サハラ砂漠でお茶を

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
26 / 30
第10章 トラブル再び

一難去って…

しおりを挟む


 久々(体感)に創さんから電話が来た。一応、「お昼まだならどう?おごりにしとくから」というお誘いだったので、現金な女になり切って、「はい、じゃ、ゴチになります」と応じた。

 いつもの卵サンドとブレンド。
 わだかまりを持ったままではいけないという、「大人な」創さんの配慮込みで、いつもの2割増しおいしく感じる。

 誘った理由は、そういう配慮もちろんあったんだと思うけど、創さんは別件で私に話したいことがあったようだ。

「あのね…ちょっと気になる電話が来たんだよね、昨日…」
「気になる?」
「女性の声で、名乗りはしなかったんだけど…『お宅の隣にコヅカって女の人住んでませんか?』って」
「え…?」
「で、俺もとっさでびっくりして、『なぜそんなことを?』とか何とか言っちゃったんだけど、そしたら切れて。これって『住んでます』って言ったも同然だよね?」
「ん? ああ、まあそうですね…」
 その女性とやらの電話してきた意図や、通話中の空気感までは分からないけれど、そう聞かれて「なぜ?」とか答えたら、少なくとも深読みはされるだろう。

「だからさ、またトラブルがあったらアレだと思って」
「そうですね、気を付けますね」
「あ、違う違う。もし何かあったら、店でもウチでも駆け込んでってこと」
「え?」
「そんな不用意な対応した以上、今回ばかりは俺も無関係ではなくなっちゃったわけだから」
「なんか私、いつも創さんには迷惑ばっかりかけていますね…」
「いやいや、そういう意味じゃなくて、その…もっと頼ってっていうか…」
「…」

 創さんは優しくて大人だ。
 だから、一度寝たぐらいで「お前は俺の女」みたいな態度は取らない。
 むしろ感じなくていい責任を感じて、私にこんなに優しくしてくれるのだろう。

「あの、創さん」
「ん?」
「創さんの気遣いはすっごくうれしいんですけど、そこまで気にしなくていいんですよ?」
「え?」
「私からしたことです。『責任取って』なんて言いませんから」
「いや、俺はその…」
「ごちそうさまでした」
「ああ…また、おいで…」

 私、頑張って笑顔をつくったつもりだけど、うまく笑えていたかな?

◇◇◇

 部屋に帰って冷静になって考えてみたら、電話の主が何となく分かった気がする。
 多分、萱間博次の奥さんだろう。
 私の家の番号は五十音順電話帳ハローページには載せていないから、先方が住所や名前を知っていたとしても、番号案内104でも教えてもらえないはず(※下記注)。
 「サハラ」という喫茶店の番号は、職業別電話帳タウンページにしっかり載っているから、簡単に調べられる。で、打診したってところだろう。

 萱間の手際の悪さが手に取るように分かった。
 あくまで推測だけど、多分バス停の名前とか、近所に何があったかとかメモって、それを奥さん(仮定)に見つかったってところだろう。
 しかも私の名前(姓だけかフルで知ってるかは分からないけれど)を知られるようなスキも、何かつくってしまっていたようだ。

 下衆の勘ぐりで「自分の子じゃないかも」とか泣き言言ってる暇があったら、奥さんに不審な行動を探られないように気を付けろって話だよ、まったくぅ。
 どうでもいい過去の男で終わらせたいのに、後出しでさらに失望させるのやめてほしい。

 人の男を寝取った相手であっても、それは結婚前の話だから、今は妻であるアチラさんの方が立場は強い。
 「ウチの人に手を出さないで!」とか泣き崩れられたら、私は反論できる筋合いにないのだ。

 考えれば考えるほど、タメ息しか出てこない事態になっちゃっているのかも。

***
※当時の記憶で書いているのですが、実際「ハローページに番号を掲載しないで」と頼めば、掲載されないと同時に「104の番号案内でも番号を教えられない」仕様になっていたはずです。当時はこれが不便で、「何の意味があってそんなことをするんだろう?」と思っていましたが、逆に、不特定多数の人に番号を知られたくないから掲載しないのに、番号案内で知られちゃったら意味ないなと気づきました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分かりました。じゃあ離婚ですね。

杉本凪咲
恋愛
扉の向こうからしたのは、夫と妹の声。 恐る恐る扉を開けると、二人は不倫の真っ最中だった。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愛する人が妊娠させたのは、私の親友だった。

杉本凪咲
恋愛
愛する人が妊娠させたのは、私の親友だった。 驚き悲しみに暮れる……そう演技をした私はこっそりと微笑を浮かべる。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...