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第1話 詩を書いた少女
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しおりを挟むその日はくぬぎ屋の秋の新作「いも大福」が振る舞われた。
生クリームと「いもあん」が使われた、味わい的に和菓子とも洋菓子ともつかない商品で、日本茶にもコーヒー紅茶にも合う。
あざみは何を食べるときも日本茶派だったので、迷わず日本茶を注文した。
ウキウキしながら品物を待っていると、隣の席に初めて見る顔の小柄な女の子が座っているのに気付いた。
そのさらに隣はかなり高齢の常連といっていい男性が座っていて、さらにその隣の中年女性と話している。
この子は――小学生か中学生か分からないが、この様子だと1人で参加したのだろうかと、あざみは気になった。
「初めまして。あなた、1人で来たの?」
そして、自分が初参加のときのことを思い出しながら、少女に声をかけてみた。
「あ、はい…」
「中学生、かな」
「えーと、はい、そうです」
「このお茶会、ちょっと秘密結社っぽくてさ。
知らない人も多いんだけど、誰に教えてもらったの?」
「お店の人に、どうぞって言われて…」
「え?」
くぬぎ屋では、市内の小中学生を対象に、詩や作文を募集していて、その月の優秀作を「水色風景」と書かれたガラス張りの掲示板に張り出していた。
公募のほかに、市の文芸コンクールの優秀作品を紹介することもあり、どうやらこの少女はそういう入賞者の1人らしい。
「すごいじゃん。ひょっとしてあれ?今月の『深呼吸したい』っていう詩」
「見てくれたんですか?」
少女はそのとき初めてあざみの方に顔を上げた。
その詩は、原発事故の影響で屋外活動を制限された中学生の切なる叫びのような内容で、中1にしてはちょっと背伸びした感のある言葉遣いではあったものの、とてもよく書けているなと感心したため、あざみはよく覚えていたのだ。
「私、中学校の国語の先生になりたくて大学で勉強してるんだ。
だからああいう作文とか詩とか、チェックするのが癖になってるみたいで」
「ああ、そうなんですか…」
そのとき、少女がちょっと複雑な表情をしたのが気になった。
何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
「あの――私の話、聞いてもらえますか?」
「え?ええ…」
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