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7月13日に生まれて Born on the 13th of July
13日生まれのお約束
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私は問う。そういう星の下って、「どういう」星の下?
60年代生まれ80年代育ちJKの、とるに足らない憂鬱と喜び。
タイトルはトム・クルーズ主演映画及びその原作
『7月4日に生まれてBorn on the Fourth of July』のもじりです。
***
『スウィート・リトル・シックスティーン』って曲がある。
私が生まれる10年も前に、チャック・ベリーという人が歌った曲らしい。
「すてきな16歳」なんて、甘くて素敵なバラードみたいな曲をイメージしたんだけど、どうやらロックンロールらしい。
「ビーチボーイズは知ってるか?」
「うん、聞いたことがある」
「『サーフィン・U.S.A.』って曲があるんだが、どんなのか知ってる?」
「…うん、なんかこんなの…?」
私はおぼろげな記憶で「たたら、ちゃららら」とメロディーを口演奏をした。
歌詞の意味なんか考えたことなかったけど、元合唱部員のプライドで、そこそこ正しい音程で再現できたはず。
「それそれ。その歌はもともと『スウィート・リトル・シックスティーン』の替え歌だったんだよ」
「へえ、そうなんだ」
1984年7月13日の朝、台所で父とこんな会話をしながら朝食を摂った。
なぜ日付が特定できるかといえば、その日が私の16歳の誕生日だったからだ。
だから『スウィート・リトル・シックスティーン』の話になったんだけどね。
その朝食の席で、「無駄遣いするなよ」の一言を添えて、父と母の連名で「お誕生日おめでとう」と渡されたのは、油紙の封筒に入った3枚の1,000円札だった。
もう夏目漱石の新札が出回っていた頃だったので、肖像は夏目だったかもしれないけれど、伊藤博文だったような気もする。
どちらにしても流通紙幣には違いないし、私はありがたくいただいた。
お小遣い日まで1週間あったので、少し懐は寂しかったし、ありがたいというのはうそではない。
ただ本音をいえば、愛用のビニール製財布の札入れに収めながら、「何か味気ない…」とは思っていた。
『じゃりン子チエ』の竹本テツさんなら、「金を差別すな、バチあたりが」と言いそうなシチュエーションである。
実は、誕生日だというのに憂鬱な気持ちになる事実が一つあった。
◇◇◇
朝の教室で、あまり口を利かないクラスメートが会話をしているのを耳にした。
「ねー、今日さあ…」
「そう、サイアクだよねー」
…やっぱりか。うん、登校前から分かっていた。
1984年7月13日――金曜日。
その何年か前に、アメリカのホラー映画『13日の金曜日 Friday the 13th』が公開された。
それ以前からか、映画公開の後かは覚えていないけど、「西洋では縁起の悪い日らしい」というぼんやりした常識的なものがひとり歩きして、13日の金曜日は「縁起の悪い日」とみなされるようになったせいか、たまたま13日の金曜日というだけで、良くないことが起こりそうだとか憂鬱だとか、そんな会話が交わされるのをよく見聞きするようになった。
確率上13日の金曜日というものは、1年の間に1~3回は必ず発生する。
だからまあ、その会話自体もそうそう何度もされるわけではない。
でもね、ちょーっと考えると分かるけど、たまたまその会話を聞いていた人が、その日まさに誕生日ってこともあるのよ。ちょうどその日の私のようにね。
大した仲のいいわけでもないクラスメートの軽い会話に、「不愉快な話しないで!」と突っ込むこともできない。
ただ、それを聞いて気持ちが下がってしまうのもどうしようもないのだ。
仲のいい間柄でも、「あ、ごめん」と言う子に会ったことはなくて、「そりゃ災難だね」と笑い飛ばされる。
だよね。私だって13日生まれでなかったら、たぶん深刻に捉えることはなく、そう反応したと思う。
13日生まれというのは、5、6年に一回訪れる金曜日、自分の誕生日に「最悪」「不吉」と悪気なく言う人たちの言葉に、バターナイフがバターをすっとはがし取る程度の傷つき方をする運命なのだろう。
ちなみに、今は女子校だからまだいいけど、共学だった中学時代はもう一つ憂鬱要素があった。
たまたま人気アイドルで、7月13日うまれの人が2人もいたので、ファンの男子に「お前なんかが同じ日に生まれてんなよ」という、いわれのない攻撃をされるのだ。
歌唱力が高くてちょっと癖のあるA菜ちゃんと、健康的でかわいいH美ちゃん。
もちろん一般ピープルの私には、2人のような魅力はない。
「そういう星の下に生まれる」とはいうけれど、誕生日が同じだからって同じようなアイドルや美少女になれるわけではないのだ。
(風評被害を懸念しつつ…どっちかというと、A菜ちゃんのファンの方がより攻撃的だったなあ)
60年代生まれ80年代育ちJKの、とるに足らない憂鬱と喜び。
タイトルはトム・クルーズ主演映画及びその原作
『7月4日に生まれてBorn on the Fourth of July』のもじりです。
***
『スウィート・リトル・シックスティーン』って曲がある。
私が生まれる10年も前に、チャック・ベリーという人が歌った曲らしい。
「すてきな16歳」なんて、甘くて素敵なバラードみたいな曲をイメージしたんだけど、どうやらロックンロールらしい。
「ビーチボーイズは知ってるか?」
「うん、聞いたことがある」
「『サーフィン・U.S.A.』って曲があるんだが、どんなのか知ってる?」
「…うん、なんかこんなの…?」
私はおぼろげな記憶で「たたら、ちゃららら」とメロディーを口演奏をした。
歌詞の意味なんか考えたことなかったけど、元合唱部員のプライドで、そこそこ正しい音程で再現できたはず。
「それそれ。その歌はもともと『スウィート・リトル・シックスティーン』の替え歌だったんだよ」
「へえ、そうなんだ」
1984年7月13日の朝、台所で父とこんな会話をしながら朝食を摂った。
なぜ日付が特定できるかといえば、その日が私の16歳の誕生日だったからだ。
だから『スウィート・リトル・シックスティーン』の話になったんだけどね。
その朝食の席で、「無駄遣いするなよ」の一言を添えて、父と母の連名で「お誕生日おめでとう」と渡されたのは、油紙の封筒に入った3枚の1,000円札だった。
もう夏目漱石の新札が出回っていた頃だったので、肖像は夏目だったかもしれないけれど、伊藤博文だったような気もする。
どちらにしても流通紙幣には違いないし、私はありがたくいただいた。
お小遣い日まで1週間あったので、少し懐は寂しかったし、ありがたいというのはうそではない。
ただ本音をいえば、愛用のビニール製財布の札入れに収めながら、「何か味気ない…」とは思っていた。
『じゃりン子チエ』の竹本テツさんなら、「金を差別すな、バチあたりが」と言いそうなシチュエーションである。
実は、誕生日だというのに憂鬱な気持ちになる事実が一つあった。
◇◇◇
朝の教室で、あまり口を利かないクラスメートが会話をしているのを耳にした。
「ねー、今日さあ…」
「そう、サイアクだよねー」
…やっぱりか。うん、登校前から分かっていた。
1984年7月13日――金曜日。
その何年か前に、アメリカのホラー映画『13日の金曜日 Friday the 13th』が公開された。
それ以前からか、映画公開の後かは覚えていないけど、「西洋では縁起の悪い日らしい」というぼんやりした常識的なものがひとり歩きして、13日の金曜日は「縁起の悪い日」とみなされるようになったせいか、たまたま13日の金曜日というだけで、良くないことが起こりそうだとか憂鬱だとか、そんな会話が交わされるのをよく見聞きするようになった。
確率上13日の金曜日というものは、1年の間に1~3回は必ず発生する。
だからまあ、その会話自体もそうそう何度もされるわけではない。
でもね、ちょーっと考えると分かるけど、たまたまその会話を聞いていた人が、その日まさに誕生日ってこともあるのよ。ちょうどその日の私のようにね。
大した仲のいいわけでもないクラスメートの軽い会話に、「不愉快な話しないで!」と突っ込むこともできない。
ただ、それを聞いて気持ちが下がってしまうのもどうしようもないのだ。
仲のいい間柄でも、「あ、ごめん」と言う子に会ったことはなくて、「そりゃ災難だね」と笑い飛ばされる。
だよね。私だって13日生まれでなかったら、たぶん深刻に捉えることはなく、そう反応したと思う。
13日生まれというのは、5、6年に一回訪れる金曜日、自分の誕生日に「最悪」「不吉」と悪気なく言う人たちの言葉に、バターナイフがバターをすっとはがし取る程度の傷つき方をする運命なのだろう。
ちなみに、今は女子校だからまだいいけど、共学だった中学時代はもう一つ憂鬱要素があった。
たまたま人気アイドルで、7月13日うまれの人が2人もいたので、ファンの男子に「お前なんかが同じ日に生まれてんなよ」という、いわれのない攻撃をされるのだ。
歌唱力が高くてちょっと癖のあるA菜ちゃんと、健康的でかわいいH美ちゃん。
もちろん一般ピープルの私には、2人のような魅力はない。
「そういう星の下に生まれる」とはいうけれど、誕生日が同じだからって同じようなアイドルや美少女になれるわけではないのだ。
(風評被害を懸念しつつ…どっちかというと、A菜ちゃんのファンの方がより攻撃的だったなあ)
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