20 / 30
第8章 分岐の夜
分岐の夜
しおりを挟むそして、「何の話ですか?手短にお願いできますか?」と、できるだけよそよそしく質問し、「俺の子じゃないかも」発言へとつながる。
「え…?」
「俺に全然似てないし、かわいいと思えない」
「…」
「それこの間、そういうドラマ見ちゃって」
「ドラマ?」
それはある女性が、なかなか子供ができないことを姑に責められ、血液型が同じ浮気相手との間に子供を作ろうとする話だったらしい。
浮気の可否はともかく(可の人もゼロじゃないだろうから)、血液型同じったって、例えば同じA型でもAAとAOがあるから、旦那がAA、浮気相手がAOだった場合、女性の血液型によっては、あり得ないO型が生まれる可能性もあるし、俄然面倒くさくなるが「シスAB」って例もある。
この人は生物の時間寝てたのかしら?とか、ツッコミどころの多い話だが、まあそういう雑な方法で女性は妊娠した。何か悲劇的な結末だったらしいけど、長くなりそうだし興味もないので「とにかく、そういう話があったのね?」で強制終了させた。
「で、それがあなたの子と何か関係あるの?」
「女房が――途中でわざとらしく『(赤ちゃん)寝てる間にアタシお風呂入ってくる。泣いたらお世話頼むね』って言ったんだ」
これは…(は?)の五乗ぐらいの不可解さだ。
「それがなんなの?」
「女房はドラマが大好きなんだ。途中まで見て風呂に入るなんて不自然じゃない?」
「いや…」
状況からして、赤ちゃんが寝ているすきにお風呂に入りたかっただけではないだろうか。額面通り受け取っても問題のなさそうな発言だと思う。
あとはドラマが退屈とか、好みじゃなかったとかで、どうでもよくなったとか。
「それ以来、全てが疑わしく見えてさ…」
どっちにしても、だ。もし萱間の子じゃなかったとして、今さら私に何の関係があるんだろう。変装までして後を付けて、どうかしてるでしょ。
「親子鑑定ってのがあってさ」
「うん、あるらしいね」
「頼んでみようかなと思って。金はかなりかかるらしいけど」
「…なんで?」
「それでもし俺の子じゃないって分かったら――やり直さないか?」
「はあっ?」
「だって、だったらこの結婚自体が間違いだったんだから」
「!!」
「俺は本当は君と別れたくなんかなかった。でも(自殺するって)脅されて結婚したんだよ。君はあっさり別れに同意しちゃうし、正直寂しかった…」
私は萱間が全部言い終わる前に、コップの水を萱間めがけてかけていた。
「なに…これ?」
萱間はあっけに取られて言った。
私はひと呼吸置いた。
「分かった。こういうとき言うんだね、『おととい来やがれ』ってセリフ!」
「え…?」
「もうあんたの顔なんか二度と見たくない。またこんなことしたら、遠慮なくあんたの奥さんに言うから!警察にも通報するよ!」
「あ、あ…」
萱間は無言で逃げるように去っていった。
◇◇◇
『君のひたむきな目が好きだ』
『このミートソース、サイコー!毎日だって食えそう』
『次の誕生日には君の誕生石買ってあげる。指輪とネックレス、どっちがいい?』
萱間があれこれと言った「ちょっといいセリフ」を思い出しても、不愉快さしか催さない。
そういやネックレス買ってもらったなあ。
あれが萱間からの最後のプレゼントだった。
モノには罪はないと思って持っていたけれど、もう捨てちゃおかな。
サイアクだ…。
あんな不愉快な男に、こんな不愉快な思いをさせられただけでも不愉快なのに、それを創さんに見られてしまった。
小さなお店だし、話もある程度聞こえたろう。
「ミヨシちゃん、大丈夫?」
幸いほかに客はいなかった。
創さんが布巾を持ってテーブルを拭きにきたのを見て、さすがの私も崩れた。
「ごめ…ん…なさい…みっともないとこ…」
「いや、その…」
創さんはテーブルを拭く前に、私をぎゅっと抱きしめた。
多分、泣いている小さな娘ちゃんをなだめるくらいの感覚だったんだろう。
大人の彼が、痴話げんか?で泣いている小娘を「どーどー」ってね。
小娘って年でもないけれど。
それにしても、何も言わないで「ぎゅっ」されるのはきつい。私が何か言わなきゃ、この空気を打破できない。
「あの…」
「ん?」
「怖いです…」
「怖い?」
「あいつ…また来たらどうしよう…」
今日のことで分かったけれど、私はかなり萱間になめられているようだ。
「今晩だけでいいんです。私と一緒にいてくれませんか?」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる