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三つ子の魂…
しおりを挟む「三つ子の魂百まで」という言葉がある。
持ち前の性格・性質は一生変わらないというほどの意味だ。
同じような意味で、「雀百まで踊り忘れぬ」という言い回しもある。
◇◇◇
多くの子供がそうであるように、アツミはお絵描きの大好きな少女だった。
特に誰と特定しているわけでもない人物の絵を描いて、かわいい服を着せたり、自分の中にしかない物語をぼんやりと思い描いたりしていた。
すると、それを目にした祖母が「めんげぇめろっこ様(あるいはやろっこ様)描いだね」などと、ややきつめのなまりで声をかけてくる。
これは「かわいい女の子(男の子)の絵を描いたね」というくらいの軽い意味で、多分褒めているのだろうし、別に気にならない。
嫌だったのは、「お姫様と王子様」的な言葉でくくられることだった。これは、イヌを描いたのに「クマ」と間違われるよりも嫌だと思っていた。
ほんの少しだけ画力が上がり、動作やポージングがバラエティーに富んだものになると、アツミは「デート中に腕を組んでいる男女」的なものを描いたりするのだが、(祖母を初めとする)大人たちは大抵、こんな言葉でからかってくる。
「色気づいちゃって」
「そんなのどこで覚えたんだか」
アツミは大人が言いがちな、こういうからかい言葉を聞くのが嫌で、人前で絵を描くのをやめた。
さらに、やがて絵自体を描かなくなってしまった。
学校の図画工作にも興味が持てないし、中学校に入る頃には「絵って一番苦手かも」など言うようになっていた。
多分3歳までは、画材を与えられれば、何も考えずに紙を汚すことに喜びを感じ、7歳ぐらいまでは、「裏紙とクレヨンでもあれば、何時間でもつぶせる」子供だった――はずだ。
自分のこんな記憶があったので、アツミはマコが絵を描いているのを、ただ黙って見守っていた。
マコが自分から得意げに見せてくれたときだけ、「わあ、すごく上手だね」と褒め、自分の似顔絵を描いてくれれば、仕事机の前に貼ったりしていた。
◇◇◇
4歳のマコを連れて、家族で水族館にいったとき、タコの水槽の前に立って、食い入るように見ていたかと思ったら、家に帰ってから鉛筆でメモ帳に絵を描いて、「これ、タコ!」と見せたときのケンの反応は、「うわっ、気持ち悪い」だった。それはあまりにも率直過ぎたのだが、そのくらいリアリティーがあるという褒めのニュアンスもあったようだ。
しかし、その言葉を額面通りに取ったのか、マコはちょっと悲しそうな表情を浮かべた。
「あ、そのくらい上手だってことだよ」というフォローも手遅れでむなしい。
マコはその後、アツミの前でさえも絵を描くことをためらい、やがて学校の授業以外では描かなくなってしまったし、「図工ってあんまり好きじゃない。工作はそうでもないけど、絵は嫌い」と言うようになっていた。
◇◇◇
多分、周囲から何を言われても絵を描き続ける子が、その後も絵を描き続ける人生を送るのだろう。
逆に、それまで全く興味もなさそうだった子から突然芽吹くこともある。
ケンは子供の頃から小器用で、大抵のことは無難にこなしていたから、特に絵が好きだったわけではないが、動物や道具の絵など、ちゃちゃっとワンカット描く程度ならいつでも、そして何歳になってもできた。
自分では「俺、文章書くのは苦手なんだ」と言うが、むしろ苦手と明言する人特有の無駄のなさがいい方に働き、むしろ分かりやすくて淡々としたもので、アツミの目には妙に魅力的に映った。
アツミは、生まれて間もないマコの愛嬌たっぷりの顔を見たとき、「中身もケンに似るといいな」と考えていたが、日が経つにつれ、マコの言動にしばしば「自分っぽさ」を覚えるようになった。
幼いながらに周囲に気を使い、お友達付き合いも悪くない。
学校からも「みんなと仲よくできる」「協調性がある」と好意的に評価されていた。
マコもいつか、そういう「美点」に、自分自身で価値を見出せなくなるか、逆にそれで自分を追い込んでしまったりするのではないか。
また、こんな言葉もアツミにはひっかかるものだった。
「みんなから『やさしいね』って言われるのが嫌い」
理由を聞けば、「わたしにやさしいねって言う子は、意地悪する子ばっかり。あとは掃除当番のときサボっている子とか」
それを聞いて、(ああ、やっぱりこの子は「私」だ…)とアツミはいたたまれない。
「何かしてもらってうれしいっていうときは、「ありがとう」でいいのに、やさしいねって言う子は絶対ありがとうって言わないんだよね」
面倒くさいやつと言うなかれ。
小学生ともなれば、誰かをいいように使うための魔法の呪文としての「優しい」と、純粋に人の資質を褒める言葉としての「優しい」の区別ぐらいはつく。
「優しい子」というのは、自分に意地悪な子に何か頼まれても嫌と言えないからこそ、「やさしいね」と言われてしまうのだが、マコは「弱くて反論できない」「逆らえない」と言われてるような気がしてしまうのだ――かつてのアツミと同様に。
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