SS集「高校生」

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
8 / 37
ビートルズと紅茶と…

乙女の奇癖

しおりを挟む


 そして、これは私だけかな?
 腹痛がおさまった直後に「触れたもの」に、一時的にすごくはまっちゃうという変な癖があるのだ。

 一番最初の記憶は小学生ぐらいの頃だったと思う。
 トイレの出入りが一段落し、リビングに行くと、テレビで何かクルマのCMが流れた。
 そこで使われていた曲がとても明るくてきれいなメロディで、英語の歌詞は分からなかったけれど、ただただ耳に心地よかった。
 「これ何て曲?」と誰に聞くでもなく言ってみたら、「ビートルズの『Here, There and Everywhere』って曲だよ」って父が教えてくれた。
 なぜだかとてもうれしそうなのは、自分が好きなアーティストに娘が興味を示したからだろう。

「よく分かんないけど、この曲好きだなあ」
「お、いいぞいいぞ。お父さんCDいっぱい持っているから、どれでも聞きなさい」
「いや、そこまでは――でも、ま、聞いてみようかな」

 父は本当に素直な性格をしているので、私が「そないです」的なことを言ったら、分かりやすくがっかりの表情をした。だから私は軌道修正して、「聞いてみるね」と社交辞令的に言った。親しき仲にもってやつで、意外と家族の間でも「こういうの」が大事なこともあるのよ。

 で、実際聞いてみたら、ずっぽりハマってしまったのだ。
 CMで使われていたり、カバーされたりで聞いたことのある曲もあったし、初めて聞いた曲も、すごくいいなと思うものがたくさんあった。

 特に気に入ったのが『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)』ってアルバムで、父の一番のお気に入りらしく、「わかってるねえ」と、満面の笑みでmp3のプレイヤーに入れて渡してきた。
 正直、「ジャケットがにぎやかで面白い」って理由だったんだけど、もちろん好きな曲ある。
『When I'm Sixty-Four(64歳になったら)』という歌は、高校生の今でも大好きで、時々友達とカラオケに行ったときに隠し玉的に歌ったりするし、結構評判もいい。

▽▽

 最近だと、家族でテレビを見ていたとき、突然キューッと来てトイレに駆け込んだ。
 お姉ちゃんに「何か悪いものでも食べた?」とか、大した心配してなさそうな調子で言われながら、「わかんない…でもまあおさまってきたかな…」と言いながら、ラグの上にあおむけに寝てお腹をさすっていたら、テレビで『ガールズスクール すてきにティータイム』という番組をやっていた。

 何かカルチャースクールで教えそうなレース編みとかカリグラフィーとかを、講師とタレントが出てきて3、4週にわたってやってみせるという、すごくぬるめの教養番組らしくて、そのときの特集がたまたま「紅茶」だったのだ。

 これが結構面白くて、その日は「紅茶を淹れるときのゴールデンルール」とか、簡単な焼き菓子の作り方とかを紹介していた。
 ショートブレッドが超おいしそう。もともと輸入食材の店で時々買っていたんだけど、自分で作れるなら試してみたいな…と思いながら、お腹の上に手を置いていた。

 そのときはぼうっと見ていただけだけど、番組のウェブサイトをのぞきに行ったら、案の定、レシピやワンポイント動画みたいなのがアップされていた。

 翌週からは番組を予約録画したりして、私はまんまと紅茶にハマってしまったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不良になってみた俺は、別校の不良少女と秘密の関係を築くことになった

青野そら
青春
普通の生活にどことなく息苦しさを抱えていた蓮は、ある日思い切って授業中に教室を抜け出した。 その足で偶然公園へ辿り着いた蓮は、別校の制服を着た少女、瀬奈と出会う。 互いに初対面であるのに、不思議と弾む会話。 そして思いがけない接近。 秘密の関係を続けていくうちに、いつしか彼女の奥底に秘めた本心を知ることになる。

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

サンスポット【完結】

中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。 そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。   この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。    ※この物語は、全四章で構成されています。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

ボールの行方

sandalwood
青春
僕は小学生だけど、これでも立派な受験生。 放課後、塾のない日は図書館に通って自習するほどには真面目な子ども……だった。真面目なのはいまも変わらない。でも、去年の秋に謎の男と出会って以降、僕は図書館通いをやめてしまった。 いよいよ試験も間近。準備万端、受かる気満々。四月からの新しい生活を想像して、膨らむ期待。 だけど、これでいいのかな……? 悩める小学生の日常を描いた短編小説。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...