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第2話 お弁当屋の根本さん
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しおりを挟む2011年晩秋。
片山から電車で10分程度の森宮という町で弁当の店を営む根本孝行(70歳)は、茶会が始まった頃からの大ベテランの常連で、息子夫婦が店を手伝うようになるまで、自分のところの休店日を、この茶会に合わせて第二日曜日にしていた。
もともとは片山出身で、若い頃は片山に住んでいたのだが、森宮で商売を始めてからは、朝の5時に起き、散歩がてら森宮駅まで35分かけて歩き、6時台の一番電車で片山まで来るようになった。この習慣は30年以上変わらないらしい。
ちなみに45年連れ添っている妻は甘いものが苦手らしく、一度も来たことがないという。
***
「第二日曜の俺の朝飯は、くぬぎ屋の菓子と茶だ」
温厚な人柄で社交的な根本は、さまざまな参加者と分け隔てなく会話をする。
「嬢ちゃん、先月も来てたな。幾つだ?」
「あの――中学1年です」
「中1っていうと、13とか14とか?」
「12歳です」
「そうか。おっちゃんは嬢ちゃん6周目だよ。幾つか分かる?」
「7…2歳?」
「惜しい。70歳だ」
コンクールに入選した詩を店頭に貼り出されたことがきっかけで茶会に参加するようになった工藤咲良は、不自然な愛想笑いを浮かべた。
根本は気さくであると同時に気遣いをする方なので、咲良にそれ以上話しかけることはなかった。
***
咲良は先月初めて茶会に参加し、もともと常連だった大学生の柏木あざみと親しくなった。もともと割と人見知り体質だったこともあり、あざみ本人や、あざみに話しかけてくる大先輩の「お姉さま方」とぐらいしか話さないが、そこここから聞こえてくる話に耳を傾けるのは嫌いではなかった。
「根本さんはね、森宮のお弁当屋さんなのよ」
「お弁当…ですか」
弁当屋と言われると、利用したことのある者なら、瞬時にお気に入りのお惣菜が頭に浮かぶものだが、咲良の場合はなぜか「ミカンの入ったポテトサラダ」だった。特に好きなわけでもないのに、初めて食べたときのインパクトが強かったらしい。
「あれ、そういえば…震災前にお店畳むって言ってた気がするんだけど…?」
独り言ともつかない調子であざみが言うと、近くに座っていた情報通の女性が、
「ああ、まだ続けてるって。それも地震がきっかけだったらしいけど」
と教えてくれた。
「どういうことですか?」
あざみではなく、咲良が興味を示して尋ねた。
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