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考えさせられた話【20220601】
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前回、前々回に引き続き、今回も「創作日記」からの転載です。前回はこちら。
逢坂 みえこさんのコミック『9時から5時半まで』。 経営コンサルの会社に入った錦小路(通称小錦ちゃん)が、社会人として、女性として成長していくさまを中心に描いたお話です。
時々、小錦ちゃんの先輩や同期(大半は女性)にスポットが当てられるエピソードもあり、その中でやたら印象に残ったものがありました。 キャリア志向の強い女性・染井よしの。 同期の小錦ちゃんが持ち前の素直さや頑張りでかわいがられ、活躍の場に恵まれているのを横目に、自分の不遇を恨めしく思いつつ、いろいろと諦めてはいない。 何とかチャンスをつかむものの、力み過ぎ、肝心なところで体調を崩し、全部台無しになってしまう。 その後まあいろいろあって、「閑職」扱いされている資料整理担当に。(こういう描写って二次元ではよくありますけど、実際のところどうなんだろう…)
「もう会社やめちゃおっかな」とまで気持ちが落ちたとき、元同僚が文学賞を受賞し、作家デビューしたことを知る。そこで、「よし、私も!」と発奮。 いざ書き出してみると、自分がこの境遇にいるのはアレのせいコレのせいと、書くことは尽きない。かくして、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』のもこっち状態で、ルサンチマン大爆発の恨みつらみ私情小説を爆誕させる。
執筆中、憧れの先輩にたまたまいい感じの仕事を持ち込まれても、「私、そこまで仕事仕事ってわけじゃないんで」と断り、「見込み違いだったか」と落胆させてしまう。
小説を編集者に持ち込んだ結果、その熱量は十分に伝わったものの、「現役である分、見方が公平ではない」等、芳しくない評価を受ける。
さらに、「自分の立場以外からも見つけなきゃ、小説は書けない」「小説はひとつの世界をつくるもの。日記や投書とは違う」 とも。 (相手に伝わるものを書くには、感情の暴走は禁物なんだよね。むしろそういうものを書くときほど、冷静でフラットな感覚が必要かも)
自信満々だっただけに落ち込む染井。 しかし、編集者の言うことも理解できる。 そこで、自分に関わってきた社員たちを冷静に見つめ、分析してみることに。
そしてそんな姿勢は、再び仕事への情熱につながっていく――めでたしめでたし、みたいな話でした。
初版が1990年のコミック所収なので、雑誌に載っていたのはもう少し前。バブル絶頂の頃でしょう。 「ああ、私みたいな地味な公務員(※当時)とは違う、キラッキラしたOLさんの話だな」と、ある種のファンタジーとして読んだ覚えがありますが、編集者のアドバイスが地味に頭に残っていました。 当時は何か書こうという気持ちは、自分の中にはほとんどなかったはずなのですが、不思議なものです。
マインドを切り替えた染井ちゃんを見て、「きっとこれからいい仕事をするだろうし、落ち着いたら、なかなかの小説も書くかもしれない」と、清々しい気持ちになりました。 これは逢坂さんの嫌味のない絵柄やキャラクター表現の賜物だと思いますが。
もう1つ、これは完全にどなたか失念したのですが、編集者出身の作家さんの実話です。
出版社に就職するものの、「読者のお便り担当」的な退屈な仕事をあてがわれ、少し腐ったその作家さん。 しかし少し考え直し、「じゃ、この仕事を極めてやろう」と発奮した結果、全国から届くお便りを整理する中で、地方の小さな自治体の地名、字名にも詳しくなり、結果的に作家デビューした後、それが役立っている――ということでした。
ほんと、どなただったかしら。
いい年して何者にもなれていない、思い込みと妄想だけで生きているような筆者ですが、こういう話から気付きを得られているうちは、まだ何とかなるかなと勝手に思っている次第です。
ちょっと嫌なことをいえば、『9時から…』作中の編集者が言うことは、「Web小説で人気になって、書籍化、映像化」的なことが視野に入っている作品を書いている方には、あまり関係のない話かもしれません。 話に深みやリアリティーを持たせるよりも、キャラクターをより魅力的に、とにかくワクワクさせる話を!という価値観で高見を目指すには、むしろ邪魔になることもあるでしょう。 言い方を変えると、「総花的に、当たり障りなく」みたいなのとそう変わらないし、そんな意識で書いたファンタジーがおもろいか?と。
私は人気者にならなくていいから、自分で納得できるものが書きたいし、それを読んでくださる方がいたらうれしいなと思うので、編集者の言葉を肝に銘じたい側にいます。
逢坂 みえこさんのコミック『9時から5時半まで』。 経営コンサルの会社に入った錦小路(通称小錦ちゃん)が、社会人として、女性として成長していくさまを中心に描いたお話です。
時々、小錦ちゃんの先輩や同期(大半は女性)にスポットが当てられるエピソードもあり、その中でやたら印象に残ったものがありました。 キャリア志向の強い女性・染井よしの。 同期の小錦ちゃんが持ち前の素直さや頑張りでかわいがられ、活躍の場に恵まれているのを横目に、自分の不遇を恨めしく思いつつ、いろいろと諦めてはいない。 何とかチャンスをつかむものの、力み過ぎ、肝心なところで体調を崩し、全部台無しになってしまう。 その後まあいろいろあって、「閑職」扱いされている資料整理担当に。(こういう描写って二次元ではよくありますけど、実際のところどうなんだろう…)
「もう会社やめちゃおっかな」とまで気持ちが落ちたとき、元同僚が文学賞を受賞し、作家デビューしたことを知る。そこで、「よし、私も!」と発奮。 いざ書き出してみると、自分がこの境遇にいるのはアレのせいコレのせいと、書くことは尽きない。かくして、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』のもこっち状態で、ルサンチマン大爆発の恨みつらみ私情小説を爆誕させる。
執筆中、憧れの先輩にたまたまいい感じの仕事を持ち込まれても、「私、そこまで仕事仕事ってわけじゃないんで」と断り、「見込み違いだったか」と落胆させてしまう。
小説を編集者に持ち込んだ結果、その熱量は十分に伝わったものの、「現役である分、見方が公平ではない」等、芳しくない評価を受ける。
さらに、「自分の立場以外からも見つけなきゃ、小説は書けない」「小説はひとつの世界をつくるもの。日記や投書とは違う」 とも。 (相手に伝わるものを書くには、感情の暴走は禁物なんだよね。むしろそういうものを書くときほど、冷静でフラットな感覚が必要かも)
自信満々だっただけに落ち込む染井。 しかし、編集者の言うことも理解できる。 そこで、自分に関わってきた社員たちを冷静に見つめ、分析してみることに。
そしてそんな姿勢は、再び仕事への情熱につながっていく――めでたしめでたし、みたいな話でした。
初版が1990年のコミック所収なので、雑誌に載っていたのはもう少し前。バブル絶頂の頃でしょう。 「ああ、私みたいな地味な公務員(※当時)とは違う、キラッキラしたOLさんの話だな」と、ある種のファンタジーとして読んだ覚えがありますが、編集者のアドバイスが地味に頭に残っていました。 当時は何か書こうという気持ちは、自分の中にはほとんどなかったはずなのですが、不思議なものです。
マインドを切り替えた染井ちゃんを見て、「きっとこれからいい仕事をするだろうし、落ち着いたら、なかなかの小説も書くかもしれない」と、清々しい気持ちになりました。 これは逢坂さんの嫌味のない絵柄やキャラクター表現の賜物だと思いますが。
もう1つ、これは完全にどなたか失念したのですが、編集者出身の作家さんの実話です。
出版社に就職するものの、「読者のお便り担当」的な退屈な仕事をあてがわれ、少し腐ったその作家さん。 しかし少し考え直し、「じゃ、この仕事を極めてやろう」と発奮した結果、全国から届くお便りを整理する中で、地方の小さな自治体の地名、字名にも詳しくなり、結果的に作家デビューした後、それが役立っている――ということでした。
ほんと、どなただったかしら。
いい年して何者にもなれていない、思い込みと妄想だけで生きているような筆者ですが、こういう話から気付きを得られているうちは、まだ何とかなるかなと勝手に思っている次第です。
ちょっと嫌なことをいえば、『9時から…』作中の編集者が言うことは、「Web小説で人気になって、書籍化、映像化」的なことが視野に入っている作品を書いている方には、あまり関係のない話かもしれません。 話に深みやリアリティーを持たせるよりも、キャラクターをより魅力的に、とにかくワクワクさせる話を!という価値観で高見を目指すには、むしろ邪魔になることもあるでしょう。 言い方を変えると、「総花的に、当たり障りなく」みたいなのとそう変わらないし、そんな意識で書いたファンタジーがおもろいか?と。
私は人気者にならなくていいから、自分で納得できるものが書きたいし、それを読んでくださる方がいたらうれしいなと思うので、編集者の言葉を肝に銘じたい側にいます。
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