SS集「高校生」

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
16 / 37
ある男の半生

生活体験発表会

しおりを挟む

 学校にはそれなりに行事があります。
「生活体験発表会」もその一つでした。
 早い話が青少年の主張というか、作文の発表会なのですが、興味のない生徒にとっては、「ああ、去年眠かったやつだ」とくらいの感想しかありません。

 実はメグリは1年生のときに聞いた発表が印象深かったので、今年もそれを楽しみにしていました。
 定時制と通信制の高校に通う生徒が、自らの体験や意見を発表し、こういう形で高校で学ぶ誇りや意義を見出すというのが目的の大会です。

 例えば17歳の女の子が、「いじめられっ子で学校に行けなかった辛い小中学校時代の話」から始まり、「服装や行動で個性を出してもとがめられることなく、自由に学校に通える喜び」を熱く語ったりするのは、とても素晴らしいし、共感できる部分も多いのですが、学校にはそういう人たちがたくさんいました。
 あまり言葉選びや発表が上手でない人だと、「今朝トーストを食べました」「あしたは遅刻しないように頑張ります」と言っているのと変わらないように聞こえて、正直言ってメグリにはとても退屈でした。

 また、「自分はこんな苦労をしてきましたが、負けずに頑張りました」という発表も、聞いていて辛い話が多く、メグリのように温い高校生活を謳歌している生徒にとっては、やる気や勇気の醸成にはつながりづらいものでした。

 今自分のことを作文に書いて発表しろと言われても、絶対にうまくできる自信がないくせに、人のものを聞いてそんなふうに考えるなんて、自分ってダメなやつだなあと軽く反省していると、自分の父親より年上なのではという雰囲気の、「おじいちゃん」に近いようなおじさんが登壇しました。

+++

 その人は、県内の、メグリたちとは違う学校の通信制に在籍する男性でした。

 中学校を出てすぐに青果市場に就職したそうです。
 そのおじさんの生まれた時代を考えると、「高校に通っていた人の方が多数派だったかもしれないが、それでも中卒でもさほど珍しくない時代だった」と、作文の中で言っていました。
 おじさんは若いうちにいろいろな仕事を転々としながらお金を貯めて、30代のときに起業して、小さいながらも会社の社長さんとして今も頑張っているそうです。

 中学校の頃は英語が苦手でしたが、イギリスやアメリカのロックが好きで、耳コピで結構いろいろな曲を歌いこなせるようになりました。でも、音を追うだけで、意味は分かっていません。
 そんな父親を見ていた大学生の息子さんが、「結構それっぽい発音できてるのに、意味は分からないなんてもったいない。英語習ってみたら?」と勧めました。
 おじさんはそこで語学学校に通うことを考えたのですが、あれこれと情報収集している中で、「通信制高校」のことを知りました。
 今までにもそういうものがあることは知ってはいたものの、自分には無縁だと思っていたのですが、ちょっと気になっていろいろ調べてみると、自分より高齢の人も勉強していたり、若くても事情があって通信制を選んだり、強い意思で何かをやりとげようとしている人がいたりするのを知り、がぜん興味が強まりました。

『それは私にとっては、Web上で個人的に生活体験発表会を聞いたような体験でした。私は語学学校ではなく、通信制高校への入学を決意しました。』

 おじさんのユーモアを交えての語り口には、人柄のよさや知性があふれていました。

 メグリは家に帰り、その話を母と姉に聞かせて、こんなふうに言いました。

「私、あんなかっこいい大人になりたいな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

一輪と花束

あおみなみ
青春
年中行事好きな男子と、ちょっとクール?な女子の、高校生恋愛未満物語です。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

女子高生のワタクシが、母になるまで。

あおみなみ
青春
優しくて、物知りで、頼れるカレシ求む! 「私は河野五月。高3で、好きな男性がいて、もう一押しでいい感じになれそう。 なのに、いいところでちょいちょい担任の桐本先生が絡んでくる。 桐本先生は常識人なので、生徒である私にちょっかいを出すとかじゃなくて、 こっちが勝手に意識しているだけではあるんだけれど… 桐本先生は私のこと、一体どう思っているんだろう?」 などと妄想する、少しいい気になっている女子高生のお話です。 タイトルは映画『6才のボクが、大人になるまで。』のもじり。

My Angel -マイ・エンジェル-

甲斐てつろう
青春
逃げて、向き合って、そして始まる。 いくら頑張っても認めてもらえず全てを投げ出して現実逃避の旅に出る事を選んだ丈二。 道中で同じく現実に嫌気がさした麗奈と共に行く事になるが彼女は親に無断で家出をした未成年だった。 世間では誘拐事件と言われてしまい現実逃避の旅は過酷となって行く。 旅の果てに彼らの導く答えとは。

二人の距離がゼロになるまで

ゆらり
青春
入学式、一目惚れした男の子と結ばれるまでの物語です

処理中です...