短編集『朝のお茶会』

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
29 / 33
第8話 おじいちゃんっ子優等生

3

しおりを挟む

「おじいちゃんいつも楽しそうに、このお茶会の話をしてて。私くらいの子で常連さんがいるよって聞いて、今日は頑張って早起きしてきたんだ」
「そうだったんだ。私は1年のときからで…」
 咲良は自分がここに参加するきっかけになった「詩」の話をした。

「そうか。でも――ひょっとして、その詩、結構直されなかった?」
「え、あ、うん」
「最後はまっ赤っかで、自分の書いたものが跡形もなくなってて…」
「ひょっとして、副田さんも経験あるの?」
「うん、それでコンクールに出品しないでって頼んだことがあった」
「すごい…」

 考えてみたら、咲良の詩だってどうしてもコンクールに出してほしかったわけではない。あのとき思い切って「ここを削るなら、コンクールには出しません」と言ったのは、咲良にしては大胆な行動だったが、入選したときは、やはり少しうれしいと思ったのも事実だった。

「でもさあ、3年になったら富江とみえ賞に出品できるでしょ?そのときも添削をあの先生がやるのかと思うと、ねえ」
「富江賞、ねらってるんだ」
「うん。ちょっと頑張って書いてみたい小説があって。テーマとかプロットとかも決まってるんだけど」
「すごいな。私は詩ぐらいしか思いつかないから、無理っぽい」
「思いついたことをまずノートに書き出すんだ。そういうのを後で拾い読みしながら組み立てると、意外と書き進むの」

 富江賞というのは、「片山の中学3年生女子」限定というピンポイント過ぎる文芸賞である。
 片山ゆかりの女流作家の名前にちなんでいるらしいが、その作家自体はあまり知られておらず、「富江賞」の名前が独り歩きしていた。ちなみに男子部門も別にあり、もっと有名な作家の名前が冠されている。
 原稿用紙20枚以上の「長編」、4、5枚程度の「中編」と「詩」の3つを提出しなければならないのだが、中編に関しては、授業の中で書いたものを代用することも多いようだ。詩以外は、小説でもエッセーでも旅行記でも自由に書けるので、文字書きが好きな生徒は結構応募を意識していることが多い。

 しかし学校を素通りできない賞なので、どうしても検閲のごとき添削が入る。実際、「こういうことを書くのは望ましくない」という理由で直されることも多い。
 うわさだが、咲良たちの学校でも、深夜ラジオをテーマに書いたエッセーが、「深夜ラジオなど聞いていると、不良だと思われるから」と丸ごとボツを食らった先輩がいたとかいないとかで、表現の自由以前の話である。

「まあ、駄目元で書くけどね。そもそもあの先生、自分がそこまでして直して入選しなかったらどうする気なのかな?面目丸つぶれじゃないの?」
「手柄は自分のおかげ、失敗は生徒のせい、とか?」

 玲香の意外なほどラフな言いぶりに乗せられ、咲良まで、いつもらしからぬことを言っていた。
「へえ、工藤さん、結構言いますねえ…」
 失言だったかなとちらっと思ったが、玲香が愉快そうに言ったので安心した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

誓い

時和 シノブ
現代文学
登山に訪れ、一人はぐれてしまった少年の行方は…… (表紙写真はPhoto AC様よりお借りしています)

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...