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書くこと・書かないこと【20220530】
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【あるテスト問題】
中学2年のとき使っていた国語の教科書に、「買い物」(長谷川四郎)というタイトルの読み物が載っていました。
これは学年もタイトルも著者名も明確に思い出したわけではなく、光村図書のページで該当年度の教科書を当たったら、「2年生」のところに心当たりのあるものを見つけたので判明しました。
オー、インターネッツ スゴイデスネ!
ちなみに現在はこちらの本にも収められているようです。
→『教科書名短篇 - 少年時代 (中公文庫) 』
これが「何」かというと、この作品をソースにしたテスト(問題集があったのか、教師の作問かは失念)で、非常に印象に残る問題文があったのです。
今になって考えてみると、「そんな恣意的でブレッブレなこと、テストで聞くかなあ…『このときの作者の気持ちは』よりひどくない?」という代物だったので、テストではなく、授業中に質問されたという可能性もありますが、それはさておいて。
「この家庭があまり裕福でないことが分かる箇所を二つ書き出しなさい」
は…い…? とんでもなく「余計なお世話」ではないですか、これ。
ネタバレも厭わず、ざーっと記憶と印象だけで書き出しますと。
▼▼
ある一家の物語。父、母、息子。父は魚釣り、
母はミシンを踏んで内職中。息子が捨て子犬を連れて帰ってくる。
「うちでは飼えない、戻してこい」と言う母。泣く泣く従う息子。
その後雨。
母そわそわしながら「買い物に行く」といって外に出る。
子犬は捨てられていた場所には既にいなかった。父、帰宅。
釣果ゼロ。疲弊して「何か菓子でも食わせてくれ」と言う父。
母、今度こそ本当に買い物に出かける(了)
▲▲
このブッツブツの断片だけでも、貧しげな背景が分かる情報は幾つかありましたが、分かりやすいのは「母、内職」とか「犬が飼えない」とか、あとは(夕飯の素材調達を前提とした)父の魚釣りなどだったはず。
でもね、内職といえど、ミシンで大物をつくっていたから、割と率のいい仕事なのではないかと。すっごくもうかるわけではないにしろ。
父親の釣りも、現代の感覚だと「結構金のかかる趣味」とみなされるし、犬が飼えないのも、家族のだれかがアレルギーの可能性もあるでしょ? 作中では多分「借家だから」とか、そんな理由だと思うけれど。
『こち亀』の中川圭一さんとか『テニプリ』の跡部景吾ぼっちゃんなら、下々生まれ下々育ちの自分たちには分からない点に目をおつけになるかもしれない。
もっといえば、作者がこだわった描写に、作問した人も教師も気付いていないだけかもしれない。
いろんな可能性をキャンセルした上で、あくまで一般論で考えなくてはいけない。これはなかなかの難問です。
当時は模範解答的なものにたどりつけないと絶望したものですが、今はこうして無責任にネタにできるので、それだけでも「あー、大人になってよかった」と思える設問ともいえます。
【感想をいただくのはうれしいけれど】
はばかりながら小説っつうものを書いて、人様に読んでいただき、時には感想を書いていただくということもあります。 そこでご指摘いただいて、初めて気付くことがたくさんありますが、中でも「○○について書いていないので、想像ですが…」というものにはハッとします。
素人がWebで「お目汚しですが」と言いつつ書かせてもらっているものですから、それを指摘されたら、しれっと書き足してもいい気もするのですが(あまりにも多いときは、いったん非公開にした後にアップし直すとか)、それができない場合もあります。その理由は、以下の二つ。
●「あえて書かなかったこと」への指摘だった場合
筆者としては、ちょっとイキった表現をすれば「秘すれば花」くらいの気持ちで書かなかっただけなのですが、そのせいで全体的に分かりにくくなっているなら本末転倒というものです。
●「考えてもいなかったこと」への指摘だった場合
これもある意味、1とほぼ同列に考えてもいいかもしれません。 前提としていなかったことだから、仮に思い浮かんだとしても、書いたかどうかは分からないのです。
【苦い思い出】
大昔、とあるレディコミ誌(※すけべ系ではありません)の原作コンペに応募して、末等にひっかかって賞金1万円ゲットしたことがあります。
末等だったのでコミック化もされていないし、雑誌には講評と簡単なあらすじ、そしてペンネームくらいしか載っていなかったので、仮にそれを目にした方がこれを読んでも、「あー、あれか」とはならないでしょう。
登場人物は、妻の浮気が発覚して離婚の危機に瀕した夫婦と一人娘。
実は妻はかなりのほほんとしており、夫は妻に離婚を迫りながらも、実際心が決まっていません。
両親が大好きな娘は、2人を何とか仲直りさせたいと奮闘するのですが…というお話でした。
私はこの話に妻の浮気相手は一切出しませんでしたし、浮気に走った動機や経緯も一切書きませんでした。「そこ」は自分にとっては重要ではなかったからです。
しかし講評では、「妻が浮気をした理由が書いていない」ことを「駄目な点」として挙げられました。
女性が戦う系の物語で、「女性が生理中の描写がない!リアルじゃない!」といういちゃもんがつくという話を聞きます。 しかし例えば、「朝起きて歯磨くシーンがない。でも朝ご飯食べた後も磨かない。この人虫歯だらけなの?」と考える人がいるでしょうか。
毎回このレベルを要求されたら、やはりきつい…
百歩譲って、「私の」話には、本来離婚に走ったきっかけや理由の描写が必要だったとしても、書いた本人が不要と思ったから書かなかっただけ。 だったらそもそも末等とはいえ入選させんなって話なのです。
それとも、妻が離婚した理由さえ書いてあったら、もう少し評価が上がったのかなと。
まあ、そんなわけはないでしょう。
そうか。
私がいまいち「弾けられない」理由は、ハヤリモノが書けないとか文章が堅いとか以前に、この辺にあるのでしょうか。
とはいえ、それらにきちんと対策できるなら、とっくにやっているわけで…。
前提というか、自分がこれを書くべきだと思って書いていることが、読んでくださる方の要望とミスマッチを起こしているわけですから、もう頭ごと「よその誰か」のものと取り換えるしか手がありません。
ならばもう、開き直って書きたいものを書いた方が得だなと、いつもの結論に落ち着くばかりです。
ちなみにですが、今まで一番ぐさっとした感想(指摘)は、エッセイというか雑文に対する「これ書くって何か意味あるの?」でした。
私だったら文章を読んでそういう感想を抱いた場合、スルー一択ですけどね。
中学2年のとき使っていた国語の教科書に、「買い物」(長谷川四郎)というタイトルの読み物が載っていました。
これは学年もタイトルも著者名も明確に思い出したわけではなく、光村図書のページで該当年度の教科書を当たったら、「2年生」のところに心当たりのあるものを見つけたので判明しました。
オー、インターネッツ スゴイデスネ!
ちなみに現在はこちらの本にも収められているようです。
→『教科書名短篇 - 少年時代 (中公文庫) 』
これが「何」かというと、この作品をソースにしたテスト(問題集があったのか、教師の作問かは失念)で、非常に印象に残る問題文があったのです。
今になって考えてみると、「そんな恣意的でブレッブレなこと、テストで聞くかなあ…『このときの作者の気持ちは』よりひどくない?」という代物だったので、テストではなく、授業中に質問されたという可能性もありますが、それはさておいて。
「この家庭があまり裕福でないことが分かる箇所を二つ書き出しなさい」
は…い…? とんでもなく「余計なお世話」ではないですか、これ。
ネタバレも厭わず、ざーっと記憶と印象だけで書き出しますと。
▼▼
ある一家の物語。父、母、息子。父は魚釣り、
母はミシンを踏んで内職中。息子が捨て子犬を連れて帰ってくる。
「うちでは飼えない、戻してこい」と言う母。泣く泣く従う息子。
その後雨。
母そわそわしながら「買い物に行く」といって外に出る。
子犬は捨てられていた場所には既にいなかった。父、帰宅。
釣果ゼロ。疲弊して「何か菓子でも食わせてくれ」と言う父。
母、今度こそ本当に買い物に出かける(了)
▲▲
このブッツブツの断片だけでも、貧しげな背景が分かる情報は幾つかありましたが、分かりやすいのは「母、内職」とか「犬が飼えない」とか、あとは(夕飯の素材調達を前提とした)父の魚釣りなどだったはず。
でもね、内職といえど、ミシンで大物をつくっていたから、割と率のいい仕事なのではないかと。すっごくもうかるわけではないにしろ。
父親の釣りも、現代の感覚だと「結構金のかかる趣味」とみなされるし、犬が飼えないのも、家族のだれかがアレルギーの可能性もあるでしょ? 作中では多分「借家だから」とか、そんな理由だと思うけれど。
『こち亀』の中川圭一さんとか『テニプリ』の跡部景吾ぼっちゃんなら、下々生まれ下々育ちの自分たちには分からない点に目をおつけになるかもしれない。
もっといえば、作者がこだわった描写に、作問した人も教師も気付いていないだけかもしれない。
いろんな可能性をキャンセルした上で、あくまで一般論で考えなくてはいけない。これはなかなかの難問です。
当時は模範解答的なものにたどりつけないと絶望したものですが、今はこうして無責任にネタにできるので、それだけでも「あー、大人になってよかった」と思える設問ともいえます。
【感想をいただくのはうれしいけれど】
はばかりながら小説っつうものを書いて、人様に読んでいただき、時には感想を書いていただくということもあります。 そこでご指摘いただいて、初めて気付くことがたくさんありますが、中でも「○○について書いていないので、想像ですが…」というものにはハッとします。
素人がWebで「お目汚しですが」と言いつつ書かせてもらっているものですから、それを指摘されたら、しれっと書き足してもいい気もするのですが(あまりにも多いときは、いったん非公開にした後にアップし直すとか)、それができない場合もあります。その理由は、以下の二つ。
●「あえて書かなかったこと」への指摘だった場合
筆者としては、ちょっとイキった表現をすれば「秘すれば花」くらいの気持ちで書かなかっただけなのですが、そのせいで全体的に分かりにくくなっているなら本末転倒というものです。
●「考えてもいなかったこと」への指摘だった場合
これもある意味、1とほぼ同列に考えてもいいかもしれません。 前提としていなかったことだから、仮に思い浮かんだとしても、書いたかどうかは分からないのです。
【苦い思い出】
大昔、とあるレディコミ誌(※すけべ系ではありません)の原作コンペに応募して、末等にひっかかって賞金1万円ゲットしたことがあります。
末等だったのでコミック化もされていないし、雑誌には講評と簡単なあらすじ、そしてペンネームくらいしか載っていなかったので、仮にそれを目にした方がこれを読んでも、「あー、あれか」とはならないでしょう。
登場人物は、妻の浮気が発覚して離婚の危機に瀕した夫婦と一人娘。
実は妻はかなりのほほんとしており、夫は妻に離婚を迫りながらも、実際心が決まっていません。
両親が大好きな娘は、2人を何とか仲直りさせたいと奮闘するのですが…というお話でした。
私はこの話に妻の浮気相手は一切出しませんでしたし、浮気に走った動機や経緯も一切書きませんでした。「そこ」は自分にとっては重要ではなかったからです。
しかし講評では、「妻が浮気をした理由が書いていない」ことを「駄目な点」として挙げられました。
女性が戦う系の物語で、「女性が生理中の描写がない!リアルじゃない!」といういちゃもんがつくという話を聞きます。 しかし例えば、「朝起きて歯磨くシーンがない。でも朝ご飯食べた後も磨かない。この人虫歯だらけなの?」と考える人がいるでしょうか。
毎回このレベルを要求されたら、やはりきつい…
百歩譲って、「私の」話には、本来離婚に走ったきっかけや理由の描写が必要だったとしても、書いた本人が不要と思ったから書かなかっただけ。 だったらそもそも末等とはいえ入選させんなって話なのです。
それとも、妻が離婚した理由さえ書いてあったら、もう少し評価が上がったのかなと。
まあ、そんなわけはないでしょう。
そうか。
私がいまいち「弾けられない」理由は、ハヤリモノが書けないとか文章が堅いとか以前に、この辺にあるのでしょうか。
とはいえ、それらにきちんと対策できるなら、とっくにやっているわけで…。
前提というか、自分がこれを書くべきだと思って書いていることが、読んでくださる方の要望とミスマッチを起こしているわけですから、もう頭ごと「よその誰か」のものと取り換えるしか手がありません。
ならばもう、開き直って書きたいものを書いた方が得だなと、いつもの結論に落ち着くばかりです。
ちなみにですが、今まで一番ぐさっとした感想(指摘)は、エッセイというか雑文に対する「これ書くって何か意味あるの?」でした。
私だったら文章を読んでそういう感想を抱いた場合、スルー一択ですけどね。
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