【R15】いなか、の、じけん~ハートは意外と頑丈だった

あおみなみ

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第5話 おとなになること

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 その日は女子だけが集会用の教室に集められ、男子はグラウンドでドッジボールをしていた。
 2クラス合同だったので、40人以上の女子が暗幕を張った集会室にじかに体育座りをし、古臭いスライド上映を見せられる。
 音割れのひどいナレーションにまじり、グラウンドから男子たちの歓声が聞こえていた。

◆◆

 1人の少女が熱心に勉強しているが、勉強中に突然鼻血を出す。
 そこで母親らしき人があわてて脱脂綿で手当をしていた。
 動画ではなく全部止め絵のスライドだが、それでも久美は、あのおかあさんは、女の子をちゃんと心配しているんだなと分かった。

 久美が鼻血を出したら、祖母が首の後ろあたりを手刀でたたき、あとはティッシュを詰めるだけだ。祖母自身が「まじない」と言っているように、あれに何の意味があるのか、久美にはさっぱり理解できなかった。

 だが、大体年寄りと同居している子供というのは、「おばあちゃんってアレやるよね?」というあたりで意見が一致するし、親にされる者もいないわけではないので、そこまで年配でない世代にも信奉者の多い民間療法らしい。

「おや、鼻血が出てしまいました▽根を詰め過ぎたのでしょうか▽でも、手当すれば大丈夫です▽皆さんからこれから迎える初潮も、これと同じです」

◆◆

 このスライドとナレーションだけでは、何がどう「同じ」なのか分からないが、とにかく生理というのは血液が出るものらしい。

『生理(月経)とは何か?』
 この当時は「アンネ」などとも呼ばれていた。アンネ・フランクの『アンネの日記』から社名をとり、生理用品を販売していた会社があったことが由来である。

『赤ちゃんができるコトと生理の関係』
 どうやら初めての生理「初潮」が来るのは、赤ちゃんが作れる体になった印ですよ――ということらしい。
 そして、赤ちゃんというのは精子と卵子がくっついて、女の人の子宮の中で育ってできるらしいが、その精子と卵子(特に精子)が一体来るのか、スライドでは非常にぼかされていて、理解できなかった。

 久美はまだ初潮を迎えていないし、母や祖母からそんな話を聞いたこともなかったが、クラスでも何人かは、既に始まっている子もいるらしい。ただ、圧倒的少数派だろうから、本来は「ためになる」授業のはずなのだが…。

 結局、見た者の多くが消化不良の思いを抱えたままスライド上映が終わった後、養護教諭の三本木という初老の女性が、全員にアンケートと封筒のようなものを配った。

◆◆

 「この封筒は、生理のときに必要なものを買うためのものです。欲しい商品に〇を付けてお金を入れて、保健委員に渡すこと!」

 封筒にはピンク色で動物の絵柄のついたパンツや、何か紙製品のようなものが印刷されていた。金額が高いのか安いのかは分からないが、少なくとも、小学生がお小遣いで買うには負担が大きい額である。何となくだが母は「こんなもの買わない」と言うだろうなと久美は直感した。
 久美にしても、動物の絵があまりかわいいと思えなかったので、欲しいとは思わなかった。

 アンケートには、名前とクラスを書く欄があっただけで、あとはかなり広いスペースの上に、「心や体について悩みがある人は、ここに書きましょう」とだけ書いてあった。

 少し頭の回る子供なら、そんなところに正直に書いて何の意味があるんだろう?と、ワンクッション置いて考え、せいぜい背が小さいだの、短気を直したいだのと、「まあ頑張れ」で済む程度の悩みを書くのだろうが、久美は先日の事件以来、「悩みを打ち明ける」という状況に非常に飢えていた。
 しかし、どう書いていいか分からない。こういうとき大人はどういう言葉を使うんだっけと悩み、やっと絞り出した一文。

「大人の男の人にいたずらされた」

 書いてからハッと少しだけ冷静になり、あわてて消そうとしたが、横から手を伸ばし、プリントをつまみ上げた、五十嵐ヤスエという女子に読まれてしまった。

「えー、久美ちゃん、これほんと?」
「返してよ…消すんだから…」
「消すってことはうそなの?うそはいけないんだよ」
「ちが…」
「本当なの?」

 もみ合いになっているところを三本木に注意され、プリントはそのまま回収されてしまった。

 ヤスエはクラスいちの「引っかき回し屋トラブルメーカー」だ。
 久美の肩を抱き、顔を近づけて、「私と久美ちゃんの内緒にしようね♪」とうれしそうに言ったが、宿題を写させろ、そのハンカチかわいいからよこせといった要求が多くなったところを見ると、久美が言うことを聞かなくなった時点で秘密をばらす気なのは明らかである。
 久美は、いっそヤスエの口からバラさせた上で、「適当に書いた」と言ってごまかそうかとも思ったが、また新たな騒動の火種を作ってしまうだけにも思えた。
 何よりも、人に刃向かうだけの気力も体力がなくなっていた。

 気まぐれなヤスエのことだ。別に面白いことを見付ければ、自分への興味は失せていくだろう。
 久美はしばらくそういう希望的観測で乗り切ることにした。
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