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禁断のラム酒増量
朱美のいいところ
しおりを挟む「私さあ、今回は結構真剣だったんだよね、吉田君のこと…」
朱美は堅揚げのドーナツをひと口かんで、ホットミルクとともに飲み下した後、しみじみと言った。
「うん、分かるよ。トリュフも(お酒きつかったけど)おいしかったもん。一生懸命作ったんだよね」
いつも明るい朱美が落ち込みぎみとはいえ、食欲だけは通常運転なのが「らしいなあ」と思いつつ、友恵は聞き役と盛り上げ役に徹していた。
その間春奈は「これって何て読むんだっけ?」と歴史的かなづかいや漢字を友恵に確認しながら、ノートを写していた。
「やっぱ友恵は優しいなあ。友恵が男の子だったら彼氏になってほしかったよ」
「そうだね、私が彼氏だったら、朱美のこと絶対泣かせないよ」
「もう、友恵~好き好きー。もう私、女の子に走っちゃおうかな~」
「…私はいつでもOKだけど、早まんない方がいいよ」
「そう?もう男なんてコリゴリなんだけど」
「利いたふうなこと言うね。あ、口の脇にドーナツついてるよ」
友恵はそう言いながら、朱美の唇の右側についたドーナツのくずを指でとり、自分の口にぺろっと入れた。
「あ~、ほらそういうの~すんごいカレシっぽいんですけど~」
「吉田君もこんなふうにしてたの?」
「あいつはそんなことしなかったあ!憧れてたんだけどお!」
「…そうなんだ…」
▽▽
友恵と朱美は高校入学後にすぐ仲良くなり、それぞれ細身で長身と小柄ぽっちゃりということで、凸凹コンビとして鳴らしていた。
春奈はそれぞれと別々のきっかけで仲良くなり、基本2人、時々3人のようなユニットで行動を共にするようになった。
余談だが、春奈は2人のことを「早川」「唐橋」と姓で呼んでいる。
「唐橋ってさ、何か妙にモテるよね。やっぱり胸大きいから?」
淡々とシャープペンシルを走らせつつ、春奈が言った。
身長150センチでバストは85センチ(Eカップ)ということで、特別に美少女というわけではないが、確かに朱美は特に男子に注目されることが多かった。
「やめてよ、おっぱいしか取り柄ないみたいに言わないで」
バストの大きな少女が結構な割合でそうであるように、朱美もその点に触れられるのを嫌がる方だった。
「いや、それに髪もきれーじゃん。武器二つもあったらそりゃ強いよね」
フォローするように友恵が言った。
「そうかな…」
こう言われれば、朱美もまんざらではない。
「まあ、あんたは黙ってたってどうせまた彼氏できるからさ。
真面目な早川を禁断の道に引っ張り込むのはやめときな」
「禁断って…」
友恵が春奈の突然の発言に戸惑う。
多分朱美は、失恋と糖類(とアルコール)の過剰摂取でテンションがおかしくなっていただけで、「女の子に走っちゃう」は本気ではないだろうと、友恵も春奈ももちろん分かっていた。
▽▽
この時代のこの街は別学の高校が主流だったため、異性とのお付き合いといえば他校生ということになるが、部活同士の交流、バイト先、中学時代の同級生の紹等々、幾らでもルートはあった。
そんな中で朱美が誰か少年を好きになり、率直に告白する。
その少年たちは朱美を「興味ない・嫌い」「まあまあ・付き合ってやってもいい」「かわいい・好き」のいずれかで、多分それぞれが同じくらいの割合だろうから、朱美の恋愛成就率はまずまずだったし、時には告白されることもあった。
惚れっぽく、惚れられるとほだされやすく――それが朱美のかわいいところであり、危なっかしいところでもあったのだ。
「そうだよ。吉田君なんて目じゃないくらいすてきなカレシできるって!」
友恵が(ほぼ勢いで)太鼓判を押すようにそう言った。
「ありがと。2人ともだーい好き!」
「形がいびつだからパパにあげよう」と、冷蔵庫にキープしていたトリュフも平らげた朱美は、一杯機嫌のような調子になり、右腕と左腕で2人の肩をぐっと抱き寄せた。
内側に巻き込むように抱き寄せたので、おでんの白はんぺんのように柔らかで温かな胸が友恵たちの体に当たったが、朱美は全く気にしていない様子だった。放っておいたらキスしてきそうなノリだったので、そこはさすがに「どうーどうー」と、2人がかりで馬をなだめるように制した。
急ごしらえの失恋やけ食いパーティーは、この辺でお開きのようだ。
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