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ラムレーズン
アイスの差し入れ【終】
しおりを挟む我が校の文化祭は夏休み明けに行われるので、同人誌の編集会議は夏休みも利用された。
奈美恵には一応、「何か書きたいものがあったらコレに書いて」と原稿用紙を渡してあったが、うるさそうな顔をされただけなので、あまり期待はしていない。
私が編集会議のために学校に行ったと知り、帰省中だった大学生の兄が、アイスクリームの差し入れを持ってきてくれた。
それも業務スーパーで格安で買った「ガリガリ君」ではない。
カップは小さいが値段の高い「ブランドもののアイスクリーム」だ。
暑い日だったし、アイスクリームが嫌いな女子高生はあまりいない。みんな大いに盛り上がった。
兄が「妹の部活にかこつけて、JKにいい顔したい」という意図で来たことは明白だったが、そういう軽いノリも憎めない兄である。
中肉中背、平凡を絵に描いたような男ではあるが、アイスの差し入れはヒトを2、3割補正してくれるようで、「お兄ちゃん、気が利くし、かっこいいね」と後々言われたりした。
私たちがわいきゃいいいつつスプーンでアイスをしゃくっていると、突然、部室の戸が威圧的な音をたてて開き、奈美恵が立っていた。
「ちょっと、何で私だけ仲間外れなのよ!?」
「いや、一応編集会議の日程は知らせてあった…よね?」
どうやら奈美恵はその日、別件で学校にたまたま来ていて、たまたま彼女を見かけた顧問が、「日影は行かないのか?」と声をかけ、差し入れの件を知ったのだという。
「そうか。運がよかったね」
多分、この場にいる誰もがその逆のことを思ったと思うが、私は愛想笑いを浮かべて言った。
そして、それだけならまだしも、寄せ合って島をつくった机の上にあるものが、カップアイスだと知ると、奈美恵はこう言い放った。
「なあんだ。差し入れってアイスなの?まあ暑いからってのは分かるけど、随分短絡的だよね」
強気そうな美人女子高生の乱入に気おされ、一層影の薄くなった我が兄は、そう言われても「あ、はは…」と笑うだけ。
「日影さんも食べる?えと、ラムレーズンしか残ってないけど…」
「ラムレーズン?私、大嫌い!好みは人それぞれだけど、食べる人の気が知れないわね」
結局奈美恵はそう言い残し、部室を去っていった。
奈美恵の一連の態度で、場の空気は(例によって)さーっと冷め、どこか兄も落胆した表情に見えた。
小説も読むが空気も読む私たち創作読書部員の面々は、兄を元気づけるように「めちゃくちゃおいしい!」「こんないいアイス、普段は食べられないからうれしー」「先生より気が利く~」などと、わざとらしいほどに口に出した。
みんな内心奈美恵に対しては、「そもそも呼んでねーよ!」「お前に食わせるアイスはねえ!」「ラムレーズンおいしく戴いてるワタシに謝れ!」「さっさと退部届出せ!」とも思っていたけれど、それを口に出すことはできないでいた。
【『ラムレーズン』了】
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