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「ヒトコワ」の恐怖
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心霊現象や猟奇殺人とはまた違う、「人間の怖さ」がテーマの「ヒトコワ」に惹かれます。
殊に、ごくごく常識的に見える人が、自覚なく静かに狂っているみたいな描写が好きで、自分で書いていきたいと思っているのですが……自分なりにぼちぼちやっていくのみです。
ちょっとした徒歩や公共交通機関での移動の際、You Tubeでまとめられた「ヒトコワ」「イヤミス(読んでいて嫌な気持ちになるミステリー)」などをラジオがわりに聞いたりするのですが、最近見たもので、こんな感じのストーリーがありました。 元ネタは一緒で構成が異なるものはほかにもあるかもしれませんが、とりあえず、私が聞いて(見て)ひっかかったものです。
▼▼
語り手(以下「A」)は大学生。
高校までは陰キャを自認していたが、何とか見てくれを整えて、気のおけない友人も少しできる。
ある日学内で、背が高くてさわやかなイケメンBが親し気に接近。
「高校時代の同級生」を名乗る彼にAは全く覚えがない。高校時代に撮った集合写真を見せられても思い出すことができない。Aもその写真に写ってはいたが、写真そのものは自分の手元にはなかった。
感じのいいBは、Aのほかの友達とも仲良くなり、ごく普通に遊び友達グループになるが、Aにしてみると、覚えのない高校時代の同級生Bの存在は、正直いえば不気味なものだった。
Aは地元の友人や母親にBの写真を送るなどして確認するが、みな異口同音に「知らない」と言う。
ひょっとしてBが元同級生というのはウソなのではないかと疑念を抱いたAは、「同じアングルの集合写真を持っている人に確認したら?」という友人の一人の提案を試すことに。
結果、その写真でBが写っている箇所に実際に写っていたのは全くの別人で、Bが提示した写真は合成だったことが判明。
Aが思い切ってBに写真のことを問い詰めるとあっさり認め、このように語り出す。
「自分は小5のときに転校したが、それまでAにいじめられていた」
そう言われてAは初めて自分がBにした仕打ちを少しずつ思い出すが、BがAに友好的に近づいてきた真の目的が全く分からない。
また、Bがほかの連中に、小学校時代とはいえAがいじめをしていたことを話す可能性もあるため、せっかく築いた人間関係が壊れてしまうのではと気が気ではない。
▲▲
Aは自分を「目立たない陰キャ」考えているので、そもそも人をいじめるわけなどないというのが「前提」にあったはずですが、実はBに対して暴言を吐いていたこと、物を隠したことなど、一つ思い出すごとに、徐々に当時の記憶がよみがえってきます。
そんなAを、一体内心どう思っているのか分からないまま、ごく普通にあいさつをしてくるB……。
これはB目線だったらどんな物語になるのでしょう。怖いというよりも、大変興味深いところです。
などと思っていたら、動画に付けられたコメント欄を読んで、むしろゾッとしました。
ざっと言うと、Bの無言の圧力のような復讐行為への賛辞が多かったのです。
「Aは被害者ヅラをせず、まずはBに謝罪すべき」とか「Bの復讐最高!もっとやれやれ!」という調子です。
「いじめた方は覚えていないが、いじめられた方は決して忘れない」というのもごもっともではあります。
多分コメントをしている人の多くはいじめ被害経験者、または実態はどうでも「その立場で物をおっしゃっている人」ということでしょう。
***
さて、ここで「いじめた方は覚えていない」という言葉をいま一度思い出してみましょう。
Aを責め立て、Bを賞賛する人々は、「自分に記憶のない誰かへの加害」が、これまでの人生で全くなかったとなぜ言い切れるのでしょう。だって……覚えていないんでしょう?ここでもう矛盾してるじゃあないですか。
「そんなつもりじゃなかった」言動で誰かを深く傷つけることはよくあります。それは誰か、殊に被害を申告する人に言われない限り、一生気づかないかもしれません。気づいたり思い出したりしなければ、自分はいじめっ子だった経験は一度もない――と言い切れてしまうわけです。
「B目線なら、スカッと系の話になるのでは」という意見もありました。
うーん、これもどうでしょうね。 私はVyondを使ったスカッと系動画も割と見ますが、時々「さすがにオーバーキルでは…」とマジで思うものも散見されます。
それらは所詮は二次元なので、絶対的な善性VS.何が何でも悪サイドという世界であってもまあいいのです。
でも、大きな声では言えませんが、それでも時には善玉系の復讐や成敗に、さすがに何様のつもりだよ(怒)感を覚えることもあります。
といっても、悪玉の方には同情の気持ちが全く湧かないのですが。
繰り返しますが、あれはあくまで二次元。爽快感を得、カタルシスを覚えられれば成功は成功です。
しかし「ヒトコワ」はあくまで生きた人間の心の動きや、ヒトモドキとでも言いたくなるような所業、そして時には復讐方法に関する「怖さ」が肝です。
全て人間が絡むがゆえの弱さ――だからこそ「うわ、コメ欄地獄じゃん」と思うのも、個人的には「そういう怖さ」と捉えるべきなのでしょうか。
***
ところで、Bは本当に「復讐」のためにAに近づいたのでしょうか。
コミック『MASTERキートン』第11巻のCHAPTER:6『聖夜の邂逅』というエピソードがあります。
実はパブリックスクールの同級生だった2人の男、今や人気作家のエヴァンスと、出版業界で働くマーチンのディナーのシーンから始まる物語。
エヴァンスが新作の構想をマーチンに語って聞かせるのですが、それは2人がパブリックスクール時代のある事件がもとになっていて……。
ネタバレを防ぐため多くは語りませんが、ダークさを漂わせつつ希望に満ちたものでした。
「こういう展開」だってあり得るんじゃないかなと思うのです。
でもまあBがAに真相を語る部分での言葉選びが、「深い恨み持ってる人」のソレだったので、残念ながら「そうはならんやろ」と。
それでも、当事者のA(仮)ですら正しく想像できない案件なのだから、ちょっとぐらい希望も持ちたいってもんです。
殊に、ごくごく常識的に見える人が、自覚なく静かに狂っているみたいな描写が好きで、自分で書いていきたいと思っているのですが……自分なりにぼちぼちやっていくのみです。
ちょっとした徒歩や公共交通機関での移動の際、You Tubeでまとめられた「ヒトコワ」「イヤミス(読んでいて嫌な気持ちになるミステリー)」などをラジオがわりに聞いたりするのですが、最近見たもので、こんな感じのストーリーがありました。 元ネタは一緒で構成が異なるものはほかにもあるかもしれませんが、とりあえず、私が聞いて(見て)ひっかかったものです。
▼▼
語り手(以下「A」)は大学生。
高校までは陰キャを自認していたが、何とか見てくれを整えて、気のおけない友人も少しできる。
ある日学内で、背が高くてさわやかなイケメンBが親し気に接近。
「高校時代の同級生」を名乗る彼にAは全く覚えがない。高校時代に撮った集合写真を見せられても思い出すことができない。Aもその写真に写ってはいたが、写真そのものは自分の手元にはなかった。
感じのいいBは、Aのほかの友達とも仲良くなり、ごく普通に遊び友達グループになるが、Aにしてみると、覚えのない高校時代の同級生Bの存在は、正直いえば不気味なものだった。
Aは地元の友人や母親にBの写真を送るなどして確認するが、みな異口同音に「知らない」と言う。
ひょっとしてBが元同級生というのはウソなのではないかと疑念を抱いたAは、「同じアングルの集合写真を持っている人に確認したら?」という友人の一人の提案を試すことに。
結果、その写真でBが写っている箇所に実際に写っていたのは全くの別人で、Bが提示した写真は合成だったことが判明。
Aが思い切ってBに写真のことを問い詰めるとあっさり認め、このように語り出す。
「自分は小5のときに転校したが、それまでAにいじめられていた」
そう言われてAは初めて自分がBにした仕打ちを少しずつ思い出すが、BがAに友好的に近づいてきた真の目的が全く分からない。
また、Bがほかの連中に、小学校時代とはいえAがいじめをしていたことを話す可能性もあるため、せっかく築いた人間関係が壊れてしまうのではと気が気ではない。
▲▲
Aは自分を「目立たない陰キャ」考えているので、そもそも人をいじめるわけなどないというのが「前提」にあったはずですが、実はBに対して暴言を吐いていたこと、物を隠したことなど、一つ思い出すごとに、徐々に当時の記憶がよみがえってきます。
そんなAを、一体内心どう思っているのか分からないまま、ごく普通にあいさつをしてくるB……。
これはB目線だったらどんな物語になるのでしょう。怖いというよりも、大変興味深いところです。
などと思っていたら、動画に付けられたコメント欄を読んで、むしろゾッとしました。
ざっと言うと、Bの無言の圧力のような復讐行為への賛辞が多かったのです。
「Aは被害者ヅラをせず、まずはBに謝罪すべき」とか「Bの復讐最高!もっとやれやれ!」という調子です。
「いじめた方は覚えていないが、いじめられた方は決して忘れない」というのもごもっともではあります。
多分コメントをしている人の多くはいじめ被害経験者、または実態はどうでも「その立場で物をおっしゃっている人」ということでしょう。
***
さて、ここで「いじめた方は覚えていない」という言葉をいま一度思い出してみましょう。
Aを責め立て、Bを賞賛する人々は、「自分に記憶のない誰かへの加害」が、これまでの人生で全くなかったとなぜ言い切れるのでしょう。だって……覚えていないんでしょう?ここでもう矛盾してるじゃあないですか。
「そんなつもりじゃなかった」言動で誰かを深く傷つけることはよくあります。それは誰か、殊に被害を申告する人に言われない限り、一生気づかないかもしれません。気づいたり思い出したりしなければ、自分はいじめっ子だった経験は一度もない――と言い切れてしまうわけです。
「B目線なら、スカッと系の話になるのでは」という意見もありました。
うーん、これもどうでしょうね。 私はVyondを使ったスカッと系動画も割と見ますが、時々「さすがにオーバーキルでは…」とマジで思うものも散見されます。
それらは所詮は二次元なので、絶対的な善性VS.何が何でも悪サイドという世界であってもまあいいのです。
でも、大きな声では言えませんが、それでも時には善玉系の復讐や成敗に、さすがに何様のつもりだよ(怒)感を覚えることもあります。
といっても、悪玉の方には同情の気持ちが全く湧かないのですが。
繰り返しますが、あれはあくまで二次元。爽快感を得、カタルシスを覚えられれば成功は成功です。
しかし「ヒトコワ」はあくまで生きた人間の心の動きや、ヒトモドキとでも言いたくなるような所業、そして時には復讐方法に関する「怖さ」が肝です。
全て人間が絡むがゆえの弱さ――だからこそ「うわ、コメ欄地獄じゃん」と思うのも、個人的には「そういう怖さ」と捉えるべきなのでしょうか。
***
ところで、Bは本当に「復讐」のためにAに近づいたのでしょうか。
コミック『MASTERキートン』第11巻のCHAPTER:6『聖夜の邂逅』というエピソードがあります。
実はパブリックスクールの同級生だった2人の男、今や人気作家のエヴァンスと、出版業界で働くマーチンのディナーのシーンから始まる物語。
エヴァンスが新作の構想をマーチンに語って聞かせるのですが、それは2人がパブリックスクール時代のある事件がもとになっていて……。
ネタバレを防ぐため多くは語りませんが、ダークさを漂わせつつ希望に満ちたものでした。
「こういう展開」だってあり得るんじゃないかなと思うのです。
でもまあBがAに真相を語る部分での言葉選びが、「深い恨み持ってる人」のソレだったので、残念ながら「そうはならんやろ」と。
それでも、当事者のA(仮)ですら正しく想像できない案件なのだから、ちょっとぐらい希望も持ちたいってもんです。
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