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My grandma told me(その1)
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※以前「My grandma told me」のタイトルで3000字強でアップしたものですが、今回は諸般の事情により2回に分けて公開します。
◇◇◇
私が言わなくてもみんな知っていることではあるが、世代交代というのはいきなり発生するものではない。
私は昭和43年生まれで、父は昭和ヒトケタ、母はギリギリ戦前生まれだ。
だから当然、その親世代である祖父母たちは明治・大正生まれということになる。
平成後期や令和生まれの子たちから見たら、昭和生まれは私たちにとっての明治生まれと変わらない――と考えると、なかなかにぞっとするものがある。
若い子に「昭和ってこうだったんでしょう?」と、どこで覚えたと思うようなレトロ知見を披露されると、「いやいやいや、昭和ったって長いんだよ?」とムキになってしまうものだ。
つまり、「明治・大正生まれのじじばばと接し、いろいろ覚えた昭和世代――に育てられた子供が親になって、子供を産んで、その子がまた産んで…」と順送りしていく中で、廃れたり風化したりする常識もあれば、しつっこく残っていく常識もあるということだ。
それが本当に常識ならば、残っていくのは当然なのだが、どちらかというと迷信や風習といった方がいいものも多い。
◇◇◇
私の母は、私が小さい頃からバイトや正職員としていろいろな形で働いていることが多かったので、子供の世話は母方の祖母がしてくれた。
短気で口うるさく、買い食いなどしようものなら罪人扱いといううっとうしい人だったので、兄や弟は祖母を積極的に遠ざけていたから、私はがっつりホールドされた。
私はもともと身内にも無邪気に甘えられるタイプではなかったので、祖母はバカ犬か何かをしつけるつもり(という程度の愛情や愛着は感じた)で口うるさく接したのだろう。割としようもない「常識」を叩き込まれた。
ちなみに祖母の「う~ん」なエピソードはこんな感じ。
◆正月飾りの「一夜飾り」はNG → という言い習わしを、クリスマスツリーにも適用して語る。
別にアドベントカレンダーからオーナメントを出して、とかいう本格的なものを知っていたわけではない。あくまでしめ飾りと同列だったのだ。
まあクリスマスツリーを24日にいきなり出すことはまずないので、「何言ってんのこのばあちゃん…」で済む話かもしれない。
◆家にいることが多かったので、電話番も祖母の仕事だった。祖母以外の家族にかかってきたとき、その家族が不在だと、「電話があった」と教えてくれるのはいいが、メモを取る習慣がない上に、名前や用件を覚えていない。
「電話あったよ」「誰から?」「心当たりを全部言え。そうすれば思い出すかもしれない」などという無茶ぶりはしょっちゅうだった。
留守番電話機を導入してほしいと本気で思ったが、「あんな高いもの不要だ」「私に居留守を使えというのか?」と理解を得られず。
◆祖母には弟妹が何人かいたが、末妹(つまり私の大叔母)はかなり若いうちに亡くなった。居酒屋を経営して3人の娘をシングルで育て上げたサバサバ系の人だったので、仲は悪くなかったものの、考え方の合わないところもあったようだ。
大叔母の葬儀で淡々と母を見送る娘(祖母から見た姪)たちに対し、「親の葬式で泣かないなんて!棺にすがって泣き叫べ(意訳)」的なことを強要し、ドン引きされていた。
一番弁のたつ三姉妹の次女(有名女子大出身で日・英・仏トリリンガル)に、「伯母さんにはそう見えなくても、私たちは私たちで母さんを悼んでいる。私たちの感情までコントロールしようとしないで」と正論をかまされ、「あんたはそうやって口ばかり達者で!だから女が学をつけるのはよくないんだ!」と反論。いや反論にもなっていないか。
◆家庭用ビデオが普及する前の昭和の家庭では、音楽番組や演芸番組の漫才、落語などをテレビから録音するのが割と一般的だった。
ライン録音ならまだいいのだが、ラジカセなどをテレビの前に置いて、RECボタンをぽちっとするだけだから、当然周りの雑音も拾ってしまう。
家族はみんな、少なくとも「本編」の間は息を殺してテレビを見つめているのだが、そういうときに限ってドカドカと茶の間に乗り込み、「今それ言わんでも」という小言をぶつぶつ言い続けるのが祖母という人だった。
いやそりゃまあ、洗濯ものの出し方が悪いとか、こっちにも非はあるよ?でも、今朝も同じことで文句言ってたよね?と思うが、これ以上雑音を出すわけにもいかない。
そんなこんなで我が家のカセットテープコレクションには、森田公一(※)とトップギャランの『青春時代』にかぶさり、祖母の「何回言ったらわかるんだい!まったくバカだことバカだこと…」とぐちぐち言っている声が残った。
※お線香のCMでおなじみの『青雲のうた』の作曲者としても知られている方
◇◇◇
私が言わなくてもみんな知っていることではあるが、世代交代というのはいきなり発生するものではない。
私は昭和43年生まれで、父は昭和ヒトケタ、母はギリギリ戦前生まれだ。
だから当然、その親世代である祖父母たちは明治・大正生まれということになる。
平成後期や令和生まれの子たちから見たら、昭和生まれは私たちにとっての明治生まれと変わらない――と考えると、なかなかにぞっとするものがある。
若い子に「昭和ってこうだったんでしょう?」と、どこで覚えたと思うようなレトロ知見を披露されると、「いやいやいや、昭和ったって長いんだよ?」とムキになってしまうものだ。
つまり、「明治・大正生まれのじじばばと接し、いろいろ覚えた昭和世代――に育てられた子供が親になって、子供を産んで、その子がまた産んで…」と順送りしていく中で、廃れたり風化したりする常識もあれば、しつっこく残っていく常識もあるということだ。
それが本当に常識ならば、残っていくのは当然なのだが、どちらかというと迷信や風習といった方がいいものも多い。
◇◇◇
私の母は、私が小さい頃からバイトや正職員としていろいろな形で働いていることが多かったので、子供の世話は母方の祖母がしてくれた。
短気で口うるさく、買い食いなどしようものなら罪人扱いといううっとうしい人だったので、兄や弟は祖母を積極的に遠ざけていたから、私はがっつりホールドされた。
私はもともと身内にも無邪気に甘えられるタイプではなかったので、祖母はバカ犬か何かをしつけるつもり(という程度の愛情や愛着は感じた)で口うるさく接したのだろう。割としようもない「常識」を叩き込まれた。
ちなみに祖母の「う~ん」なエピソードはこんな感じ。
◆正月飾りの「一夜飾り」はNG → という言い習わしを、クリスマスツリーにも適用して語る。
別にアドベントカレンダーからオーナメントを出して、とかいう本格的なものを知っていたわけではない。あくまでしめ飾りと同列だったのだ。
まあクリスマスツリーを24日にいきなり出すことはまずないので、「何言ってんのこのばあちゃん…」で済む話かもしれない。
◆家にいることが多かったので、電話番も祖母の仕事だった。祖母以外の家族にかかってきたとき、その家族が不在だと、「電話があった」と教えてくれるのはいいが、メモを取る習慣がない上に、名前や用件を覚えていない。
「電話あったよ」「誰から?」「心当たりを全部言え。そうすれば思い出すかもしれない」などという無茶ぶりはしょっちゅうだった。
留守番電話機を導入してほしいと本気で思ったが、「あんな高いもの不要だ」「私に居留守を使えというのか?」と理解を得られず。
◆祖母には弟妹が何人かいたが、末妹(つまり私の大叔母)はかなり若いうちに亡くなった。居酒屋を経営して3人の娘をシングルで育て上げたサバサバ系の人だったので、仲は悪くなかったものの、考え方の合わないところもあったようだ。
大叔母の葬儀で淡々と母を見送る娘(祖母から見た姪)たちに対し、「親の葬式で泣かないなんて!棺にすがって泣き叫べ(意訳)」的なことを強要し、ドン引きされていた。
一番弁のたつ三姉妹の次女(有名女子大出身で日・英・仏トリリンガル)に、「伯母さんにはそう見えなくても、私たちは私たちで母さんを悼んでいる。私たちの感情までコントロールしようとしないで」と正論をかまされ、「あんたはそうやって口ばかり達者で!だから女が学をつけるのはよくないんだ!」と反論。いや反論にもなっていないか。
◆家庭用ビデオが普及する前の昭和の家庭では、音楽番組や演芸番組の漫才、落語などをテレビから録音するのが割と一般的だった。
ライン録音ならまだいいのだが、ラジカセなどをテレビの前に置いて、RECボタンをぽちっとするだけだから、当然周りの雑音も拾ってしまう。
家族はみんな、少なくとも「本編」の間は息を殺してテレビを見つめているのだが、そういうときに限ってドカドカと茶の間に乗り込み、「今それ言わんでも」という小言をぶつぶつ言い続けるのが祖母という人だった。
いやそりゃまあ、洗濯ものの出し方が悪いとか、こっちにも非はあるよ?でも、今朝も同じことで文句言ってたよね?と思うが、これ以上雑音を出すわけにもいかない。
そんなこんなで我が家のカセットテープコレクションには、森田公一(※)とトップギャランの『青春時代』にかぶさり、祖母の「何回言ったらわかるんだい!まったくバカだことバカだこと…」とぐちぐち言っている声が残った。
※お線香のCMでおなじみの『青雲のうた』の作曲者としても知られている方
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