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第8話 久美と異性と木の芽時【久美一人称】 その1
しおりを挟む中学校に入り、同じクラスになった持田君は、違う小学校から来た男の子だった。
絹ごし豆腐みたいに色白で、背が高くて、数学がめちゃくちゃできて、理科の教科委員(**下記注)だ。
目が細くて細面で、何だか狐のお面みたいな顔をしている。
私はおどおどしているせいか、見た目のせいかわからないけれど、男子から「気持ち悪い」と言われることがあるけれど(その割に関わってきたがる男子が多いから、よけい挙動不審になる)、持田君はそんなこと言わないし、普通に接してくれる。つまりあんまり話しかけてくることはないけど、こっちが話しかけると、ちゃんと受け答えしてくれるということだ。
**
その授業で必要なものを授業前に用意したりする係。教科ごとに1クラス2人ずつ選ばれる。
◆◆
公立中なのに学校に入るときテストがあるのって普通なのかな?
うちの学校ではそういうのがあった。クラス編制の参考にするってうわさもあったけど、本当かは分からない。
クラスの中で6人が先生に指名されて、正副委員長(2人)と、週番委員(正副委員長+4人)の役割を割り振られた。これも本当かは分かんないけど、クラスで6番目までの成績の人が自動的に指名されたんだって言われた。
私はそのテストのとき、すごく調子良かったから、6人の中の1人に入って週番委員になった。持田君も選ばれた。
週番委員っていうのは、週替わりの風紀委員みたいなものだ。
当番のときは朝早く学校に来て、校門の前で挨拶しながら、肩掛けかばんの長さとか、服装とかをチェックして、場合によっては注意しなくちゃいけないので、ちょっと嫌な係だ。
実際、初めての当番の後、おっかない先輩になぜか理科室に呼び出され、「アンタ、私の挨拶の仕方にケチつけたでしょ?」って難癖付けられた。
全然覚えがないから「知りません」「言ってません」って繰り返したけど、全然聞いてくれない。
そのときたまたま入ってきた持田君が、「授業に遅れちゃうよ」って普通に声かけてくれたら、先輩たちはさっさといなくなった。何だったんだろう。
「本当に挨拶にケチつけたの?」
「してないよ、そんなこと」
「だろうね。君の声じゃ、あの先輩たちには届かないと思うよ」
って笑われた。
声が小さいことをバカにされただけの話なんだけど、何だかおかしくなって、2人とも笑った。
(本当は持田君はすごく訛ってたんだけど、分かりづらいので標準語っぽくしました)
男の子たちの関係は分からないけど、女の先輩後輩の関係はちょっと面倒くさい。絶対校則違反だろって格好してる先輩に限って(その頃は「とっぽい」って言葉をよく使ってた)、女子の後輩の服装を注意したり、よく分からない理由で「生意気だ」って言いがかりをつけたりする。そしてそんな先輩たちも、なぜか男子の後輩には甘い。
◆◆
持田君ってちょっといいなと思ったけど、好きとかそういうのはわかんない。
そんなとき、たまたま読んだおまじないの本で、「水色のペンで書いたラブレターを持ち歩くと、恋がかなう」っていうのを見て、持田君の名前を書いた封筒に入れて持ち歩くようになった。
私が持田君が好きで、持田君も私をいいなと思ってくれたなら、恋人になれるかもしれない。
と思ったら、持ち歩いて3日目の土曜の夜、お母さんに見付かって注意された。
サブバッグとして持ち歩いていたスポーツバッグのポケットの奥の方に入れてたから、わざわざ中を調べないと分からなかったはずなので、「たまたま」ではなく、ガサ入れだと思う。
「あなたのために言ってるのよ?
男子にこんなの渡したら、絶対友達に見せびらかして笑いものにするから」
「渡すつもりなんかないよ」
「じゃ、どうして持ち歩いてたの?」
「もういいよ、こんなの!」
私はお母さんの目の前でびりびりに手紙を破いた。
「本当に短気だね。そんなんじゃ…(以下、説教)」
◆◆
その後、持田君と同じ学校から来た子に、「持田君は3組の棟方ジュンコちゃんが好きだって、うちの学校では有名だった」と聞いた。
3組は隣のクラスだから、時々体育で一緒になるけど、棟方さんってスリムでかわいくてバレーうまくて、性格もすごくいい子っぽい。
あんな子にはかなわないなあと思って、私のぼんやりした気持ちは「なかった」ことにしたら、びっくりするくらい持田君に目がいかなくなった。
つまり、私は別に彼のこと好きじゃなかったんだと思う。
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