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喜多川史彦

“複雑な彼”のこと

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 ところで、斉木の母ちゃんの話に戻るけど。

 まず、うちはケーキ屋だから、材料に卵や牛乳を使う。
 残念ながらアレルギーのある人に対応したものは作れないが、質のいいものを使うように親父なりに頑張ってるんだ。

 母ちゃんがある日、ネットニュースか何かを見て、「こういうのって、ちょっと複雑だよね…」と言った。
 東京の有名な菓子店で、「うちでは震災復興応援のため、F県産の産品を原料として積極的に使います」って宣言したらしいんだ。

 原発事故の後、放射性物質がどうのこうのってうるさい連中は、SNSとかで大騒ぎ。その菓子屋の公式アカウントに向かって「人殺し」なんて言うやつまでいるようだ。
 母ちゃんは、そういう連中にもちろん腹を立てる一方で、「このお店は偉いと思うけど、こうやってわざわざ言うと、『この状況でも使』感が出ちゃわないかな」と言った。

 それ、すげえ分かる。
 でも、言わなきゃ言わないで「明らかにできないようなものを使ってるのか!」って騒ぐらしいから、あー、うっせえなと思う。

 そしてその「うっせぇ」連中の1人に、斉木の母ちゃんがいたようだ。
    だから斉木は、F県ジョークとか言って放射能ネタを出すと、たとえそれが桐野であっても不愉快そうな顔をしていた。
 何か学校相手にも派手にやらかしてるらしいし、分かるよ。
 もし斉木の母ちゃんがうちの店に来て、「原料はどこのを使ってるか?」とか質問したら、あんまり愉快な気持ちにはならないだろう。
 単なる興味なら別にいいけど、絶対そうじゃねえって分かるもん。

▽▽

 その母ちゃんは、結局斉木たち(斉木、父ちゃん、姉ちゃん)と意見が合わず、生まれ故郷に帰ったとのことだ。

 そういうとき、「F県でなければどこでもいい」って、疎開とか避難とか称して子供を連れて行く親の話もよく聞くので、斉木がしっかり自己主張してくれてよかったと思う。
 やっぱ大事な仲間だし、何より斉木自身がここを離れることを望んでないっぽいからね(桐野がいるし)。

 でも、家族が離れ離れってのは辛いだろうな。
 南原も両親が離婚してるとのことで、「そういうのも縁なんだよ、残酷な言い方だけど」って大人びたことを言い、桐野はただただ顔をくもらせ、日高は何を考えてるのか読めない真顔。三者三様で何かおもろい。

▽▽

 さて、そうこうしているうちにクリスマスだ。
 今年は日高の家でパーティーすることになった。

 去年は斉木の家を借りた。今年もうちでいいよって言ってくれてるけど、さすがに、な。
 ケーキも親父に頼んであるし、また持ち寄りパーティーになると思うけど、日高の母ちゃんも何か作ってくれるらしい。

 そんなタイミングで、斉木と桐野が何だかぎくしゃくしているんだが、一体どうした?
 親父は「ガキが生意気にパーティーか」とか言いつつも張り切ってケーキ作ってくれるようだし(去年の力作、覚えてるだろう?)クリスマスまでには仲直りしてくれよ、な。

【『喜多川史彦』 了】
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