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第9話 久美と異性と木の芽時【久美一人称】 その2
しおりを挟む2年になって最初の日曜日、駅前の彩友デパートの7階の本屋さんに参考書を買いに行った。一緒に行くはずだった子が急に熱を出したので、1人で行くことになった。
うちの学校では、学区外に出るときは制服を着なくちゃいけない決まりがある。
親と一緒なら私服でもいいけど、お母さんと一緒に出掛けるくらいなら、制服の方がましだ。
でも私の苗字は市内に2、3軒しかないので、制服で大体の住んでいるところ、名札で名前がわかっちゃうと、電話帳で簡単に調べられてしまう。
実際1年生のとき、そういう感じで知らない男の人からイタズラ電話みたいなのが来た人もいたらしい。
◆◆
大きい本屋さん大好きだし、必要な学参を買った後、ジュニア小説の棚や漫画もチェックしていたら、高校生の男の子に声をかけられた。
「こんにちは。君とちょっとお話したいんだけど、いいかな?」って。
優しそうだし、きちんと声かけてくれたし、社宅の自転車置き場で私に変なことした男と違って、メガネもかけてない。
地下の食堂で一緒にソフトクリームを食べながら話したら、市内の私立高校の3年生で、俵さんという名前だと言った。
私の田舎では、私立は公立高校に落ちた人が行く学校だと思われていて、実際俵さんも、お兄ちゃんが行っている市内で一番難しい学校の試験に失敗したって言ってた。
いろいろお話ししたけど、そんなにバカな人には思えなかったから、きっと入試のとき調子が悪かったんだと思う。
「電話番号を教えて」って言われて、何も考えずに渡したら、俵さんは次の日の夜すぐ電話をくれた。
でも出たのがお兄ちゃんで、「うちの妹に何の用ですか?」って頭ごなしに言った上、勝手に切っちゃった。
お母さんが帰ってきてから、それを告げ口された。ヘラヘラ笑いながら、「色気づきやがって」とか言ってた。
私は急に怖くなって、「そんな人知らない。きっと電話帳で調べて勝手にかけてきたんだ」ってうそをついた。1年生のとき、そういう注意のプリントが出回っていたから、すんなり信じられた。
俵さんはすてきな人みたいだけど、今はお母さんにいろいろ言われるのが嫌だし怖い。もう会えなくなるかもしれないけど、それでも構わないと思った。
でもお説教からは免れられない。
「スキがあるからそういうことになるんだ」って言われた。
前にも何回か聞いたことのあるセリフだ。
お母さんはすぐスキスキって言うけど、登校の途中に知らない人が名札見ることだってあるよ。そういう人対策でいちいち名札外せっていうの?そんなの、学校に入る前につけ忘れて週番の人に注意されるのがオチじゃん。
――みたいな反論をすると、「屁理屈ばっかり言って!」って、さらにお説教が長くなるだけなのは目に見えてるので、黙って言われっ放しになった。
その後、俵さんから電話が来ることはなく、私も俵さんからもらった電話番号のメモを、こっそり生ごみに混ぜて捨てた。
◆◆
3年生の春、図書館で大学生くらいの人にナンパされた。
最初は小説の腰巻に書いてある文字を「これ何て読むんですか?」って、「凡庸」って字を指して言ったので、「ぼんよう、じゃないですか?」と教えたら、「すごっ、あったまいい」って言われ、なんだか気持ち悪い人だなと思ったので、その人から遠ざかるようにその場を離れた。
なのにその人は、どこまで行ってもついてきて、館外に出ようとしたとき、 「ねえ、君」ってまた声をかけてきたので、今度は走って逃げた。
そんなの自意識過剰だって思う?用事があっただけだろうって?
例えば私が「しろいかいがらの ちいさなイヤリング」でも落として、それを拾ったから追ってくるというなら、無言で後をつけたりせず、最初からそう言ってほしい。あれは誰が何と言おうとナンパだったと思う。
◆◆
ちょうどの頃、「木の芽時[きのめどき・このめどき]」という言葉を何かの小説で読んで知った。
春先が一番精神のバランスを崩しやすくて、そういう時期をそう呼ぶんだと書いてあった。
異性絡みの嫌なことって、どうして4月に起こるんだろう?と思う。
持田君のことは別として、変なところに引っ張り込んで体さわったり、ナンパしてきたり。
私は私で嘘ついて保身に走ったり、逃げるために走ったり、疲れちゃう。
それでいて、やっぱりすてきな彼氏が欲しいなとは思っている。
でも、自分にとってすてきな彼氏ってのがどんなのかは全然分からない。
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