26 / 27
それでも ホワイトクリスマス
12月26日
しおりを挟む
その日は前々からの約束で、2歳年下のはとこのヨリコちゃんが東京から来た。
大人(3つ上の兄を含む)は手が離せなかったので、私が1人で駅まで迎えに行った。
「2人で駅前で何か食べて、バスで帰ってくる」ための軍資金として、2,000円くらい持たされた。
ここまで書いて、二つの重要なことに気づいた。
その1、当時の片山は、まだ新幹線が通っていなかった。
その2、ヨリコちゃんは1人だった。
特急か、当時はその時間に走っていたかもしれない急行に乗れば、各駅停車を使うよりも1、2時間カットできる。
また、ヨリコちゃんは家から離れた私学に通っていて、電車慣れしていた。
この二つも思い出したけれど、私より小さな子が、それだけの時間をかけて単独で来たのはやはりすごい。
駅で会うなり、「田舎ってやっぱり寒いねえ」がヨリコちゃんの第一声だった。
ちょっとカチンと来たけれど、私は24日から25日までの非日常的な経験の興奮が残っていたので、そのあたりをヨリちゃんに語って聞かせようと思った。
「お店入ろう。ドーナツ屋さんなら子供だけでも大丈夫だよね」
「マクドナルドはないの?」
「ない…」
「じゃ、ドーナツでいいか」
ヨリコちゃんはとてもとても素直で率直だった。
その分、父が雪男状態で家に帰ってきた話とか、超ミクロな小火さわぎのこととか、祖母が作ってくれたホットチョコレートの味とか、個人的なトピックスを聞かせたとき、手を叩いて大笑いしたり、「私も飲みたーい。大おばちゃん(私の祖母のこと)作ってくれるかな」と、非常にいいリアクションをもらえたので、「ああ、面白いって思ってくれたんだな」と安心した。
ただ、私には少しだけ残念なことがあった。
名前だけで「おいしそー」と思って買った「レモンパイ」が、苦手だったレモンのマーマレードがどろっと入っただけの揚げパイで、あまり口に合わなかったのだ。
飲み物として添えたのが、普段あまり飲ま(せてもらえ)ないコーラだったこともあり、さらに合わないの何のって。
食べ物の思い出というのは、よくも悪くもつきまとう。
+++
26日になってもガスは復旧していなかったので、その日の夕飯も、かき集めた「ごはんの友」的なものやふりかけ、お茶づけみたいなラインナップだった。
お風呂は近所の銭湯に行った。
「番台で三味線を弾くおじさん」というのが、かなり前の『ぴったしカンカン』でクイズのネタになったこともあるトコロで、その日も三味線の音が聞こえたので、ヨリコちゃんは「あー、テレビで見た~」と大はしゃぎだった。
ヨリコちゃも私も、大きな湯舟につかってゴキゲンだったけれど、陸湯をかぶるときに、勢い余ってよそのおばあちゃんにかかってしまい、大人たちの大目玉を食らった。
(当時はその辺の大人がその辺の子供をきつく叱るのは、普通のことだった)
腰に手を当てて飲むフルーツ牛乳は、何だか小児科でもらう水薬みたいな甘さだった。
こうして並べてみると、小6ってまだまだ子供だったのだなと思う。
ヨリコちゃんは我が家に1泊した後、同じ市内にあるお祖母ちゃん(私の祖母の妹)の家に行って、そこで年越しをした。
ヨリコちゃんのお母さんがその年離婚し、ヨリコちゃんが学校の長期休暇の間は、気晴らしも兼ねて親戚宅を転々としていたのだと知ったのは、大分後になってからだった。
大人(3つ上の兄を含む)は手が離せなかったので、私が1人で駅まで迎えに行った。
「2人で駅前で何か食べて、バスで帰ってくる」ための軍資金として、2,000円くらい持たされた。
ここまで書いて、二つの重要なことに気づいた。
その1、当時の片山は、まだ新幹線が通っていなかった。
その2、ヨリコちゃんは1人だった。
特急か、当時はその時間に走っていたかもしれない急行に乗れば、各駅停車を使うよりも1、2時間カットできる。
また、ヨリコちゃんは家から離れた私学に通っていて、電車慣れしていた。
この二つも思い出したけれど、私より小さな子が、それだけの時間をかけて単独で来たのはやはりすごい。
駅で会うなり、「田舎ってやっぱり寒いねえ」がヨリコちゃんの第一声だった。
ちょっとカチンと来たけれど、私は24日から25日までの非日常的な経験の興奮が残っていたので、そのあたりをヨリちゃんに語って聞かせようと思った。
「お店入ろう。ドーナツ屋さんなら子供だけでも大丈夫だよね」
「マクドナルドはないの?」
「ない…」
「じゃ、ドーナツでいいか」
ヨリコちゃんはとてもとても素直で率直だった。
その分、父が雪男状態で家に帰ってきた話とか、超ミクロな小火さわぎのこととか、祖母が作ってくれたホットチョコレートの味とか、個人的なトピックスを聞かせたとき、手を叩いて大笑いしたり、「私も飲みたーい。大おばちゃん(私の祖母のこと)作ってくれるかな」と、非常にいいリアクションをもらえたので、「ああ、面白いって思ってくれたんだな」と安心した。
ただ、私には少しだけ残念なことがあった。
名前だけで「おいしそー」と思って買った「レモンパイ」が、苦手だったレモンのマーマレードがどろっと入っただけの揚げパイで、あまり口に合わなかったのだ。
飲み物として添えたのが、普段あまり飲ま(せてもらえ)ないコーラだったこともあり、さらに合わないの何のって。
食べ物の思い出というのは、よくも悪くもつきまとう。
+++
26日になってもガスは復旧していなかったので、その日の夕飯も、かき集めた「ごはんの友」的なものやふりかけ、お茶づけみたいなラインナップだった。
お風呂は近所の銭湯に行った。
「番台で三味線を弾くおじさん」というのが、かなり前の『ぴったしカンカン』でクイズのネタになったこともあるトコロで、その日も三味線の音が聞こえたので、ヨリコちゃんは「あー、テレビで見た~」と大はしゃぎだった。
ヨリコちゃも私も、大きな湯舟につかってゴキゲンだったけれど、陸湯をかぶるときに、勢い余ってよそのおばあちゃんにかかってしまい、大人たちの大目玉を食らった。
(当時はその辺の大人がその辺の子供をきつく叱るのは、普通のことだった)
腰に手を当てて飲むフルーツ牛乳は、何だか小児科でもらう水薬みたいな甘さだった。
こうして並べてみると、小6ってまだまだ子供だったのだなと思う。
ヨリコちゃんは我が家に1泊した後、同じ市内にあるお祖母ちゃん(私の祖母の妹)の家に行って、そこで年越しをした。
ヨリコちゃんのお母さんがその年離婚し、ヨリコちゃんが学校の長期休暇の間は、気晴らしも兼ねて親戚宅を転々としていたのだと知ったのは、大分後になってからだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる