短編集『市井の人』

あおみなみ

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ジョオはアイドル

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あるものに対して、ひたすら怒りをぶつけているような内容です。
偏見に満ちていると感じられる方もいるかもしれません。
お含みおきの上、読んでいただければ幸いです。

また、作中で、『若草物語』シリーズの登場人物「ジョゼフィン・マーチ」の愛称が
「ジョオ」という表記になっているのは、吉田勝江さんによる訳と、
それをもとにした1987年のアニメ『愛の若草物語』に準拠したものです。

***

 ねえ、オルコットの『若草物語』って読んだことある?

 南北戦争の頃のアメリカが舞台の、マーチ家の四姉妹のお話だよ。

 私、次女のジョオが大好きだった。
 ちょっとお転婆だけど、文学の才能があって、行動力があって、本当はとっても優しい子なの。
 努力して自分の夢をかなえちゃうのもすごい。

 マーチさんちの隣にローレンスという大金持ちの家があって、そこのひとり息子ローリーは紳士的でおとなしい子なんだけど、ジョオが大好きなの。
 ローリーには正直あんまり興味なかった。何かじじむさい気がして。でも女の趣味はいいじゃんって思ってた。

 でも「ローリー」って、本当はセオドアって名前なの。そう、セオドアっていえばルーズベルトだよね、テディベアの語源の。ま、いいか。
 だからファーストネームなら愛称は「テッド」とか「テディ」になるんだと思うけど。
 ローリーってさ、要するにワタナベって姓の子供を「ナベ」って呼んだりする感覚かな?なんかちょっとおっさんみたいよね。
 え?あなたは苗字からとって「鈴木ズキ」って呼ばれてたの?あら、それはごめん。

 ▼▼

 話大分逸れたけど、とにかく私は『若草物語』を読んだ女の子はみんなジョオ派だと思っていたんだよ。
 でも話してみると、おしゃれな長女メグがすてきとか、かわいい四女エイミーがいいとか、少女の鑑といえば三女ベスでしょとか、意見が結構分かれるんだよね。
 子供の頃、それが納得いかなくて、「あんたたちって、なーんにも分かってない!」って癇癪起こして、しばらく口利かなくなったことがあったの。

 うん、面倒くさい子だよね、自分でもそう思う。

 それでも自分の思い込みは曲げなかったけど。
 今でもジョオは私のアイドルだよ。
 それは変わらないんだけど…でもね…。

 最近、「ジョオが好き」って、何となく言いづらくなっちゃった。

 ▼▼

 そもそも『若草物語』じたい、読んでる人とか読んだことある人が周りに少なくなってきた気がする。
 古い少女小説って文章がいいんだよお。特に訳が古いと、母親が娘に「ようござんす」なんて返事してたりして、ウケる。

 まあいいや。それは「そういうネタ」として楽しめるって意味ね。バカにはしてないよ。

 ▼▼

 ところで知ってる?あれって「続」「第三」「第四」って続くし、最後の方になると、ジョオが大人になって結婚してから運営する学校の卒業生が主人公になるほど代替わりしちゃうの。
 アニメや映画になっているから、一番最初の「Little Women(原題)」は、読んだことなくても人間関係とかストーリー知っている人多いかもね。

 書かれた背景を考えると、女性が自由気ままに振る舞うことを許されない時代だったからこそ、ジョオは魅力的だった。
 お金を作るために美しい髪を売るエピソードは超泣かせるけど、今の時代、ショートヘアで魅力的な女性なんていっぱいいるし、漫画やアニメの勝気な女性キャラって、逆にロングヘアの美人タイプってところがかっこうよかったりするじゃない?CVは日笠ひかさ陽子ようこサンとかで。
 あ、知らない?「てへぺろ」(古いか…)の語源の人なんだけど。

 まあ、それは置いておいて。

 つまりさ、時代背景とか無視して「髪切ったから何?」って見る人も多いんじゃないかな。
 しかもジョオが髪を切ったのは、厳密にはちょっと違うけど、父親(家長)のためなんだよね、とどのつまり。
 少し前にあったじゃない?あの鬼退治の超人気漫画に、主人公の「俺は長男だから」云々かんぬんって台詞出てきただけで、「キーッ、時代錯誤!」とか噛みつく人たちとか。時代錯誤って、そもそも大正時代の話じゃん、あれ。
 もしメグが「私は長女だから」と言いながら髪切ってたら、一体どうなっていたやら。
 個人的には、それならそれで尊いと思うけどね。

 なんていうか…そういうことでいちいち粗さがして(しかも創作物!)ギャーギャー言う人が目立ってきてるでしょ。
 ああいうの見てると、私はジョオのこと、「あの時代に自分の手で人生を切り開いた女性、すてき」って思ってるだけなのに、いろいろ要らんオプションつけて語りたがる面倒くさい人たちと同類に見られるんじゃないかな、とか思っちゃってさ。

 え?もともと面倒くさい子供だったって自分で言ったろうって?ほっとけ!

 ▼▼

 誤解しないでもらいたいんだけど、私、ちゃんと筋の通ったフェミニストは尊敬するよ。
 今の時代、女性は守られるだけの存在じゃないし、自分の生きたいように生きられるなら最高だよね。
 男女問わず人間はできれば一人一が自力で立つべきだとは思う。
 ただ、いろんな事情でそれが難しいという人に手を差し伸べるのも当たり前。
 人を助ける余力を持つためにも、まず各々の自立は必要だって言い方もできるよね。

 でもさ、最近のあれは何?
 ツイフェミっていうの?ツイッターとかのSNSで暴れてる手合い。

 女が男より下という位置づけをされたり、女性だからと差別されたりすることに反対なのはまあ分かる。
 その手のことを是正しようとすると必ず起こる問題だけど、ただの逆差別になっちゃっているじゃん。
 フェミニストじゃない、ただの男嫌いミサンドリストが、私たちは意識が高くて本質わかってますって顔して、自分の気に入らないものに噛みつきまくってるだけ。

 ▼▼

 私は子供の頃、大人の男にいたずらされたことあって――あ、言ったことなかったっけ?(※下記注)
 意外とそういう事件ってちょいちょい起こってんのよ。まあそこは流して。
 救いがたいトラウマを抱え続ける人もいるけど、私みたいに何とか払拭して、しぶとく生きてる子も多いと思うよ。

 そういうわけだから、しばらくそいつを思い出すようなことにビクビクして過ごしていたし、今でもそいつが憎くて仕方ないよ。
 でも年頃になったら、普通に男の人を好きになった。

 あ、ここで「普通に」って言葉は不適切かな。
 私は恋愛対象が異性だったから「普通に異性を好きになった」って意味ね。別に同性を好きになったから変という意味ではないから。
(…ったく、面倒くせぇな、そんなん言うまでもないだろうがよ…)

 そのゴミカスロリ野郎は今でも許せないけど、男性全体を憎いとか敵とかは思わなかったってこと。

 だからかなあ。どんなトラウマを抱えたら、あそこまで男性全体を侮辱したり糾弾したりできるようになるのか、全く理解できないのよ。

 要するに、何が言いたいかっていうとね、あの人たちは本っ当に邪魔だなってこと!

 思想信条の自由は確かに日本国憲法第19条で保障されてるよ。
 だからって「憲法で保障されますから!」と、棒をぶんぶん振り回して、気に入らないものを叩きまくって、「公共の福祉に反しない」という基本原理の方は無視しちゃってるじゃん。

 やれコンビニの商品ブランド名が気に入らんから改名しろ、女性をエロい目で見るコンテンツがこの世にあるだけで女は傷つく、あんなに女性蔑視のひどい企業の商品は不買だ…うるせえよ、全部あんたらの「感想」に過ぎないでしょうに。

 女性問題に限ったことじゃないけど、過去の創作物で、「不朽の名作」みたいに言われているものでも、差別的な表現があると、いちいち断らなきゃならなかったりして、ばっかじゃなかろうかと思う。ひどくすると、その言葉自体使えなかったり、そのコンテンツそのものを亡き者にすべきだと言うヤカラまで出てくる。
『風と共に去りぬ』は前置きで注釈を入れられたりして、「あ~あ」という感じ。

 で、「そういう言い方は問題がある」と注意されると、ナントカの一つ覚えみたいに「言論統制だ!」とか「女は黙れと言うのか?私たちは屈しない!黙らない!わきまえない!」とか言ってさ。
 あんたらもう十分すぎるほどしゃべってんじゃんと(笑)。

 メグは見栄っ張りで結婚願望の強い古臭い女、ジョオは自立心が強くていいけど、髪切るエピソードは「?」、ベスは主体性のないお人形(そんなことはないけれど)、エイミーは甘ったれミーハー――ってところじゃない?フェミ(フェミニストに非ず)目線だと。

「お金持ちになってきれいな服が着たい」のも、「小説家になりたい」のも、「自分のことより他人の心配ばかり」なのも、「鼻が低いのを気にして、寝るとき洗濯ばさみで挟んでいる」のも、全部その少女の個性だし、自分で選択していることなんだよ?

 確かに子供の頃の自分はジョオ派で、それ以外が理解できなかった。
 でも大人になって読み返したり、思い返したりしてみると、みんな完璧ではない、だからこそ魅力的な少女なんだよね。

「みんなちがって、みんないい」とか、多様性ダイバーシティーとか大好きなはずなのに、自分たちの物差しに合わないものは切り捨てたりはじいたり、何様のつもりなんだろうね。
 それっておっさんが「女はおとなしくしてろ」って言うのと全く同じだよ。

 え?『若草物語』を腐してるフェミの人と話をしたのかって?
 するわけないじゃん、ああいう人たち、私の周囲にはいないもの。
 でも、頭の中が手に取るようにわかるってこと。
 偏見覚悟で言うけど、遠からずだとは思ってるよ。

 ちなみに知ってる?『若草物語』を原作にした、2019年制作の映画があるんだよ。
 いい女優いっぱい出てるし(エマ・ワトソンがメグ役なのはびっくりしたけど)、とっても興味あったんだけど、この映画、でやたら評価されてるんだよね。悪いけど、もう嫌な予感しかしないわ。

 ▼▼

 よく「アンチはその対象の一番のファン」とか言うじゃない?
 あの意味が分かった気がする。
 イーッて思いながら何か観察しちゃうので、「こういうの好きそう」「こういうこと言いそう」から始まって、「…と見せかけて、こういう方向に持っていきそう」「こういう言い訳平気でしそう」からの~「ああ、案の定だ…」までが容易に想像できるようになっちゃった。

 変な話、私いつでもフェミとしてやっていけそう。
 というか、あの界隈は「一人一派」とか言われてるから、「私はフェミ(ニスト)だ~」と言い張れば、その主張が「わたしのかんがえたフェミニズム」になるみたいだけどね。随分手軽な話よね。

 ▼▼

 結論。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、とりあえず見てから文句言うわ。
 思想性が強いからって、必ずしも受けつけないってこともないわよね。
 映画としては素晴らしいかもしれないし、やたら絶賛されているのも、そういう皆さんの「独自の解釈」の結果かもしれないし。
 先入観は捨てきれないけど、それでもグッとくるなら「本物」だろうし。

 ただ、時間がなくてなあ…。
 最近アニメばっかりだから、集中力の持続が23分程度なのよ、私。
 アニメは何でも好きだよ。
 SFとかホラーとか、小説や映画ではあまり選ばないジャンルでも、アニメなら見ちゃうし。

 エッチな格好の女の子とか、やたらキュルルンとしたロリキャラも、好きなのと嫌いなのがある。私は「そういう」のが嫌い(好き)なんじゃなくて、「それ」が嫌い(好き)なだけなんだよね。

▼▼

――まあ、不毛な割に口角泡を飛ばすようなこんなくっちゃべり、このコ●ナの世では御法度だよね。

不毛といえば、イマジナリーフレンドに一方的に話しているで溜飲下げるのも不毛か。

(全く下がってもいないしな!)

【了】
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