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ビートルズと紅茶と…
乙女の奇癖
しおりを挟むそして、これは私だけかな?
腹痛がおさまった直後に「触れたもの」に、一時的にすごくはまっちゃうという変な癖があるのだ。
一番最初の記憶は小学生ぐらいの頃だったと思う。
トイレの出入りが一段落し、リビングに行くと、テレビで何かクルマのCMが流れた。
そこで使われていた曲がとても明るくてきれいなメロディで、英語の歌詞は分からなかったけれど、ただただ耳に心地よかった。
「これ何て曲?」と誰に聞くでもなく言ってみたら、「ビートルズの『Here, There and Everywhere』って曲だよ」って父が教えてくれた。
なぜだかとてもうれしそうなのは、自分が好きなアーティストに娘が興味を示したからだろう。
「よく分かんないけど、この曲好きだなあ」
「お、いいぞいいぞ。お父さんCDいっぱい持っているから、どれでも聞きなさい」
「いや、そこまでは――でも、ま、聞いてみようかな」
父は本当に素直な性格をしているので、私が「そないです」的なことを言ったら、分かりやすくがっかりの表情をした。だから私は軌道修正して、「聞いてみるね」と社交辞令的に言った。親しき仲にもってやつで、意外と家族の間でも「こういうの」が大事なこともあるのよ。
で、実際聞いてみたら、ずっぽりハマってしまったのだ。
CMで使われていたり、カバーされたりで聞いたことのある曲もあったし、初めて聞いた曲も、すごくいいなと思うものがたくさんあった。
特に気に入ったのが『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)』ってアルバムで、父の一番のお気に入りらしく、「わかってるねえ」と、満面の笑みでmp3のプレイヤーに入れて渡してきた。
正直、「ジャケットがにぎやかで面白い」って理由だったんだけど、もちろん好きな曲もある。
『When I'm Sixty-Four(64歳になったら)』という歌は、高校生の今でも大好きで、時々友達とカラオケに行ったときに隠し玉的に歌ったりするし、結構評判もいい。
▽▽
最近だと、家族でテレビを見ていたとき、突然キューッと来てトイレに駆け込んだ。
お姉ちゃんに「何か悪いものでも食べた?」とか、大した心配してなさそうな調子で言われながら、「わかんない…でもまあおさまってきたかな…」と言いながら、ラグの上にあおむけに寝てお腹をさすっていたら、テレビで『ガールズスクール すてきにティータイム』という番組をやっていた。
何かカルチャースクールで教えそうなレース編みとかカリグラフィーとかを、講師とタレントが出てきて3、4週にわたってやってみせるという、すごくぬるめの教養番組らしくて、そのときの特集がたまたま「紅茶」だったのだ。
これが結構面白くて、その日は「紅茶を淹れるときのゴールデンルール」とか、簡単な焼き菓子の作り方とかを紹介していた。
ショートブレッドが超おいしそう。もともと輸入食材の店で時々買っていたんだけど、自分で作れるなら試してみたいな…と思いながら、お腹の上に手を置いていた。
そのときはぼうっと見ていただけだけど、番組のウェブサイトをのぞきに行ったら、案の定、レシピやワンポイント動画みたいなのがアップされていた。
翌週からは番組を予約録画したりして、私はまんまと紅茶にハマってしまったのだ。
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