短編集 片山市立大原小学校高学年女子

あおみなみ

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小学5年生、クビになる

恐怖【キョーフ】のガード下

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 学校と家の間に鉄道の線路があるんだけど、私たちはトンネル(ガード下)をくぐって往復しなければならない。
 お母さんたちは、踏切を渡らなくていいから安心とか言うけど、大雨の日は水に浸かっちゃうこともあるし、暗くなると一応電気はつくけど、それでも何となく薄暗くて怖いから好きじゃない。

 この間、家が近所で4年生でオーディションに受かった村上アイちゃんって子と一緒に帰ろうとしたら、向こうからマスクをつけた女の人がやってきた。
 声をかけられたわけでもないし、一応、車が通るところを挟んで向こう側だったから、結構距離があった。
 
 でも、うまく言えないんだけど、何だか怖い。
 背が高くてやせていて、長い黒髪が印象に残る。マスクで顔が半分見えていないけど、ちょっとキレイな人っぽく見える。
 アイちゃんも私も、そのときは口には出さなかったけど、同じことを考えていたみたいだ。

「今の人って、さあ…」
「ねえ、やっぱり…」

▽▽

 それから、暗い時間にガード下をくぐるときは、「またあの人に会うかも」と思うと、すごく緊張した。
 できるだけアイちゃんと一緒に帰るようにしていたけど、アイちゃんはほかの習い事や整形外科に通っていたので、時々クラブを休んだり、早引けしたりがもともと多かったから、1人になることもある。

 怖いなあ、やだなあって思いながら歩いていたら、この間の女の人がまた来た。長い髪と細長い体に特徴があるからすぐ分かる。
 こんな季節にずっとマスクしているのもおかしいし、目立つ。

 しかも車が来ないのをいいことに、堂々と横切って私の方に近づいてきた。
 (えー、なんでなんで?)と思いながら目を合わせないようにしたけど、「ねえ、あなた…」って声かけてくるから、びっくりして逃げた。
 多分「ギャー」って叫んでたんじゃないかと思う。

▽▽

 私はその後、帰りが遅くなるのが怖くなって、しょっちゅうクラブをサボってアサミちゃんやショーコちゃんと一緒に帰った。
 どうやらアイちゃんも似たような感じだったらしい。
 そうすると、練習でもどんどんみんなと声が合わなくなってくる。

 みんなは「狂った音程につられる」と文句を言うし、怒った先生は、ある日とうとう私たちに「クビ」を言い渡した。

 ヤエちゃんに「ミナちゃん、合唱クビになったんだって?やっぱりミナちゃんには無理だと思ってたんだよね♪」って楽しそうに言われたときは、すごく腹が立ったけど、もう「悪いことしているなあ」って思いながらサボる必要はなく、毎日明るい時間に家に帰れる。

 もともとヤエちゃんにギャフンと言わせたくて入った合唱クラブだもん、辞めてもどうってことはないのだ。
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