねえ」と言い、久美の顔をじっと見て、「お前1年?2年?何組だ?」と聞いてきた。
「あの…2年2組です」
「名前は?」
「**…です」
「下の名前は?」
「久美、です」
「そうか、かわいいな」
そこで養護教諭に「ほら、人のベッドのぞかない!」と声をかけられ、3年生は慌てて向こうに行ってしまった。
かわいい?名前が?
それ以前に、どうやら姓ではなく名前が知りたかったらしいというのが久美には不思議だった。
3年生は時々、久美と校舎内で顔を合わせると、「よっ」と軽く挨拶する程度になったし、愛想笑いで久美も会釈を返した。
友達と一緒にいるときなどは「誰?カレシ?」などとからかわれたが、特に進展はなかった。
◆◆
久美は洗面所で鏡を見るのをやめ、その代わり自室でマジマジと見るようになった。
クラスのほかの子たちが悩んでいるようなニキビはない。
色白のせいか、鼻のあたりに少しだけそばかすが確認できるが、それも久美たちが小学校低学年のときに大人気だった漫画の主人公みたいだと言われ、チャームポイントともなり得る要素である。
目は、浩紀が「あの子ととっかえたい」と言ったアイドルの子よりも、よほどぱちっとしているし、鼻や口の形も悪くないと思う。
冬場は雪が降ってくると、まつげに雪が積もることさえあり、本人の気苦労とは裏腹に、「長くて上向きに巻いてるからだね。いいなあ」とうらやましがられたりもした。
本来久美は、うぬぼれてもおかしくないような顔立ちではあったのだが、叩きのめすようにあしざまに言われ続け、抑えつけられた自己肯定感は、そうそう簡単に高くならない。
▼▼
加えて最近はもう一つ、悩みだと言ったら他の女子からにらまれそうな悩みを抱えていた。
胸がかなり大きくなってきたのだ。
自分では分からないが、体育の時間などによくそれを言われるし、時には「おっぱい大きくていいなあ」とさわってくる者までいる。女子同士の気安さなのだろうが、大した仲がいいわけでもない子にさわられたり、からかわれたりするのは正直不愉快で、小さな声で「やめて」と言ってはかき消されていた。
トップは83センチだから、すごい巨乳というわけではないが、身長が150台前半で細目なので、胸が目立ちやすい。
あの兄ですら、「お前、胸あってよかったな。ただの取り柄無しになるとこだった」とさえ言う。
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