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美形の赤ちゃん
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MはNが風邪で学校を休んだ日、特に意味もなく、何となくひとりで寄り道をした。
行先は書店、「ファンシーショップ」と呼ばれる雑貨店、そしてお気に入りのジューススタンドである。
小遣いが入ったばかりだったので、少し高いメロンジュースを注文し、いつものように丸いテーブル席に座り、赤いストローを弄んだ。
あのしゃれた雰囲気のベビー服の店がよく見える。
ウインドーに飾ってある紺色のセーラー襟の服が、さわやかでいい感じだなと思った。
ジュースを飲み終わり、プラスチックのコップとストローをゴミ箱に捨て、席を離れると、Kの娘がベビーカーを押して店の前に来た。
「あ……」
一瞬彼女に声をかけようとしたことに、M自身が驚いた。
一体何というつもりだったのか。
「私、K先生に中学校で教わっていたんです」「すごくお世話になっていて」
「K先生は私の兄をかわいがっていて、私のことは嫌いだったみたいで」
「私、コインロッカーに捨て子するヤツって言われたんです。ひどいくないですか?」
もちろんMは思いとどまった。
というよりも、もともとよく知らない人に自分から声をかけるタイプではない。
そのまま立ち去ろうとすると、Kの娘は大あわてて店の中に入っていった。
どうやらベビーカーには赤ちゃんを乗せたままだ。
あえてそうしたのか、うっかりそうしてしまったのかは分からない。
ともかく、Kの娘は実に不用心なことをしでかした。
Mはそっとベビーカーに近付いた。
遠くから見たときは分からなかったが、ウインドーの中のセーラー襟のベビー服は、胸元の布の部分に白いイカリのマークの刺繍が入っていたり、小さな水兵帽のようなものも付いていたりと、本当に凝っている。
その当時は若い女性の間でマリンルックが流行していたので、ベビー服にも取り入れられたのだろう。
こんなにしゃれた服だと、似合う子も限られるかもしれないが、そこはもう着ているのが「赤ちゃん」というだけでかわいいのだろうか。
改めてベビーカーの中をのぞくと、しっかり整った顔立ちで髪の毛が薄目の赤ちゃんが寝ていた。
大きく見開かれた二つの目は賢そうだし、鼻もはっきりと生えている。どこかテレビCMなどでよく見る外国人の赤ちゃんを思わせる。
こういう子なら、あのベビー服も似合いそうだとMは思った。
まだ6カ月にもなっていないであろう大きさだが、むき出しの手足を見れば、いい感じで固太りなのが分かる。何だかみんなが里子に迎えたがる子犬みたいだ。
のぞき込んで笑いかけると、にこっとほほえみ返しをしてきた。
言葉を選ばずにいえば、愛くるしい子供特有の「ちやほや慣れ」した感じがある。
とてもあのKの孫とは思えない――と言いたいところだが、Kだってどちらかといえば、朗らかで人柄がいい人物だと思われている。ただただ、Mへの当たりがひどかっただけなのだ。
何にせよ、こんなにかわいい赤ちゃんがぽつんと取り残されていたら、何者かに簡単に連れ去られてしまうのではないか。
Mは(私にそんな義理はないんだけど……)と思いつつ、赤ちゃんから目が離せなかった。
体感時間が長いだけなのか、実際に思いのほか長い時間が経っているのか、Kの娘はなかなか店から出てこない。
すぐに気付いて赤ちゃんを連れに戻ってくるだろうから、その間だけでも見張っていようか?などと考えたが、不安になるほど時間だけが過ぎていく。
どうしていいか、よい考えがまとまらない。
気付けばMの手は、赤ちゃんのふっくらした頬に伸びていた。
Mはその柔らかさと体温に感激した。
赤ちゃんはくすぐったさを感じたようで、キャッキャと声を立てて笑った。
Mはその声を聞いて、どう説明していいか分からない、今までにない感情に襲われた。
ここから駅まで歩いて3分弱。
ふだんはあまり使わないが、何年か前に新幹線が開通して全体的に大きくなったから、幼い頃の記憶よりも施設は充実しているはずだ。
(コインロッカーはたしか駅のあちこちにあるけど、一番人目に付かないのはどこかな?)
行先は書店、「ファンシーショップ」と呼ばれる雑貨店、そしてお気に入りのジューススタンドである。
小遣いが入ったばかりだったので、少し高いメロンジュースを注文し、いつものように丸いテーブル席に座り、赤いストローを弄んだ。
あのしゃれた雰囲気のベビー服の店がよく見える。
ウインドーに飾ってある紺色のセーラー襟の服が、さわやかでいい感じだなと思った。
ジュースを飲み終わり、プラスチックのコップとストローをゴミ箱に捨て、席を離れると、Kの娘がベビーカーを押して店の前に来た。
「あ……」
一瞬彼女に声をかけようとしたことに、M自身が驚いた。
一体何というつもりだったのか。
「私、K先生に中学校で教わっていたんです」「すごくお世話になっていて」
「K先生は私の兄をかわいがっていて、私のことは嫌いだったみたいで」
「私、コインロッカーに捨て子するヤツって言われたんです。ひどいくないですか?」
もちろんMは思いとどまった。
というよりも、もともとよく知らない人に自分から声をかけるタイプではない。
そのまま立ち去ろうとすると、Kの娘は大あわてて店の中に入っていった。
どうやらベビーカーには赤ちゃんを乗せたままだ。
あえてそうしたのか、うっかりそうしてしまったのかは分からない。
ともかく、Kの娘は実に不用心なことをしでかした。
Mはそっとベビーカーに近付いた。
遠くから見たときは分からなかったが、ウインドーの中のセーラー襟のベビー服は、胸元の布の部分に白いイカリのマークの刺繍が入っていたり、小さな水兵帽のようなものも付いていたりと、本当に凝っている。
その当時は若い女性の間でマリンルックが流行していたので、ベビー服にも取り入れられたのだろう。
こんなにしゃれた服だと、似合う子も限られるかもしれないが、そこはもう着ているのが「赤ちゃん」というだけでかわいいのだろうか。
改めてベビーカーの中をのぞくと、しっかり整った顔立ちで髪の毛が薄目の赤ちゃんが寝ていた。
大きく見開かれた二つの目は賢そうだし、鼻もはっきりと生えている。どこかテレビCMなどでよく見る外国人の赤ちゃんを思わせる。
こういう子なら、あのベビー服も似合いそうだとMは思った。
まだ6カ月にもなっていないであろう大きさだが、むき出しの手足を見れば、いい感じで固太りなのが分かる。何だかみんなが里子に迎えたがる子犬みたいだ。
のぞき込んで笑いかけると、にこっとほほえみ返しをしてきた。
言葉を選ばずにいえば、愛くるしい子供特有の「ちやほや慣れ」した感じがある。
とてもあのKの孫とは思えない――と言いたいところだが、Kだってどちらかといえば、朗らかで人柄がいい人物だと思われている。ただただ、Mへの当たりがひどかっただけなのだ。
何にせよ、こんなにかわいい赤ちゃんがぽつんと取り残されていたら、何者かに簡単に連れ去られてしまうのではないか。
Mは(私にそんな義理はないんだけど……)と思いつつ、赤ちゃんから目が離せなかった。
体感時間が長いだけなのか、実際に思いのほか長い時間が経っているのか、Kの娘はなかなか店から出てこない。
すぐに気付いて赤ちゃんを連れに戻ってくるだろうから、その間だけでも見張っていようか?などと考えたが、不安になるほど時間だけが過ぎていく。
どうしていいか、よい考えがまとまらない。
気付けばMの手は、赤ちゃんのふっくらした頬に伸びていた。
Mはその柔らかさと体温に感激した。
赤ちゃんはくすぐったさを感じたようで、キャッキャと声を立てて笑った。
Mはその声を聞いて、どう説明していいか分からない、今までにない感情に襲われた。
ここから駅まで歩いて3分弱。
ふだんはあまり使わないが、何年か前に新幹線が開通して全体的に大きくなったから、幼い頃の記憶よりも施設は充実しているはずだ。
(コインロッカーはたしか駅のあちこちにあるけど、一番人目に付かないのはどこかな?)
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