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ラムレーズン
5月の新入部員
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ちょっと腹の立つことがあったので、それをモチーフとして、憂さ晴らしに勢いで書いてみました。
特に時代設定は設けていません。読む人が読めば少し昔っぽいし、現代でも多分ある話ではないかと。
***
私が所属している山羽女子高校創作読書部は、部活の体裁を保っていられるのが不思議なくらいの弱小クラブである。
「看板に偽りなし」の、読書か創作のどちらかが好きな人なら大歓迎の部活だ。
学園祭のときに販売する同人誌発行が、一番の活動らしい活動だろう。
みんなが書いた小説や詩、書評などを編んで、幸いいつでも1人2人はいるイラストの得意な人に表紙や挿絵を描いてもらう。
地味だけれど、みんなそれなりに楽しんでいたし、時々は他校との交流もあった。
同人誌に載せる原稿をゲストとして書いてもらったり、合同読書会を開いたり、いろいろ。
今年は芥川龍之介の『蜜柑』を読み、感想を持ち寄った。
負担が少ないようにという配慮か、読みやすい短編を選ぶのがならわし(というか先生の趣味?)みたいだ。
◇◇
ところで、今年は5月の読書会の直前に、異例の中途入部があった。
日影奈美恵、2年生。
きれいな顔立ちで、それなりに勉強はできるが、いまひとつ情緒的なものへの理解が乏しく、しかも一言多いせいか、あまり好かれていなかった――という理由で、入部に難色を示した部員もいないではなかったが(多分、私を含む2年生全員)。
でも、まさかそういう理由で拒否もできず、「大歓迎よ」というムードで受け入れたし、奈美恵の態度も弱小部活に「入ってやった感」丸出しだったから、しょっぱなから波乱の予感がした。
一応、奈美恵と同じクラスで、副部長でもある私が、「もうすぐ読書会があるんだけど、日影さんも出る?」と声をかけると、「は?出ないわけないでしょ」と言われた。
ですよねー。
今年は大月高校(男子校)との合同読書会。
それを聞きつけて奈美恵が入部したのだろう。奈美恵というヒトを知る者なら誰でも思ったことだ。
地元でも伝統あるエリート男子高・大月の生徒とお近づきのチャンスなのだから、とりあえず乗っかりたいと考える女子生徒がいても不思議はない。
ただ、「読書会に参加するような男子」とは別に仲よくならなくても――と考える子が多いのが、ちょっとノリの軽い生徒の多い山羽クオリティーのせいか、奈美恵のような生徒は珍しい。
顧問の先生がプリントを用意してくれたので、買ったり借りたりする手間も負担もなかったが、奈美恵は簡単に右肩だけを綴じたそれを見て、眉根にしわを寄せた。
「ちょっと、何これ?」
「課題図書…」
「それは分かるけど、雑過ぎない?」
「雑…」
「ちゃんと製本しろとは言わないけど、せめてもっと読みやすい綴じ方してくれればいいのに」
ふむ。奈美恵姫は「読めりゃ何でもいい」ってわけではないのか。
「じゃ、こうやって…」と、私がステープラーの針金をはずし、折りたたんで製本…しようとしたが、そこでまた奈美恵姫からダメ出しが入った。
「ほら、ページの真ん中にブランクとか入ってないからこうなるのよ。ちょっと考えれば分かるでしょ?」
そう、ちょうど文字のある部分に折り目が来てしまったのだ。
「だね。ごめん。じゃ、図書館で借りるとか…」
「それをしないために、このプリント配ったんでしょ?それすっごい無意味」
「まあ、ねえ」
「いろいろ大変なのは分かるけど、結局配慮が足りないんだよ」
この甲高い声で文句ばかり言うお姫様を何とかいさめようと、私は一番言いたくなかったことを言った。
「じゃ、私のを貸すよ。ちょっと古い文庫本だけど」
「あんた持ってんの?じゃ、早く言いなさいよ!」
結局文句を言われてしまったが、私は翌日、奈美恵に貸した。
1日のタイムラグがあったので、その間に十分読めたと思うんだけど、確かに縦か横か、どういう組み方かで読みやすさは大分違ってくる。そういう気持ちは分からないでもないので、私は黙って渡したが、奈美恵は礼一つ言わずに受け取った。
芥川好きの子はほかにもいるから、持っている子はいたかもしれないが、プリントにしたのには、書き込みができるようにという先生の考えもあったと思う。
奈美恵は感じのいい子ではないが、非常識なわけではない。
私の私物に書き込みなどしないことを祈るだけだ。
特に時代設定は設けていません。読む人が読めば少し昔っぽいし、現代でも多分ある話ではないかと。
***
私が所属している山羽女子高校創作読書部は、部活の体裁を保っていられるのが不思議なくらいの弱小クラブである。
「看板に偽りなし」の、読書か創作のどちらかが好きな人なら大歓迎の部活だ。
学園祭のときに販売する同人誌発行が、一番の活動らしい活動だろう。
みんなが書いた小説や詩、書評などを編んで、幸いいつでも1人2人はいるイラストの得意な人に表紙や挿絵を描いてもらう。
地味だけれど、みんなそれなりに楽しんでいたし、時々は他校との交流もあった。
同人誌に載せる原稿をゲストとして書いてもらったり、合同読書会を開いたり、いろいろ。
今年は芥川龍之介の『蜜柑』を読み、感想を持ち寄った。
負担が少ないようにという配慮か、読みやすい短編を選ぶのがならわし(というか先生の趣味?)みたいだ。
◇◇
ところで、今年は5月の読書会の直前に、異例の中途入部があった。
日影奈美恵、2年生。
きれいな顔立ちで、それなりに勉強はできるが、いまひとつ情緒的なものへの理解が乏しく、しかも一言多いせいか、あまり好かれていなかった――という理由で、入部に難色を示した部員もいないではなかったが(多分、私を含む2年生全員)。
でも、まさかそういう理由で拒否もできず、「大歓迎よ」というムードで受け入れたし、奈美恵の態度も弱小部活に「入ってやった感」丸出しだったから、しょっぱなから波乱の予感がした。
一応、奈美恵と同じクラスで、副部長でもある私が、「もうすぐ読書会があるんだけど、日影さんも出る?」と声をかけると、「は?出ないわけないでしょ」と言われた。
ですよねー。
今年は大月高校(男子校)との合同読書会。
それを聞きつけて奈美恵が入部したのだろう。奈美恵というヒトを知る者なら誰でも思ったことだ。
地元でも伝統あるエリート男子高・大月の生徒とお近づきのチャンスなのだから、とりあえず乗っかりたいと考える女子生徒がいても不思議はない。
ただ、「読書会に参加するような男子」とは別に仲よくならなくても――と考える子が多いのが、ちょっとノリの軽い生徒の多い山羽クオリティーのせいか、奈美恵のような生徒は珍しい。
顧問の先生がプリントを用意してくれたので、買ったり借りたりする手間も負担もなかったが、奈美恵は簡単に右肩だけを綴じたそれを見て、眉根にしわを寄せた。
「ちょっと、何これ?」
「課題図書…」
「それは分かるけど、雑過ぎない?」
「雑…」
「ちゃんと製本しろとは言わないけど、せめてもっと読みやすい綴じ方してくれればいいのに」
ふむ。奈美恵姫は「読めりゃ何でもいい」ってわけではないのか。
「じゃ、こうやって…」と、私がステープラーの針金をはずし、折りたたんで製本…しようとしたが、そこでまた奈美恵姫からダメ出しが入った。
「ほら、ページの真ん中にブランクとか入ってないからこうなるのよ。ちょっと考えれば分かるでしょ?」
そう、ちょうど文字のある部分に折り目が来てしまったのだ。
「だね。ごめん。じゃ、図書館で借りるとか…」
「それをしないために、このプリント配ったんでしょ?それすっごい無意味」
「まあ、ねえ」
「いろいろ大変なのは分かるけど、結局配慮が足りないんだよ」
この甲高い声で文句ばかり言うお姫様を何とかいさめようと、私は一番言いたくなかったことを言った。
「じゃ、私のを貸すよ。ちょっと古い文庫本だけど」
「あんた持ってんの?じゃ、早く言いなさいよ!」
結局文句を言われてしまったが、私は翌日、奈美恵に貸した。
1日のタイムラグがあったので、その間に十分読めたと思うんだけど、確かに縦か横か、どういう組み方かで読みやすさは大分違ってくる。そういう気持ちは分からないでもないので、私は黙って渡したが、奈美恵は礼一つ言わずに受け取った。
芥川好きの子はほかにもいるから、持っている子はいたかもしれないが、プリントにしたのには、書き込みができるようにという先生の考えもあったと思う。
奈美恵は感じのいい子ではないが、非常識なわけではない。
私の私物に書き込みなどしないことを祈るだけだ。
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