サハラ砂漠でお茶を

あおみなみ

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第7章 困った男

急襲 その1

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 高校時代の担任だった草笛くさぶえ先生は、国語担当だったからなのか、文学青年崩れだったからなのか知らないけれど、生徒に授業外で作文を書かせるのが好きだった。
 しかも、それを結構いい感じの文集として編んでくれちゃったりして、配布しちゃったりしてくれた。

「『文は人なり』という言葉がある。長く情熱的に書いても、ぽつんとたった1行だったとしても、その人間の内面を反映するものだ。俺はそのどっちも評価する」
 とか何とか、冗談とも本気ともつかない顔で言いながら原稿用紙(ファクス送信に使うような方眼紙)を配った。

 自分自身もちょっとした一文を載せるんだけど、それもまあまあ(一部では)好評だったと思う。

 生徒達も最初は「えー、面倒くさい…」って感じだったけれど、そのうち慣れて、文章以外にもイラストも自分で描いて載せたりするようになった。文字も絵もそのまま反映されるという意味でも、なるほど、「文は人なり」だったのかもしれない。

 それにみんな、意外と自分を表現するのが好きなんだよね。
 配られたものを読むのがまた楽しみになっていた。

 その文集の中でそこそこ物議を醸したのが、安原やすはらいづみちゃんという名の、四姉妹の末っ子というリアル『若草物語』のような子が、自分の出生時のプチ騒動を書いたものだった。

◇◇◇

「父の失言   安原いづみ

 私には25歳、23歳、20歳の姉がいます。父は元高校球児のせいか、「息子が生まれたらキャッチボールをしよう」という夢を持っていましたが、肝心の男の子がなかなか生まれませんでした。
 そして一番下の姉が3歳のとき母の妊娠が分かり、父は「今度こそ男だ。4度目の正直ってやつだ」などと言い、「気が早いんじゃないの」と母に言われながらグローブを買ってきたり、姉たちに「弟をかわいがれよ」と言ったりしていました。
 しかし生まれてきた赤ちゃん、つまり私には、男の子のシンボルがついていませんでした。
 父は落胆した後、気を取り直したかと思ったら、事もあろうに「この子は俺の子じゃない。俺の子なら男のはずだ」と言ったそうです。
 母は怒り狂い、姉たちは混乱しました。
 母は退院後、しばらく口を利かなかったし、父が私を抱っこしようとすると、「他人の子に勝手に触らないで!」と言ったそうです。
 父は自分の言ったことの重さを反省し、平謝りに謝って、母に誕生石のトルコ石の指輪を贈ったといいます。この間、自慢げに見せてくれました。
 今となっては笑い話ですが、私は小さい頃からキャッチボールの相手をさせられ、それがこうじて小学校4年からソフトボールを始めました。」

◇◇◇

「男は自分で産めないから、生まれた子供が間違いなく自分の子供だという自信が持てないことがある」
 …まあ一理ある。それは認めないでもない。

 また、さすがに結婚している夫婦間で妊娠を告げたときは、特殊な状況を除いて言わないだろうけど、たった1秒で女性を怒らせるこんなフレーズもある。

「本当に俺の子か?」

 生まれた後にやらかしたいづみちゃんのお父さんも大概だけど、これを言われて何らの動揺もしない女性はまずいないだろう。
 セックスのパートナーがきちんと決まっている場合なら、「当たり前でしょ?」と怒るだろうし、そうでないなら「痛いとこ突いてくるなあ…」あたりだろうか。
 私には妊娠の経験がないから、男性からこれを言われた経験も当然ない。

 なかったはずなのに、今、目の前にいる元カレの口から聞いてしまった。

「あの子は――俺の子じゃないかもしれない…」
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