12 / 52
第11話 ほくろ【私】
しおりを挟む「おじさん」の、思いがけない置き土産
◇◇◇
新婚旅行でできたらしい赤ちゃんが流れてしまった後、カレシ改め夫は本当に丁寧に私を抱くようになった。
ダブルベッドに入り、2人でそれぞれ小説や雑誌を読んでゆったり過ごすが、どちらかが眠たくなると、『ねえ…』と言い、部屋の電気を消して絡み合う。
ある夜彼は、『私の女神』を手に持っていた。
私が少し忘れかけていた、「おじさん」が物した小説である。
私の官能に火をつけまくり、どろっどろに甘やかし、去っていってしまった、多分あんまり売れていない小説家。
この人との営みをそのまま綴っただけでも、結構いい感じの官能小説になりそうだけれど、本職である「おじさん」に先を越されたので、私はおじさんからの献本を、しばらくオカズにしていた。
「これ、君のでしょ?」
「え?ああ、タイトルに惹かれたんだけど、思っていたのと違って」
「へえ。じゃ、面白くなかったの?」
「でもないけど…エッチなシーンが多かったかな」
「へえ。読んでいい?」
「…もちろんいいけど、気に入るかどうかわかんないよ」
◇◇◇
「お、これはなかなか…来るね…」
15歳の「ありさ」が、42歳の「高藤」にねちっこく攻められ、我を忘れて幼い喘ぎ声を上げるシーンは、やはり想像力をかき立てられるのだろう。
「でも、こういうので反応するのって、イケないことをしている気分になるね。少女を犯しているみたいな」
「実際にそういうことをしないで済むように創作物があるんじゃないの?漫画とか映画とかね」
「ああ、そうか。なるほどね」
私たちが大学生の頃、「M」という男による連続幼女誘拐殺人事件が起き、日本中を震撼させた。
犯人の男はおびただしい数と広範囲にわたるジャンルの漫画、雑誌、ビデオを所有していたのだが、なぜか「漫画やアニメが好きないわゆるオタク」だと言われ、ごく普通にオタク趣味を持つ人間までが犯罪者予備軍のように言われたようだ。
でも実際のところ、創作物に書き記すだけなら、殺人だろうが詐欺だろうがレイプだろうがおとがめなしだし、書いた人間も読んでいる人間も、大多数は、実際にそういうことをしたいと思っているわけではない。
善良で温厚な一般ピープルだって、猟奇的なもの、残虐なもの、反社会的なものにひどく惹かれてしまうことってあるでしょ。だから人間は面白いんだし。
19歳の私が40歳独身のおじさんと「愛し合った」こと自体は、罪でも何でもなかったけれど、何も知らないこの人が、それを題材にした小説を読んで「興奮するね」と言ったことで、やはり少しだけ罪の意識が芽生えた。
ただそれさえも、いざとなれば、かつての浮気相手からの突然の電話を持ち出し、「あなただって似たようなことしていたじゃない」と開き直ることができる。
あの電話を受けたときは、少しの驚きと、カレもやっぱりオトコだったんだなという妙な感心と、別れたいと言われたら受け入れようという覚悟だけだった。
「この高藤みたいに君とできるかな…」
「…試してみれば?」
「これ、描写がすげえ詳しいよね。セックスマニュアルかって感じ」
「あ、あん…」
夫は後ろから唐突に、耳たぶを甘がみしながら、乳首をつぶすように胸に手を這わせた。
あまりにも性急すぎて、ちょっと笑えてくる。
「あれ…?」
「どうかした?」
「君ってありさと同じ位置にほくろがあるんだね」
「え…」
私の心臓はこのとき、生まれて初めて「早鐘を打つような」という表現がぴったりの状態になった。予想外のことに動揺してしまったようだ。夫が胸から手を離した状態でなければ、気付かれていたかもしれない。
「自分のほくろなんて、見えない位置にあったら一生気付かないよ」
「そりゃそうか。うなじの右側の部分にあるよ。何だかありさを抱いているような気分になっちゃうな」
「もう。若い子の方がいいの?スケベおじさん」
「架空の人物に妬くなよ。君の方がずっと素敵だよ、きっとね」
「ん…」
私が本を読んでいる間、ずーっと私の乳房ばかりいじっていたあの人を、「スケベおじさん」って、からかったことを思い出した。
今どこでどうしているか分からない。
出版社気付で手紙を送ることもできたけれど、なぜかそうする気にはなれなかったのは、別れも言わず去っていった「おじさん」が、それを望んでいないだろうと思ったからだ。
今、どんな女性を抱いているのだろう。
そう考えると少しだけ妬けるけれど、高藤のように私を抱こうと汗をかいている夫に身をゆだねるのが、妙に心地いい。
初体験が近親相姦、しかも自分が望んで飛び込んでいったほどの私だから、カレシがいる状態でほかの男と寝ることに、正直言ってさほどの罪悪感はなかった。
しかし結婚したとなると話は別だ。
さすがに貞淑でいなければと、しごくまっとうなことを、少なくとも最初のうちは思っていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる