【R18】えむ

あおみなみ

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【終】そういう関係【弘人一人称語り】

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 別れは「唐突」と言っていいほど急だった。
 つみれ汁を食べ、彼女を抱き、他愛ないおしゃべりをした日から5日後、ポストにはがきが届いた。

 僕は結局最後まで、彼女のことをほとんど知らないまま、別れを告げられた。
 理由はあまりにも滑稽。

「半年の間、一度も「好き」と言ってくれなかった」だそうだ。

 僕はあっけにとられ、少し怒り、そして最後には諦めたような気持ちになった。

 「好き」と言わなかったのは彼女も同じだったのに、なぜ僕にだけそれを要求する?
 いや、それはそれとして、あれだけ体を重ねたのに、その前も最中も後も、確かに「好きだ」という気持ちを伝えることはなかった。
 もちろん好きだった。愛してるって言葉を使っていいかどうかは微妙だったが、彼女との時間を思い出すと、全てが愛おしい。

*****

弘人さんへ

あなたは私を抱くのに、私の料理を食べてくれたのに、
私と同じ映画を見て、同じところで泣くくせに、
一度も私のことを「好きだ」って言ってくれませんでした。
多分これからも言わない。というより「もっと」言わなくなると思います。
今までありがとうございました。

私は弘人さんのことが大好きでした。

恵夢(えむ)

*****

「僕だって――大好きだったよ、
 そうか、彼女は「恵夢」という名前だったのか。
 そのままの音で呼べばよかったのか。

 回りくどくて面倒くさい、料理がうまくてかわいい「恵夢」。
 どこに住んでいて、幾つで、何をしている子かも分からない。
 でも、もしも街角で偶然出会えたら、「恵夢」って呼びかけて、「好きだ」って言えるだろうか。

 初恋ではなかったけれど、初恋のように甘くて痛い、そんな関係だった。

【了】


お読みいただき、ありがとうございます。
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