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第8話 おじいちゃんっ子優等生
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しおりを挟む玲香は何かと華のある生徒だ。
大人っぽく整った顔立ちで成績優秀。男子たちは高根の花扱いしているせいか、あからさまにちやほやされているわけではないが、尊重しているのが見てとれる。
部活には所属していないが、スポーツは何でも無難にこなし、絵もピアノもうまく、いつも合唱コンクールでは伴奏を担当していた。
それでいて「気取っていない」というので、女子からの人気が高い。
咲良のような地味な生徒にも、笑顔でにこにこ話しかけてくるが、咲良から玲香に話しかけることはない、そんな関係である。
自分から話しかけるときは「副田さん」だが、周囲では「玲香ちゃん」と呼ばれているのをよく耳にする。「そえた」という音からすぐに彼女を連想できなかったのは、多分そのせいだろう。
「玲香と咲良ちゃん、友達だったのか?」
咲良にしてみると、副田老人が自分の名前をちゃんと覚えていたのは意外だったのだが、自分の孫と同じぐらいの娘が常連ということで、軽く気にかけていたようだ。
「うん、同じクラスの工藤さん」
「そうか。じゃ、咲良ちゃんの近くの席の方がいいかな」
「そうだね」
(え…)
咲良は困惑した。玲香が嫌いなわけではないが、あまり口を利いたことがない。話が弾むとはとても思えなかった。
バレンタインデーが近いということで、出された菓子の中には、ココア味の焼き菓子が含まれていた。これは咲良の大好物なので、最後に食べたいと思い、まずは姫まんじゅうから口に入れた。
「工藤さん、お気に入りを最後に取っておくタイプだね?」
「え?」
見ると、玲香がいたずらっぽい顔で笑っている。
「どうして分かったの?」
「私がそうだから――っていうのもあるんだけど、さりげなくココアフリアンを隅っこに寄せたでしょ?」
「あ、意識してなかった」
「だから、何も考えずに姫まんじゅうを食べたわけではないだろうなって思ったんだけど、当たってた?」
「うん…そのとおりだよ」
そう言う玲香は饅頭の方が好きらしく、フリアンのパッケージを開けていた。
「このフリアンは私も好きだけど、やっぱりお饅頭の方が好きだな」
そんなことを言いながら頬張っている顔には、本当に幸せそうな色が出ていて、咲良はつい笑ってしまった。
「どうかした?」
「あ、おいしそうに食べるなって思って」
「おいしいものは、顔全体でおいしいって意識的に表現しながら食べると、もっとおいしくなるんだよ」
「へえ…」
「って、おじいちゃんがいつも言うの」
玲香は「ほら、このとおり」という感じで、左手を軽く上げた。その先には副田老人が満面の笑みでフリアンを食べる姿があった。
多分だが玲香のしぐさは、「人を指さしてはいけません」という教えにのっとったものだろう。さりげなく育ちのよさが出ている。
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