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アオい思い
青い樹木
しおりを挟むその出会いは、県立風祭高校の文化祭でのことだった。
風高は、図書委員で1年先輩で仲よくしてもらっていた浅田さんがいるし、一応受験を考えている学校でもあったので、様子見くらいの感じで、仲のいいアキちゃん&ヨリちゃんと見物に行った。
◇◇◇
火を使えないとか、シロートが料理したものをお金を出して食べさせることができないとか、いろんな縛りがあるので、食べ物や飲み物は既製品ばかりだし、ちょっと進学率がいいだけのフツーの田舎の公立高校だから、芸能人を呼ぶこともない。
出し物も似たようなものだけど、ワイワイにぎやかにやっているところに行くと、それだけでウキウキする。
(娯楽が少ない田舎もんで悪かったわね!)
一応、学校内を案内する図面はもらったけど、そういうのは特に見ないで、ただ校舎内を歩いて、面白そうなところを見たり、ちょっとかっこいいお兄さん(とみんなが言っていた)の呼び込みに応えて入ったり、本当にテキトーにブラブラした。
「ねえ、ここ見て行かない?」
一緒に来ていたアミちゃんが指さしたのは、美術部と写真部の合同展示だった。
壁のほかにパーテーションにも作品がはられていて、そういう絵や写真を使ったポストカードが「ご自由にお取りください」と書かれたカードとともに、小さなかごに7、8種類置かれていた。
アミちゃんは絵っていうか漫画とかイラストが好きだけど、うちの学校には美術部も同好会もないから、ペンタブとか使って個人的に描いて、たまにSNSにアップしている。
絵が全く描けない私にしてみると、「人が見て分かるものが描ける」ってだけでもうソンケイものなんだけど、アミちゃんは展示物をひとつひとつ「やっぱり高校生はレベル高いなあ…」ってうなりながら見ていた。
ヨリちゃんは、どっちかというと写真に興味があるみたい。
それも一枚の写真の前に立って、じーっと見つめていた。
お祭りの夜店らしきところの前で、白い狐のお面をかぶって浴衣を着ている、小さな女の子の写真。
どうやらそれが好きなアーティストの曲と同じタイトルで、雰囲気がMVの演出にも似ていたから気になったみたい。
私が一番好きだなと思ったのは、青と黒とグレーで描かれた「樹木」という絵だった。
暗い森の中の太い幹と枝。
木肌の感じは粗いけど、それが不思議とリアルに見える。かなりダークな絵だ。
絵の技術とかそういうのはよく分からない。
そういう理屈はどうでもよくて、とにかく「これ、いいな」と思った。
絵そのものもだけど、解説文がね。
「ちょっとちょっと
気に入ったからってそんなに見つめないで
恥ずかしくて赤くなっちゃうかも」
絵の雰囲気からは想像つかない、何となくとぼけた感じの文章。
私はその絵を描いた人を勝手に想像してみた。
背が高くてやせた――というか、細長い感じのフォルムの、眼鏡をかけた優等生タイプ。
でも、何か面白いことを言ってみたいなっていつも考えてそうな、遊び心のある人だと思う。
いや、体型とかメガネとかは完全に自分の趣味なんだけど。
作者は「1年 滝田薫」と書いてあった。
受付は部員1、2人ずつ交代でやっているらしくて、「滝田さん」はその場にはいなかったし、『樹木』は残念ながらポストカードにはなっていなかった。
ヨリちゃんが気に入った例の写真はポストカードになっていたし、アキちゃんも1、2枚、気に入ったものを取っていたけれど、「私はいいや」って言ったから、2人は私が楽しめなかったのかと気にしていた。
とんでもない!だって私、多分この場で恋をしたんだもん。
応援ありがとうございます!
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