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上杉ユウの生い立ち(1)
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俺の名前は熊倉雄次郎という。
もともとは「杉本」という姓だったが、熊倉という夫婦の養子になった。
思い出したり、思いついたりした順番に、深く考えずに話していきたい。
分かりにくかったらすまない、と、最初に謝っておこう。
◇◇◇
小学2年のとき、大好きだった女の子が俺のせいで熱を出した。
遊んでいる途中で雨が降ってきたので、大きな木の下で雨宿りしていたが、枝の間から水は滴り落ちるし、いつまでもやまないから、少し小降りになってから家まで送ったので、結局頭や洋服をたっぷり濡らしてしまったのだ。
その女の子のところに、いつも遊んでいる墓場で咲いていた花を持って見舞いにいったら、ばあちゃんが「熱を出したのはあんたのせいだ」と俺を責め立てたので、俺は悪態をつきながらも、もうここには来ちゃいけないと思った。
◇◇◇
俺は彼女を「チビ」と呼んでいた。
本当の名前はチヒロ(字は知らない)。たしか幼稚園の年長だから、俺より二つ下で、体も小さかった。ちょっと恥ずかしがりで泣き虫で、とてもかわいい子だった。
初めて会ったとき、チビには「お兄ちゃん」と呼ばれたが、名前で呼んでほしくて「ユウ」と教えたら、「ユウちゃん」と呼ぶようになった。
チビは友達がいないから、いつも公園の砂場で一人で遊んでいた。
俺はいつも腹を空かせていたので、その公園の隣の墓場で、お供え物を漁っていた。
チビと初めて会ったとき、墓場で栗饅頭を勧めたら、「そんなの食べちゃだめ」と言いつつ、腹をぐーっと鳴らしたのは笑った。
きっと俺と違って、ちゃんと飯を作ってくれる母親がいて、おやつももらえるんだろうが、そのときは俺が勧めたせんべいを、うれしそうにかじっていた。
19歳の今なら、ヤバいことしてるなあって分かるよ、さすがに。
◇◇◇
チビが熱を出した後、チビと公園や墓場で会うことはなかった。
多分、あのときのばあちゃんに止められていたんだと思う。
何とかして会いたいなと思っているうちに、家にいろんな大人が入れ替わり立ち代わりやってきて、父親が事故だか自殺だかで死んだこと(ぼかして伝えられた上に、興味がないのであえて確認しない)、俺と兄貴は別々の人に引き取られることなどが説明され、俺は夏休みになる前に、そのとき住んでいた家を出なくてはいけなくなった。
兄貴は6歳年上だったが、万引常習のほかにもやらかしていたらしい。多分一緒の家に引き取られなかったのは、その辺も関係があったのだろう。
兄貴は父親そっくりだった。気が弱いのを隠すように虚勢を張り、自分より立場の弱いものに暴力を振るい、うそばかりついていた。
引っ越し先で少し落ち着いてから、「お兄ちゃんに会いたいか?」と聞かれ、「すぐ殴るから嫌いだ。会いたくない」と言った覚えがある。
◇◇◇
俺は東京の祖父母の家に引き取られることになった。
既に死んでいた母親の両親だが、母が亡くなった後、父は誰にも言わずに俺たちを連れて引っ越したので、父が死ぬまで没交渉だったらしい。
祖父母といっても2人ともまだ若く、穏やかな性格で、大きな家で2人で暮らしていた。
俺は母似だったみたいで、祖母は8歳になった俺を見て、「あの子の子供の頃にそっくりだ」と言って涙をぬぐった。
俺は食べ物をくれる人と、ちゃんと話を聞いてくれる人に弱かったから、「じいちゃん・ばあちゃん」のことをすぐ好きになった。
ばあちゃんは料理が上手で、たくさん食べると喜んでくれたから、俺はバカみたいに食べられるだけ食べ、じいちゃんはそれを見て、「ユウは関取にでもなるか?頼もしいな」と俺をからかった。
が、俺はどうも食べ物が上に積み上げらていれるみたいで、背ばかりにょきにょきと大きくなり、中2で既に178センチあった。最近測っていないが、今は180は超えていると思う。
◇◇◇
俺は意外なことに勉強ができた。知能テストも結構いい数字だったらしい。
それまではまともに勉強したことがなかったのだが、ちょっとしたコーチングで、すぐにグングン吸収した。
ほんと、小学生のうちに何とかしてもらったから助かった。
分からないことはじいちゃんやばあちゃんにも聞けるし、先生もいい人――ばかりではなかったが、前の学校と違い、まじめにやればきちんと扱ってくれた。「ろくでなしの息子」なんて心ない言葉を俺に浴びせたりしない。
だから祖父母は俺を大学まで行かせたいと言っていたが、俺自身は中学を出てすぐに働きたいと思い、そう言った。
あのときはさすがに、いつも優しいじいちゃんが、「お前は世間を知らなすぎる!」と怒鳴った。
そこで高校にはとにかく行き、バイトをすることにした。
金をためておけば、大学に行きたいという気になったとき、学費を自分で出せるかもしれない。
金の管理は全部ばあちゃんに任せた。
アイスクリーム屋でバイトをしているとき、今の事務所の社長に「芸能界に興味はないか?」と声をかけられた。
そんなものに興味はなかったけれど、「売れっ子になったら大金持ちだぞ」とは乗せられた。
金が欲しいっていうよりも、自分で稼いだ金で、じいちゃんとばあちゃんに恩返しできるかもしれないというのがポイント高い。しかもかなり若いうちにだ。
じいちゃんとばあちゃんは、最初は反対したものの、社長と会って話したら、「あの人ならユウを預けてもよさそうだ」と態度を変えた。
確かに少しヘンなんだけど、ついていきたくなるようなところのある人でもあり、尊敬している。
もともとは「杉本」という姓だったが、熊倉という夫婦の養子になった。
思い出したり、思いついたりした順番に、深く考えずに話していきたい。
分かりにくかったらすまない、と、最初に謝っておこう。
◇◇◇
小学2年のとき、大好きだった女の子が俺のせいで熱を出した。
遊んでいる途中で雨が降ってきたので、大きな木の下で雨宿りしていたが、枝の間から水は滴り落ちるし、いつまでもやまないから、少し小降りになってから家まで送ったので、結局頭や洋服をたっぷり濡らしてしまったのだ。
その女の子のところに、いつも遊んでいる墓場で咲いていた花を持って見舞いにいったら、ばあちゃんが「熱を出したのはあんたのせいだ」と俺を責め立てたので、俺は悪態をつきながらも、もうここには来ちゃいけないと思った。
◇◇◇
俺は彼女を「チビ」と呼んでいた。
本当の名前はチヒロ(字は知らない)。たしか幼稚園の年長だから、俺より二つ下で、体も小さかった。ちょっと恥ずかしがりで泣き虫で、とてもかわいい子だった。
初めて会ったとき、チビには「お兄ちゃん」と呼ばれたが、名前で呼んでほしくて「ユウ」と教えたら、「ユウちゃん」と呼ぶようになった。
チビは友達がいないから、いつも公園の砂場で一人で遊んでいた。
俺はいつも腹を空かせていたので、その公園の隣の墓場で、お供え物を漁っていた。
チビと初めて会ったとき、墓場で栗饅頭を勧めたら、「そんなの食べちゃだめ」と言いつつ、腹をぐーっと鳴らしたのは笑った。
きっと俺と違って、ちゃんと飯を作ってくれる母親がいて、おやつももらえるんだろうが、そのときは俺が勧めたせんべいを、うれしそうにかじっていた。
19歳の今なら、ヤバいことしてるなあって分かるよ、さすがに。
◇◇◇
チビが熱を出した後、チビと公園や墓場で会うことはなかった。
多分、あのときのばあちゃんに止められていたんだと思う。
何とかして会いたいなと思っているうちに、家にいろんな大人が入れ替わり立ち代わりやってきて、父親が事故だか自殺だかで死んだこと(ぼかして伝えられた上に、興味がないのであえて確認しない)、俺と兄貴は別々の人に引き取られることなどが説明され、俺は夏休みになる前に、そのとき住んでいた家を出なくてはいけなくなった。
兄貴は6歳年上だったが、万引常習のほかにもやらかしていたらしい。多分一緒の家に引き取られなかったのは、その辺も関係があったのだろう。
兄貴は父親そっくりだった。気が弱いのを隠すように虚勢を張り、自分より立場の弱いものに暴力を振るい、うそばかりついていた。
引っ越し先で少し落ち着いてから、「お兄ちゃんに会いたいか?」と聞かれ、「すぐ殴るから嫌いだ。会いたくない」と言った覚えがある。
◇◇◇
俺は東京の祖父母の家に引き取られることになった。
既に死んでいた母親の両親だが、母が亡くなった後、父は誰にも言わずに俺たちを連れて引っ越したので、父が死ぬまで没交渉だったらしい。
祖父母といっても2人ともまだ若く、穏やかな性格で、大きな家で2人で暮らしていた。
俺は母似だったみたいで、祖母は8歳になった俺を見て、「あの子の子供の頃にそっくりだ」と言って涙をぬぐった。
俺は食べ物をくれる人と、ちゃんと話を聞いてくれる人に弱かったから、「じいちゃん・ばあちゃん」のことをすぐ好きになった。
ばあちゃんは料理が上手で、たくさん食べると喜んでくれたから、俺はバカみたいに食べられるだけ食べ、じいちゃんはそれを見て、「ユウは関取にでもなるか?頼もしいな」と俺をからかった。
が、俺はどうも食べ物が上に積み上げらていれるみたいで、背ばかりにょきにょきと大きくなり、中2で既に178センチあった。最近測っていないが、今は180は超えていると思う。
◇◇◇
俺は意外なことに勉強ができた。知能テストも結構いい数字だったらしい。
それまではまともに勉強したことがなかったのだが、ちょっとしたコーチングで、すぐにグングン吸収した。
ほんと、小学生のうちに何とかしてもらったから助かった。
分からないことはじいちゃんやばあちゃんにも聞けるし、先生もいい人――ばかりではなかったが、前の学校と違い、まじめにやればきちんと扱ってくれた。「ろくでなしの息子」なんて心ない言葉を俺に浴びせたりしない。
だから祖父母は俺を大学まで行かせたいと言っていたが、俺自身は中学を出てすぐに働きたいと思い、そう言った。
あのときはさすがに、いつも優しいじいちゃんが、「お前は世間を知らなすぎる!」と怒鳴った。
そこで高校にはとにかく行き、バイトをすることにした。
金をためておけば、大学に行きたいという気になったとき、学費を自分で出せるかもしれない。
金の管理は全部ばあちゃんに任せた。
アイスクリーム屋でバイトをしているとき、今の事務所の社長に「芸能界に興味はないか?」と声をかけられた。
そんなものに興味はなかったけれど、「売れっ子になったら大金持ちだぞ」とは乗せられた。
金が欲しいっていうよりも、自分で稼いだ金で、じいちゃんとばあちゃんに恩返しできるかもしれないというのがポイント高い。しかもかなり若いうちにだ。
じいちゃんとばあちゃんは、最初は反対したものの、社長と会って話したら、「あの人ならユウを預けてもよさそうだ」と態度を変えた。
確かに少しヘンなんだけど、ついていきたくなるようなところのある人でもあり、尊敬している。
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